にじゅうよん
婚姻の儀。つまり、三日後には、私はアレクの妻にされてしまうということ。閻実の界は、時間の流れがゆっくりだから、現実世界に換算して六日がタイムリミットということ。婚姻の儀が終わってしまったら、もう、元の世界には戻れない。
そんなの絶対、絶対嫌!!
でも、確かダリア王女殿下の場合は、救出は婚姻の儀までには間に合ったけれど、婚姻の儀より前に襲われてしまったのよね。
だから、その三日間は安全だとは言い切れない。
どうにかして逃げてオーウェン様のいる世界に帰りたい。でも、私は妖怪や鬼の血は継いでいないし、魔法も使えないから、世界を渡れない。
私はこれでも貴族の末端に名を連ねる者。私が鬼に拐われたとなれば、魔法が使える捜索隊が閻実の界にくるだろう。世界を単独では渡れない私が出来るのは、なるべく早くその捜索隊と合流すること。
でも、捜索隊が閻実の界に到着したとわかってからでないと、いたずらに逃げても警戒を強めるだけよね。
私が思考している間に、アレクは私を抱き抱えたまま閻実の界を歩き、大きな城の前についた。
「ここは……」
現実世界の王城よりも大きいかもしれない。けど、見た目はどちらかというと日本の城に近い。
「俺の家だ。これからはお前の家でもある」
そういって、アレクは嬉しそうに微笑んだ。悪いけれど、私はそんな気毛頭ないので頷けない。
門はアレクを認識したのか、自動で開いた。
その門をくぐると──。
「お帰りなさいませ、アレク様」
多くの鬼が整列して頭を下げている。もしかして。もしかしなくても。アレクって、鬼の中でも高位な存在なんじゃ……?
私の疑問が顔に出ていたのか、アレクは頷いた。
「俺は、鬼族の長にあたる」
つまり、逃げるときは傘下の鬼たちも振り切って逃げないといけないのね。かなりハードル上がってない? ちゃんと捜索隊が来たときに合流できるか、不安だ。
アレクは城の最上階でようやく、私をおろした。
「花嫁」
うっとりとした顔で私を見つめている。花嫁花嫁いってるけど、この鬼私の名前を聞きもしないのよね。まぁ、名乗りたくないから丁度いいけど。本当にアレクは私の顔だけが好きなのね。
と、アレクは手下の鬼に呼ばれて、部屋から出ていった。
「花嫁、逃げても必ず捕まえるから逃げたければ、逃げてもいい」
そういい残して。
よし、直々に逃げてもいいとお達しがでたので、逃げるわ! と、逃げれればいいのだけれど。
逃げてもいいといった癖に、鬼の見張りをつけられた。言ってることとやってることが違うじゃない。
どうする。
しばらく悩んだあと、私はあることを思い付いた。
「ねぇ、あなた。そこの扉の前にたっているあなたよ」
部屋から出ないように見張っている鬼に呼び掛ける。あれ、鬼の姿さっきと変わってない? ずいぶんと悩んだから、見張りの交代の時間が来たのかもしれないわね。
「この城のことを、知りたいの。案内してくれない?」
この城の構造を知っていれば、逃げるときに、役立つはずだ。
鬼は、頷いた。
「案内しよう、姫君」
……ん? いえ、気のせいよね。
そう思いながら、鬼に城内を案内される。最初は私が出歩いていることに警戒していた他の鬼も、とりあえず今は逃げるつもりがないことがわかったのか、警戒を解いた。
最上階から、玄関まで。案内し終わったあと、鬼は囁いた。
「逃げるぞ、リリアン」




