そのいち
「喜べ、お前の結婚が決まった」
「……は?」
仕事が忙しいから、という理由で家に滅多に寄りつかない父が私の部屋に訪れたかと思うとこれだ。
「相手は、公爵だぞ」
「……はぁ」
我が家は残念なことに貧乏な男爵家だ。その男爵家の一人娘を貰おうなんていう奇特な公爵様がいるものなの? 私は世間知らずだけれど、この結婚がなんだかきな臭いことはわかる。
「それで、お父様。そのお相手というのは?」
「オーウェン公爵だ」
な、なんですって!?
オーウェン公爵は、とても顔がお美しいことで有名だ。それだけなら、面食いな私は素敵な旦那様に美味しいご飯をゲットだわ! なーんて、お気楽に喜べたかもしれないけれど。
オーウェン公爵には、公然の秘密がある。それは、妖狐の血を引いているということだった。妖狐が今は亡きダリア王女を襲い、そのときにできたお子。
ダリア王女に似てお顔はとても、整っているのだけれども、髪は銀色で瞳は金。妖狐の特徴をしっかりばっちり受け継いでおられる。
それに、噂によると妖術が使えるのだとか。
とても仕事も優秀な方だけれども、皆から恐れられているのよね。
そんな方と結婚……? 妖術とか、怖すぎる! だって炎で私の体を焼いて殺すんでしょう。青白い炎で燃やされる私がありありと、想像でき──あれ、なんで、私ったら、こんなにも鮮明に想像できるのかしら。
そんな場面、一度も見たことがないはずなのに。だって、それは、スチルで見たから。
スチル? スチルってなに。
自分の頭に浮かんだ言葉なのに、わけがわからない。混乱する。
「う、あ……」
「どうした? リリアン」
父が心配そうに、私の名前を呼ぶ。リリアン。そう、私の名前は──、
「おもいっきり、序盤で殺されるモブじゃないの!」
そう叫んで、私は意識を失った。