さんじゅう
どうしよう。こんな幸せなことがあっていいのかしら。
オーウェン様と想いが通じて数日。
私は未だに自分に起きた幸運を信じられないでいた。私はオーウェン様のことが好きで。オーウェン様も私のことが好き。
その事実を胸のなかで確認する度に、しまりのない顔になってしまう。夢じゃないよね?
「どうしたんだ?」
私がにやにやしたり、真顔になったりを繰り返していると、オーウェン様が不思議そうな顔をして、私を見た。
「この3日間が夢じゃなかったらいいなって、思ってました」
「それは私も考えていた。あなたが私を──特別に思ってくれているのが、夢ではないのかと」
「私はオーウェン様を愛しています」
私がそういって微笑むと、オーウェン様も微笑んでくれた。
「私もあなたを愛している」
オーウェン様が腕を広げた。行ってきますのハグだ。私はその腕のなかに飛び込み、ぎゅっと抱きついた。オーウェン様の香りが胸いっぱいに広がる。
私、今日なら死んでもいいわ。
そう思えるくらい、幸せだった。
「名残惜しいが、そろそろ行かないとな」
オーウェン様はもう一度だけ強く抱き締めると、私の体を離した。
「いってらっしゃいませ、オーウェン様」
「ああ、いってくる」
午後の昼下がり。鬼の件があって、結局オーウェン様に振る舞えていない手料理を再チャレンジしようと、料理人のセディに声をかける。
「少しだけ、厨房を借りてもいい?」
「お嬢様なら、構いませんよ」
セディの言葉にありがたく厨房を使わせてもらう。今回は、マドレーヌを焼くことにした。オーウェン様がどんな顔をするか想像しながら作ったら、結構早くできた。あとは、オーブンに入れて待つだけだ。その間に片付けをしよう。
洗い物などをしていると、家令のダグラスが厨房を訪れた。
「ああ、こんなところにいらしたのですね、お嬢様」
「どうしたの?」
洗い物はあらかた終わっていた。タオルで手をふき、ダグラスに向き直ると、ダグラスは言った。
「お嬢様に、お客様です。ベネッタという女性がいらっしゃいました」
ベネッタ。それは、この乙女ゲームのヒロインの名前だ。ヒロインが、私に何のようなんだろう?