じゅうよん
「はぁ、ぜぇ、はぁ」
ようやく日課の腹筋、腕立て伏せが終わったわ。簡単に痩せられる魔法とかないかしら。そう思うものの、ダイエット道は一日にしてならず。それにこの世界の魔法が使える人はとっても珍しく、妖怪退治の仕事のほうに明け暮れている。
魔法。それは神から与えられた特別な力、らしい。炎を出したり、電撃を出したり。やってることは妖術とほぼ同じなんだけど、だからこそ『神から与えられた力』ではない、妖術は恐れられているのよね。
そういえばいい機会なので、以前割愛した乙女ゲームのストーリーについて話しておこうと思う。
タイトルは全く思い出せないので、カット。ストーリーは単純で、ある日魔法の力に突然目覚めた主人公が同じく魔法を使える攻略対象者たちと一緒に、人間に害をなした妖怪を退治する、話。
そう、オーウェン様は私を殺した罪で、人に害をなした妖怪として指名手配されてしまうのだ。オーウェン様は、美しい上にめちゃくちゃ強い。まさに、ラスボス様だった。でも早く攻略しないと、オーウェン様生きるのに飽きて自殺しちゃうんだよね。
今のところオーウェン様が生きるのに飽きている様子はない。でも自殺は悲しいからね。殺されないことも大事だけど、オーウェン様に生きていてもらえるように頑張ろう。
そんなことを考えていると。扉がノックされ入ってきたのは、マージだった。
「リリアン様、お茶をご用意しました」
「ありがとう」
筋トレに勤しむ私を怪訝な目で見ずに、こうして終わった頃を見計らってお茶を用意してくれるなんて、マージはなんてできた侍女なのだろうか。
さっと、用意してくれたタオルで汗をふき、お茶を飲む。ふぅ、生き返る。
「それから、リリアン様。オーウェン様がお呼びです」
休憩、にしては少し早いし、夜会もこの前あったばかりだし。なんの話だろう。
「失礼します」
ノックをして、オーウェン様の自室に入る。オーウェン様は、私を見て書類から顔をあげると、柔らかく微笑んだ。
「ああ、来てくれたんだな。すまない」
「いいえ。それで、どうされました?」
私が首をかしげると、オーウェン様は私にあるものを手渡した。
「これは?」
「鍵だ。この屋敷中のどの部屋でも開けられる鍵」
「え──」
この屋敷はもちろん防犯対策バッチリで、鍵の形がひとつだということはない。つまり、これは魔法を使って作られた特注品だということだった。
「これを、あなたにもっていて貰いたい」
それは、つまり。オーウェン様が、私のことを婚約者として、信頼しているというこれ以上ない証だった。
「どうして、」
「屋敷の危険な場所がないかの見回りが終わったんだ。だから、もう、あなたはどこを歩いても構わなくなった」
違う、私が聞きたいのは。私はまだ、あなたの信頼を得られるようなことは何一つできていないというのに。
「……っ」
それでも。嬉しくて、涙が出る。私は、その信頼に応えたい。あなたを傷つけるような真似はせず、そして、あなたが生きていてくれる世界を作りたい。
涙を零した私に、オーウェン様が驚いた顔でおろおろと、背中を擦ってくれる。
「ど、どうした? なにか気にさわっただろうか」
「……違います。嬉しくて」
涙をふいて笑みを見せると、オーウェン様も笑ってくれた。
「そうか、良かった。その、なんだ。これからも、よろしく頼む」
「はい!」




