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【コミカライズも完結】死にたくないので、全力で媚びたら溺愛されました!  作者: 夕立悠理
地雷を回避しましょう

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20/89

にじゅう

 声が体にまとわりつく。どうして、いつもならここで目が覚めるのに。夢だとわかるのに、現実に戻れない。


 気づけば、私の体は幼いものから今のそれに変わっていた。


『よウやく、見つケた』


 ケラケラ、と声は笑う。まるで悲願が叶ったかのように。


『早ク、イこうヨ。八年前ハ、狐に邪魔さレたけド、今度ハもう失敗シナイ。だカら、我ガ花嫁』


 声が靄となって、私を包んだ。花嫁ですって!? だーれが花嫁よ。私にはオーウェン様という心に決めた方がいるのよ! たとえいつかヒロインが現れて振られるんだとしても。はっきりと振られるまでは、諦めないんだから。


 私は靄に向かって拳を固めると思いっきり、突きだした。

「せいっ!」


 てっきり、何の感覚もないと思ったけれど、熱に手が包まれた。

「え──」

 この熱を知っている。なんで、だって、それは。


「オーウェン様!?」


 思いっきり叫んだところで、ようやく目が覚めた。私の視界一面には、麗しいお顔が心配するように眉を下げていた。


「ああ、私だ。目が覚めたんだな、おはよう」

「おはよう、ございます?」


 ……? イマイチまだ状況が掴めていない。頭に疑問符をたくさん浮かべた私に、オーウェン様が説明してくれた。

「マージが教えてくれたんだ。あなたがずっとうなされたまま、目を覚まさないと」

 なるほど。それで、心配したオーウェン様も、私の部屋に駆けつけてくれたというわけね。それで私の視界には顔を覗き込んだオーウェン様が映っていたわけだ。



 いや、ちょっと、まって。私の右手はオーウェン様の左手に包まれている。もしかして、いや、もしかしなくても。

「私、オーウェン様に、殴りかかったり……」

「ああ。見事な突きだった」

 オーウェン様は頷いた。


 あ、ああー!!! やってしまった。悪夢を見ていたとはいえ、好きな人に殴りかかるなんて。

「……申し訳ありません」

「いや、謝る必要はない。それにしても、あなたには格闘の才能もありそうだ」

 私が愕然としていると、オーウェン様はフォローするようにそういってくれた。うう、優しさがかえってつらい。


 それにしても、悪夢にうなされるなんて子供みたいで恥ずかしい。


「それで、どのような夢を見たんだ?」

 けれど、オーウェン様はそんな私を馬鹿にすることなく、真剣な顔で尋ねた。ただの夢なのに。その表情に疑問を感じないでもなかったけれど、オーウェン様に夢を説明する。


 変な夢だと、笑われるかと思ったけれど、オーウェン様は笑うことはせず、代わりに尋ねた。

「幼少期から、その夢を見ているんだな?」

「はい」

 オーウェン様の言葉に頷く。あれは、幼少期から見続ける夢であり、同時に私が幼少期に体験した出来事だった。


 オーウェン様、どうしたんだろう。そんなに真剣になるような話なのだろうか。


 オーウェン様は、私の表情に気づいたのか、ふと微笑むと、私の頭に手を置いた。

「大丈夫だ、私が何とかする」

「ありがとうございます」


 なんとも心強い言葉だ。でも、悪夢を何とかって、安眠枕でも買ってくれるのかしら。それとも、よく眠れるハーブティーとか?


「では、朝食をとろう。今日は城勤めじゃないので、支度はゆっくりで構わないから」

 

 そこで初めて私は、自身が寝間着のままなことに気づいた。いえ、寝起きだから当然なのだけれど、オーウェン様にそんな姿をずっと見られていたなんて、恥ずかしい!


 顔を真っ赤にしながら頷くと、オーウェン様はそんな私に笑って部屋をあとにした。



 そして、その日の夜。

「あの、オーウェン様」

「どうした?」


 オーウェン様が心配そうな顔をした。

「その、ただの悪夢ですしそこまでしていただかなくても大丈夫ですよ?」


 そう、単なる悪夢。それなのに、オーウェン様は私が眠れるまで側にいる、というのだ。


「本当はあなたと眠れたら、いいのだが。まだ婚約期間中だからな」

 婚約期間中で良かった! オーウェン様と添い寝だなんて、恥ずかしくて死んでしまうわ!! 


 オーウェン様は私の左手を握り、子守唄を歌いだした。ううう、何だか幼子になった気分だわ。けれど、オーウェン様の歌い声は穏やかで自然と瞼が重くなっていく。


「おやすみ、よい夢を」

 額になにか柔らかいものが触れたのと同時に、私は深い眠りへと落ちていったのだった。

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お読みいただき有難うございます!
感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!
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