4-2 いつだったか(中編)
「学会を作りあげたのは俺じゃねえ。お前らだろ」
「いいんですか? とはいっても、ねえ。さすがにおれも同情しそうです」
「何がいいてえんだよ」
いえ別に、とすました顔になってから、話はかわりますが、と元気は岩ポンに耳打ちをした。
「カレーを食いにいきませんか?」
「本当にコロリとかわったな。まあいいや。んで? カレー? やってるとこがあるのか?」
「SNSで回ってきたんですよ。『地震の影響で何も食べていない方』って。大学生協本館の学食で半額程度でカレーを提供だそうです」
「太っ腹じゃねえか」
「携帯電話の充電サービスもカウンターでやっているそうです。午後二時まで。ひとり十五分程度です」
いいねいいね、と朋子は頬をゆるめた。ここで問題です、と元気がもったいをつける。
「どうやら道大の学生や教職員であることが利用の前提であるっぽくて。だから岩嶋先生の前でいうのはどうしようかと思っていたんですが」
「そんな情報を教えるなよ」
「こっそりいっちゃえば大丈夫ですよ」
ちょっと、と朋子はあわて、そうだよな、と岩ポンは笑みになる。いくか、いくべし、と強引に背中を押されて、朋子は学食へ連れていかれた。
学生に混じってカレーをわしわしと頬張る岩ポン。「道大のジャガイモうめえ」とほえている。どれだけカレーが好きなのだ。昨日だって朝から持参したお土産のカレーを食べていたよね? おにぎりやお菓子も食べていた。ジンパで山盛りのラム肉も。この災害時に。岩ポンは「ひもじい」という言葉を知っているのだろうか。さすがだけど。
朋子は、ふう、と息をはく。
取材を断ってくれて、さっきちょっと岩ポンのことをカッコイイとか思った。
これだけのメンツがそろった敢行学会である。取材を受けて、大御所と呼ばれる有識者がそろいもそろって浮かれた返答をしたらどうなったか。後始末を思って背筋が寒くなる。それが。
チラリと岩ポンを見る。あごひげにカレーをつけたままスプーンを口に運んでいた。朋子は小さく首を振る。
「なんだ? 食わねえのか?」
「食べます」
はむっとスプーンを口に入れて目を大きく開いた。じわりとスパイスが身体に広がる。いつもどおりの学食の味。それがなんともいえず安心できて。涙が出るほど美味しかった。
それから四時間。
相変わらず余震は続き、それでもなんとかすべての発表が終了した。朋子ものべ十件の発表を完了である。お疲れ、自分、とさけびたいほどの達成感であった。
玄関ロビーには参加者が集まり、わいわいと祭りの余韻に浸っている。こんなむちゃくちゃな学会を見たことがない。こんなに本気で発表をしたことはない。またやりましょう。いやもうできないだろう。そこかしこで明るい声が広がった。
本当に、と朋子の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「無事に全部終わってよかったあ。暴動になったらどうしようかと思った」




