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さよならいとしのペンギンライフ  作者: 天川さく
第5章 さらばペンギンライフ
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5-3 まさか(後編)

 は? と眉を歪める。何をいっているのかな? 戸惑う朋子に構わず元気は続けた。


「あうんの呼吸で、互いに互いのことをわかりあっていて。相手が許すってわかっているいい合いで。ちょっとした言葉だけで反応し合えて。言葉だけでなく行動も同じで。うらやましくなって、何度かおれ、まねしてみましたけど」


 できませんでした、と元気は厳しい顔つきになる。


「岩嶋先生が期待するような行動は朋子センセじゃなければつとまらなかったし、朋子センセを動かすのもやはり岩嶋先生でした。ゴヤ大でもそうだったのでは? ほかの学生では岩嶋先生を動かし切れない。あなたの元彼もまた、あなたを動かしきれなかったはずです」


 それは、と言葉に詰まる。


「師匠と弟子の関係なんでしょう。だけどそれだけじゃない強さがあった。すさまじい信頼があって、わかりあってて。くそう。岩嶋先生があなたを見る眼差しは、ただの学生とか弟子とかじゃなかった。それ以上の信頼があったし、誇らしげでしたよ」

「誇らしげ? 岩ポンが?」

「今回の敢行学会だって、つまるところ『俺の自慢の弟子の研究成果を見せつけてやるぜ』ってとこでしょう?」

「わたしの研究成果っていうか共同研究なんだから」

「それで朋子センセ、あなたは期待を裏切ることなく見せつけたじゃないですか。自主開催だから自粛した各賞だって本来なら総なめですよ。すごすぎます」


 つまりおれは、と元気は吐き捨てる。


「あなた方のあいだに、入り込めませんでした」


 くしゃりと元気の顔が崩れる。


「おれなりに、おれらしくないほど結構がんばったんですけどね。結局、岩嶋先生に名前で呼んでもらえなかったし。あれって絶対にワザとですね。おれの意図をわかっていますよ。おれが割り込むのが嫌だったみたいですね」

「そんなわけ」

「あなたをとられるとでも思ったんですよ。敵対視していただけただけでも光栄ではありますが」

「元気さん、考えすぎで」

「朋子センセ、この際だからいっちゃいますよ。岩嶋先生、普通の弟子に対する態度にしては度がすぎています」


 口をはさむ隙を与えず元気はまくしたてる。


「毎日連絡をするのはあなたの体調を気にかけているからでしょう。試料が心配なだけじゃない。野外調査から毎回豪華な土産を送るのは調査をしながらあなたを思っていたからで、普通の学生相手に生活パターンを考えてレトルトのカレーを土産にすることなどあり得ません。しかもあれ、あなたが一番好きな味つけでしたよね。ペンギンのぬいぐるみだって、いくら店員から勧められたからって、普通は女子学生相手だったら買いませんよ。勘違いされますから。それをしかも大量に買って送りつける?」


 息を切らしつつ元気は身もだえる。


「おれだって、おれだったら──岩嶋先生みたいな行動をとる。心配でたまらないから。気になるから。きっと岩嶋先生はあなたを手元から離して道大にやったことを後悔しているんですよ」


 あ、と朋子は口をひらく。

 ──だから後悔してるんじゃんっ。

 ──後悔してるのっ。

 あのやり取りが脳裏に浮かぶ。

 あ、あれは言葉のはずみで。深い意味なんてなくて。


「さっきだってそうでしょう。あなたをここにおいてシアトルへいくのに岩嶋先生はあれほど心配していた。誰がどう見ても普通の学生に対する態度ではないですよ」

「やっぱりそう見た。だからあれは」

「朋子センセ、あなたが岩嶋先生をどう思っているか。それはあなたの問題です。ですがこれだけはいえます。──岩嶋先生はあなたが思っているよりももっとずっと、あなたのことを考えている」

「で、弟子としてで」

「それでもいいのでは? 愛情のカタチは山ほどありますしね。それ以上踏み込んだことをおれの口からはいえません。いいたくもないですしね」


 いい切って元気はうなだれる。うなじをしきりに手で撫でて「すみません」とつぶやいた。「喋りすぎました」とかすれた声を出す。

 朋子は首を振る。頭の中がいっぱいで、いろんなことがあふれ出して言葉にならない。


 でも、何かいわなくては。


 元気さんにここまでいわせて黙りっぱなしなんてズルい。それこそ的はずれでもなんでもいい。声を出さなくちゃ。元気さんがそこまでわたしを思ってくれていたなんて知らなかったとか。そんなにがんばってくれたなんで気づかなかったとか。がんばってくれてありがとうとか。それに。


 岩ポンとわたしは元気さんが思うような関係じゃなくて。本当に研究のことだけの関係で。えっと。うんと。それは関係じゃないってことかな? そうなのかな? わたしはどうだったのかな。岩ポンは? わたしが気づかなかっただけで? それとも本当に元気さんの考えすぎ? 岩ポンは単純にペンギングッズが目に入って、それをわたしに送れば仕事をもっとやるだろうって読んで送っただけじゃ? カレーだって自分が食べたかったからで。わたしはついでで。


 目をとじる。

 わかってる。

 何が本当かなんてどうでもいい。問題はわたしだ。わたしがどう思うか。どう思ったかだ。わたしは。


 そこまで思ったときだ。

 携帯電話にコールが入った。

 岩ポンからだった。


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