さんじゅうよん
「妖狐の側面?」
「そう。オーウェン公爵は、妖狐と人間のハーフでしょう。どちらの側面ももってる」
確かにオーウェン様は、妖術を使ったり、変装したりできるけれど……。
「一度、オーウェン公爵の妖狐の側面の方がかなり強くなったことがあるの。今回も、その兆候があるんじゃないかって、問題になってる」
妖狐の側面の方が強くなったことがある。それを聞いて、私の脳裏にある過去が思い浮かんだ。
「兆候?」
「ええ。オーウェン公爵が、あなたを助けるために妖術を使ったでしょう? そのことにひっぱられてるんじゃないかって。最近のオーウェン公爵に何か変わった点はなかった?」
オーウェン様の変わったところ。自分で言うのもなんだけれども、私に対して以前にも増して、甘くなった、以外は特に何も。
私が首を振ると、ベネッタは安心したように息をついた。
「それなら、良かった。……私の話は以上よ。長居して、ごめんなさい」
そういって去ろうとするベネッタに声をかける。
「待って!」
「どうしたの? そんなに慌てて」
こんなこと。いきなりいっていいことか、わからないけれど。それでも、今伝えておきたいと思ったから。
「私と、友達になってもらえませんか?」
ベネッタは微笑むと頷いた。
「よろこんで」
ベネッタを玄関まで見送ったあと、はたと思い出す。そういえば、マドレーヌ。どうなったのかしら。焼いている途中で家令のダグラスに呼ばれたから、まだオーブンから取り出していなかった。丸焦げになったりしていない? セディが気づいて、出してくれてるといいんだけれど──。
私が足早に厨房へ行くと、セディがにっこり微笑んだ。
「いい色に焼けてますよ」
「ありがとう、セディ」
セディが取り出してくれていたようだ。セディにお礼をいって、マドレーヌを見てみる。ひとつ食べてみたけれど、ほどよい甘さでとっても美味しい。これなら、今度こそオーウェン様に食べてもらえそう。
私はわくわくしながら、オーウェン様の帰りを待ったのだった。




