4-2 え? なんで。どうして。早いでしょっ(後編)
玄関先で立ち尽くす元気と木橋に「えっと、ちょっと待ってね。せめて空気の入れ替えを」と朋子は暗い室内を手探りで窓を開ける。たちまち心地いい風が室内へ吹き込む。それから、えっと、と台所へ向かう。
やはり水は出なかった。一軒家なら出るかもだけどアパートだからなあ、と棚の中から買いおきの二リットルペットボトルのミネラルウォーターを取り出して。それからそれから。
「あの、じゃあおれたちはここで」
元気の声に振り向く。いつの間にか元気と木橋は玄関とキッチンのあいだにスペースを確保して身体を横たえていた。寝つきがいいのか疲れていたのか、すぐにふたつの寝息が聞こえた。
「ううんと。なら、わたしも寝るかな」
台所脇の洋室へ入りベッドにうつ伏せになった。はあ、シャワー浴びたかったな。そう思いつつ、窓からの風に首筋を撫でられているとたちまち眠りに落ちた。何度か震度3とか震度4の余震があったようだけれどまったく気づかなかった。何日も徹夜はするものではない。
次に目が覚めたとき、あたりはすっかり明るかった。
ヘリの音がバリバリと室内に響いている。よくこの中で寝ていられたな、と我ながら感心するほどの音である。
なんだかすごい事件になってる? 地震だから?
寝癖を直してリビングに出ると、岩ポンのまわりに元気と木橋が集まっている。朋子の気配に気づいた岩ポンが、おう、と手をあげた。
「朋子よ。お前な。いくら俺らがいるからってよ。窓を開けっぱなしで寝るなよ。危ねえなあ」
「あ、そっか。忘れてた。すみません。うんと。何か食べますか? 野外調査用の非常食はすぐに出るけど」
いいかけ、そうじゃなくてと我に返る。
「電気はどうなりました? とおった? 地震の被害は?」
そういう先からぐらりと揺れた。余震である。おっと、と身構えるものの、岩ポンと元気と木橋はすでに慣れたようで気にもせず携帯電話を見ていた。
元気がうめき声を出す。
「朋子センセ、停電はしばらく続きそうですよ」
「発電所が止まったらしいです」
木橋が続けて、ええと、と朋子は北海道の地図を思い浮かべる。
震源は胆振地方なんだよね。あのあたりの発電所ってどこだっけ。施設が壊れた? それとも? どんな被害が?
「被害状況はぜんぜん伝わってこないんですけど。まあ朋子センセの部屋も皿ひとつ割れていませんでしたし」
「木橋くん、確認してくれたの?」
「ついでに片づけをしておきました」
すみません、と朋子は木橋に頭をさげる。女子としてもろもろいかがなものか、という思いが押しよせたが、非常時を理由に後回しにする。
岩ポンがベランダへ首をのばす。
「ここから見た限りだと道路が寸断とかもなさそうだしな」
「水はまだ出ませんでしたが。モーターとか電気系統の問題かな? 水道そのものは大丈夫かもしれませんが。ああ朋子センセ、ペットボトルの水を少しいただきました」
「おおそうだ。朋子、俺の土産を出せよ。アレを食おうぜ」
「食べ物なんですか? 珍しい」
「チェニジア風レトルトカレーを見つけてな。お前、あっちのカレーが好きだろ。レトルトのサフランライスもあったしな。そのまま食えるから大学でも重宝するだろうってな。ここで重宝するとはな」
ガハハと岩ポンは笑う。元気と木橋は「朋子センセの生態をどれだけ把握してるんだ」とささやき合っている。朋子は二人を無視して土産を包装袋から出す。
「あ、めちゃ美味しそう」、「お前な。せめて皿に出せや。いきなりこのまま食うのかよ」、「だって水道出ないし」と岩ポンと朋子がいい合っているときであった。
携帯電話を握りしめていた元気が「うお」とさけんだ。
「なんだよ」
「うんと、そんな馬鹿な」
「いいからポンポンといえや」
「あの停電の件なんですが──道内全戸停電との情報です」
「道内? 北海道中のなんだって?」
「すべての世帯が停電です」
一同無言になる。朋子の拳が震える。
北海道にどれだけの世帯があると思っているのだ。
北海道の面積、どれだけかわかっているのか。
それを?
全世帯? 停電?
岩ポンがぼそりとつぶやく。
「さすが北海道」




