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さよならいとしのペンギンライフ  作者: 天川さく
第5章 さらばペンギンライフ
43/56

2-1 地質屋の利点は(前編)

      2


 地質屋の利点は、もれなく猪突猛進であるということか。

 やるとなったら、止まらない。

 世間の迷惑かえりみず、徹底的に突き進む。

 今回もその例にもれることなく。


「ええ、なんなの、この決断力」


「朋子センセ、状況解析はどうでもいいので、さっさと指示してください。この講義室はどのプログラムまでやれますか?」


 学会運営スタッフが切羽詰った声を出す。そんなのわたしの仕事じゃないわよ、といえたらどんなにいいか。もちろんいえない。ここで正規スタッフに表立たれたら、あとの責任が学会にくる。これはあくまで自主開催で、参加者たちも自己責任で。それを主張することができなくなる。


 これでよろしく、と朋子はコピー用紙に油性マーカーで手書きした紙をスタッフに渡す。はい、ほい、えい、と次々に仕事は枝分かれしてスタッフは薄暗い廊下を駆け出していく。

 ふう、と額の汗をぬぐって顔をあげた。


 元気が動き回っていた。

 学会をやりましょうといい出した張本人であるものの、てっきり口だけかと思っていたが。意外である。


 研究室から学会会場の高等教育機構棟へ戻ると、元気は「守衛さんから借りた」というカギで棟を解錠した。そして集まっていた学会参加予定者に、学会敢行すべし、と拳をつきあげたのである。

 さらには弱腰になっている木橋へ学生ボランティアスタッフを招集させ、棟内中央ロビーにパーテーションをならべて、そこに手書きの臨時プログラムを掲示だ。

 今回の学会参加者のうち五割は道外者である。

 彼らに配慮して、大学の建物内部図にこの震災時での大学での水道状況やトイレ状況、充電可能エリアを手書き表示した。刻々と変わる情報は手書きで随時メモを更新である。


 さいわいにも地震の被害はほぼ停電のみであった。会場エリア限定かもしれないけれど、水道もトイレも問題はなかった。建物の亀裂などの被害状況もいまは暗くてわからない。

 ロビーだけでなく、発表を行う五つ以上の講義室前にも手書きのポスターとプログラムを掲示。変更内容とか建物案内とか、あれはやったか、これはどうだ、とそこかしこで元気の張りあげる声が聞こえた。


「元気さんが人前に出て何かしているのをはじめて見たなあ。そんなに岩ポンにいいとこ見せたいのかな」


 違いますよ、と耳ざとく元気が朋子の前に立つ。長身の元気はわざわざ腰をかがめて朋子と視線を合わせる。


「朋子センセにいいとこを見せたいんです」

「ああ、はいはい」

「うわ、信用ない。本気なんだけどなあ。ところでどうです? 午後一時から開始したいんですが。できそうですか?」

「大丈夫。そのつもりでプログラムも書いた。日が落ちたら危ないから今日は午後五時で終了するね」

「明日の分は?」

「停電のままの場合と通電した場合の二パターンで作ってる。けど、通電しても火事とかのリスクがあがるならこのまま電気なしでやりたいな」

「難しいところですね。もっとも明日あたりにこの騒ぎを気取られるかも」


 気取られる? 誰に? 朋子は首をかしげて、ひょっとして、と声をひそめた。


「これって本当の本当に秘密でやっているの? どこの許可も得ずに?」

「堂々とやっているので大方は『そういうイベント』と思ってくれているようですが。いつまで思ってくれるか」

「少しはどこかに連絡を入れているのかと思ってた。マズいって。なら、さっきから元気さんが使いまくってるカギって本当に誰にも断らずに黙って勝手に持ってきたものなの?」

「人聞きが悪いなあ。ご心配なく。管理には十分に気をつかっています」


 そういうことじゃなくて本当にマズいから、と身もだえると「ご心配なく」と別の声が聞こえた。

 ジンパ研の教授であった。


「長万部くんから連絡をもらいましてね。いいですよ。わたしが責任をもちましょう」


 へ、え、なんで? そりゃ教授は正真正銘の着任歴十年クラスの道大の教員だけど、でも? あ、と朋子は元気へ振り向く。

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