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第2話 「勇者の潰えた世界」

 第7代勇者にして魔王を討伐した偉大なる英雄。テレサ・ランガスター本人が俺の目の前にいた。

 だが、ついさっき王都の大通りで見た自信に満ち溢れた彼女の姿はとうに無く、触れれば壊れてしまいそうなまでに怯え痛々しい様子であった。


 「何があったんだ? 凱旋の後に何が起きたらこうなる?」

 「が、凱旋……? な、何の話ですか?」

 「あんたが魔王を討伐した時の凱旋だよ! 2人の仲間と一緒に王都に戻ってきただろう!」


 俺が何度問いかけても、テレサはビクビク震えるばかりだ。

 まさか本当に覚えていないのか? 

 とにかく尋常じゃないレベルで気が動転している。ひとまず落ち着かせなければ。


 俺がテレサの肩に手を伸ばそうとした瞬間、彼女は反射的に頭をおさえた。


 「な、殴らないでください!」

 「落ち着け、俺はあんたに危害を加えるつもりはない」

 「えっ……。だ、だって、貴方は魔物じゃ……」


 薄々感じとってはいたが、やはりテレサは俺が殺したゴブリンの仲間だと思っているらしい。

 彼女の瞳は俺が手に持っている剣へと視線を向けていた。


 「なぜ俺を魔物だと思うんだ?」

 「えっ、えっ……。そ、その武器を持ってるから……。武器は魔物しか扱えないから……」


 武器は魔物しか扱えない? そんな事はありえない。

 第一テレサ自体、聖剣を持っていたはずだ。


 俺と彼女との間に、決定的なすれ違いが生じているようだ。このままテレサと話していても埒が明かない。


 俺はしっかりとテレサの瞳を見据えながら、できる限り穏やかな声色で話しかけた。


 「安心してくれ。俺は君と同じ人間だし、決して君を傷つけるような真似はしない」

 「あ、あうっ……」


 ゆっくりと、俺は彼女と手を握る。

 小さく、冷たいその手を、ギュッと握りしめる。


 「俺が魔物から君を守る。だから落ち着いて、協力してくれ」

 

 しばらくの沈黙ののち、遠慮がちにテレサが俺の手を握り返してくれた。


 「あ、暖かい……。暖かいよぉ……」


 安心したようにポロポロと涙を流す勇者テレサの有様を見て、俺は複雑な感情を抱きつつあった。


 絶対的な強者として信頼を置いていた勇者が、俺みたいな無名の狩人の言葉に安堵の涙を流している。

 その事実は俺の今までの常識大いに揺さぶる。

 突きつけられている真実を認めたくないあまり、俺は思わずテレサの顔を隠すように抱き寄せた。


 「うぅ……。うわぁあぁぁ……」

 

 小さく嗚咽を上げるテレサを抱きしめながら、ぶつけようのない怒りが込み上げてくる。


 訳の分からない状況に対し。

 不甲斐ない姿を晒すテレサに対し。


 なにより、そんな彼女を守るなどと口にする自分に対して。


 テレサはひとしきり涙を流したあと、目元を拭いながら俺から離れた。まだ怯えた様子ではあるが、なんとか話は出来る状態に戻れたようだ。


 「まず聞かせてくれ。君はテレサ・ランガスター本人だよな?」

 「は、はい」


 やはりそうか……。

 他人の空似とはいかないようだ。


 「魔王を討伐した君が、どうしてゴブリンに捕まっていたんだ?」

 「あ、あの。私はそんな凄い人間じゃ……。そ、それにっ、魔王は今も生きています……」

 「なっ――」


 馬鹿な!

 確かに魔王は勇者が討伐したはずだ。

 だがテレサが嘘を吐いているようにも見えない。


 「ご、ごめんなさい……。ランガスター家のわっ、私が、力がないからっ……」

 「じ、じゃあ。勇者は魔王に敗北したのか……?」


 聞かなくとも答えは分かっていた。

 だが聞かずにはいられなかった。たとえそれが絶望へ繋がるとしても。


 「ゆ、勇者は……。第3代勇者、クラウス・ランガスターが魔王に殺害されて500年、この世界はずっと。ま、魔王に支配されています……」


 少しずつ、この世界の全貌が闇の底から這い出てきた。

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