にじゅうろく
ずっと、ずっと不思議だった。オーウェン様が、私の家に融資をしてくれた理由。そして、私を婚約者にしてくれた理由。
「どうした?」
はやる気持ちに頬が紅潮した私を心配そうに、オーウェン様が見つめた。
「オーウェン様、オーウェン様はもしかして、八年前のあのとき私を──」
「遅くなりまして、申し訳ありません! 魔法部隊ただいま到着しました」
魔法部隊? 声がしたほうに視線を向けると、私と同年代ぐらいの男三人、女一人の四人組だった。
ん……? 何だろう。何だか、全員見覚えがある顔だわ。どこかで会ったことあるかしら。
「ああ、来てくれたんだな。すまない。私の婚約者は鬼から連れ戻したので、もう仕事はないんだ」
オーウェン様がすまなさそうに言った。ということは、彼らが私を助けにくるはずだった、捜索隊ね。
捜索隊、魔法部隊。そして見覚えのある顔。私の頭の中でぐるぐると言葉が回る。
──もしかして。もしかしなくとも。
これって、オーウェン様ルートの一番最初のイベントじゃない!?
ゲーム通りだったら、鬼に拐われたリリアンを助けにいくのはチュートリアルも兼ねていたはず。
「えっ? ご自身で助けられたのですか?」
驚いた声をあげた少女を観察する。甘栗色の髪に、ルビーを閉じ込めたような瞳。間違いない、主人公のベネッタだ。ということは、他の少年は、攻略対象者だろう。
「ああ。呼びつけておいて、すまないな。いてもたってもいられなくて」
オーウェン様が再度謝る。
その後もベネッタたちと、オーウェン様は何言か話していたけれど。全く耳に入ってこなかった。
──どうしよう。まだ、私全然媚びれてないから、地雷を踏んで殺されちゃうわ!!!
ベネッタは、このチュートリアルでオーウェン様の存在を知り好感を抱く。けれど、その数日後、オーウェン様がリリアンを殺してしまい、オーウェン様が人に害をなした妖怪として指名手配されるのだ。
というか、なぜ?
まだまだ8ヶ月はゲーム開始時期まであったはず。それなのに、ヒロインはもう魔法に目覚めているし。オーウェン様は、私を助けに来てくれたし。
この世界は、ゲームに似ているようで違う世界だということの現れかもしれないけれど。
私は願うような想いで、ベネッタを見る。ベネッタは、オーウェン様をキラキラとした瞳で見つめていた。
今の私ならわかる。あれは、ナタリー伯爵令嬢でもみた、恋する瞳よ!
オーウェン様に、殺されたくない。そして、できればずっとそばにいたい。でも、ヒロインはめちゃくちゃいい子だし、ヒロインがオーウェン様を攻略するなら、それがきっとオーウェン様にとって、一番いい。
「リリアン?」
黙り込んだ私を心配そうに、オーウェン様が覗き込んだ。オーウェン様を安心させるように微笑んで、かすかに震える両手を握りしめる。
──この恋を終わらせる、準備をしなきゃ。




