そのに
「目が覚めたか、リリアン」
目を覚ますと、お父様が心配そうに私を見ていた。
「……はい、お父様」
目だけでなく、頭も冴えきってますよ、ええ。
倒れている間、私は思い出した。いわゆる前世というものを。冴えない私の冴えない前世の内容はこの際どうでもいい。それよりも重要なのは、この世界、生前にはまっていた乙女ゲームの世界にそっくりだということだ。
乙女ゲームの大まかなあらすじは、割愛するとして。私の役割はただのモブ。旦那様になるオーウェン公爵に、『地雷を踏まれて、つい、カッとしたから』という理由で殺されてしまう役どころである。
地雷を踏んだのは悪かったけれど、殺すのはもっと悪くない!? 小物かよって思うけれど、オーウェン様は小物どころか大物も大物。なんといっても、ラスボス兼攻略対象者なのだ!
ここまでわりと私の人生終わった感があるのに、もうひとつ悪いお知らせが。
地雷が全く思い出せない!
私が殺される原因なのに、思い出せないってかなりまずい状況だ。
どうしよう、どうする。
「あの、お父様」
「どうした?」
「その結婚考え直してはいただけませんか? 私には荷が勝ちすぎます」
いかにも自信がなさそうな顔をすると、父はにっこりと笑った。
「大丈夫だよ、リリアン。お前なら、きっとできるさ。それに……」
「ですが、お父様!」
私が涙を見せるとさすがに、父はひるんだけれど、すまなさそうな声でぼそりといった。
「……んだ」
「え?」
「融資を公爵からしてもらったんだ」
え、ええーーー!! そのお金ってもしかして、もしかしなくても。
「最近、少しだけ食事が豪華だったのって?」
「……ああ。公爵のおかげだ」
なんてこったい。私、公爵に融資されたお金で作られたご飯を食べちゃったよ! つまり、もう、父はそのお金に手をつけているということ。
返済は我が家の経済状況では不可能だ。
「嫁に、いってくれるね」
「……………………………………………………はい」
──尾を振る犬は叩かれず、っていうし、こうなったら、地雷を踏んでも殺されないように全力で媚びよう。