さん
結婚。といってもこの世界ではすぐに、式をあげるわけじゃない。
一年間、婚約者として男性の家で一緒に暮らすのが通例。
そして、私ことリリアンが殺されるのはゲーム開始時期からして一年は後。だから、婚約中は地雷を踏まなければ殺されない、はず。
とにかく、媚びて媚びまくってやる!
そして、あれよあれよといううちに時は流れ、オーウェン公爵の家で暮らす日に。
がたごとと揺れる馬車に身を預ける。まさか、なにもいらないから身一つでこいと言われるとは思わなかった。道具やドレスが必要なら、こちらで揃えるからと。
まあ、お金のない我が家にとっては幸いね。
でも、媚を売るためにはあまりねだるのはよくないだろうし。そこは困ったわ。
なんて考えていると、公爵邸についた。
「わぁ……」
あまりの美しさに息を飲むと、馬車の扉があけられた。
「お嬢様、到着いたしました」
「ありがとう」
御者に礼を言って馬車から降りる。今日から私の媚び媚び生活が始まるのね。緊張で震えた自分の肩を抱き締めて深呼吸する。大丈夫よ、前世は割と太鼓持ち得意だったじゃない。今世もいけるわ。
「よし」
応接室へと通され、どきどきしながら未来の旦那様の到着を待つ。夜会で何度か遠目にお見かけしたことはあったけれど、じっくりと見たことはないのよね。それに私は自分の顔は平凡なくせに面食いなのだ。どうせ媚びるなら好みのタイプの方がいいけれど。
さて、どんな方かしら。
「お待たせして、申し訳ない」
低すぎない美しい声にはっ、と息を止める。現れたのは、さらさらな銀糸の髪にとろりとした蜂蜜のような金の瞳をした美青年だった。