4-3 いつだったか(後編)
またまた、と笑う木橋に元気が「いやいや。このメンツなら起こりかねないからな」と肩をすくめる。そこに「おう朋子」と岩ポンがやってきた。
「ほんじゃあ俺は出るからよ。後始末は頼むな」
「もう? 千歳空港って動いているの?」
「空港も空港行きの列車も運航再開だ。つうか、ここも実は通電してんじゃね? 大学だからな。停電があった時点で主電源がオフになってるんだろ。自動でオンになって火災が発生したらそれこそシャレにならねえ」
ガハハと笑う。本当にシャレにならない。
「本気で電気以外はそれほどの被害じゃなくてよかったぜ」
「先生の悪運の強さも相当です」
「まあな。このあとシアトルなんだわ。国際線も動いてラッキーだな。お前がこのあいだ報告書を書いたヤツで呼び出しだ」
ああ、あれか、と思っていると、岩ポンがわしわしと朋子の髪を撫でた。
「よくがんばったな」
ちょ、人前で止めて、とあらがうと、おおお、と元気と木橋が声をあげた。声に気づいたほかの参加者も朋子と岩ポンを見る。驚く者はいない。誰もがほほえましい顔つきになる。「何? 業界公認なんですかっ」と元気が声を震わせる。
そんな元気と木橋を徹底的に無視して岩ポンは朋子の頭を軽く叩いた。
「じゃあな。余震に気をつけろよ。コンテナにつぶされるなよ? アパートの窓はちゃんと閉めて寝ろ。通電したら部屋の換気を忘れずにな。ガスもれとかで引火するからな。それから」
「先生、心配しすぎ」
「するだろ。そうだ、お前も一緒にシアトルくるか? 報告書やったのはお前だから、むしろくるべきだぞ。そうすりゃ俺もいろいろ安心だし」
そこまでいって、かああ、と岩ポンは身もだえる。
「駄目か。あっちでアルゼンチンの共同研究者に会う予定だったな。お前に会わせるとそれこそいろいろうるせえし」
「なんの心配?」
とにかく、と岩ポンは朋子の肩をがしっとつかむ。
「地震を甘く見るな。夜はちゃんと帰ってしっかり寝ろ。何かあったらすぐに連絡しろ。なくても連絡しろ。なくても俺が連絡する」
なるほど、と思う。こういう発言をされるから元気さんたちに誤解されるのか。さすがにわたしもうっかり誤解しそうだもん。
朋子は肩にある岩ポンの手を軽く叩いた。
「大丈夫。ちゃんと気をつける。先生も気をつけて」
本当か? と真顔でたずねる岩ポンに朋子は大きくうなずいて見せた。そこでようやく岩ポンは渋々とキャリーバッグを手に取った。振り返り振り返り高等教育機構棟を出ていく。朋子は軽く手をあげて見送った。
岩ポンの姿が見えなくなったころだ。朋子の隣で一緒に手を振っていた元気がへなへなとしゃがみ込んだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
元気は答えず、はああ、と盛大に息をはいた。「かなわないなあ」と繰り返す。それからおもむろに朋子へ顔を向けた。
「朋子センセ、すみません」
「何を」
真顔になって元気は続けた。
「犯人はおれです」
朋子は目をしばたたく。犯人? なんの?
「地震?」
「どんなテロリスト。そうじゃなくて、例の紛失事件の犯人、それはおれです」
朋子はさらに目をしばたたく。




