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さよならいとしのペンギンライフ  作者: 天川さく
第3章 闇の精霊を呼び出しているのか
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2-2 端的にいえば(後編)

 はあもう嫌になるなあ、としきりに首を振っている。木橋も、ですよね、と元気に相づちをうつ。


「待って。ないから。ぜんぜんないから。だってわたし彼氏いたし。岩ポンだって知ってるし」

「別れたんですよね。そのことも岩嶋先生は知っているんですよね」

「そうだけど。どうして元気さんが気にするのよ」


 さてどうしてでしようねえ、と元気は口の端を歪める。

 はいはい、と由加が手を叩いた。


「論旨がずれているわよ。元気さん、せっかく話が進んだところ悪いけどこっちの話に戻すわね」


 元気は軽く両手をあげる。朋子は首をかしげる。悪いって何が? どうして元気さんに了承をとるの? 


「つまり岩嶋先生はこの事件に関与しないの。朋子センセ、いい? 現実から目をそらさないで」

「事件なの?」

「事件でしょう」と由加と木橋は声を荒げた。


 ぷっ、と元気が噴き出す。あはは、と声をあげて笑い出した。


「まったく朋子センセにはかなわないなあ。まあいいや。飲みにいきましょう。木橋、お前はそろそろ本気で院試の勉強をしないとマズいぞ。さすがに落ちるぞ」

「ちゃんと勉強しています」

「今年は倍率高いらしいぞ。高をくくると痛い目にあう」


 そうか院試、と朋子は我に返る。壁に貼ってあるカレンダーに目をやる。今週末が大学院入試であった。それなのにわたしってば。ごめんっ、と朋子は木橋に両手を合わせた。


「すっかり忘れてた。傾向と対策をしたい時期なのにたっぷり手伝ってもらって。試験が終わるまでそっちに専念して」

「大丈夫です。ちゃんと勉強していますから」

「元気さんじゃないけど、今年は外部からの受験者もけっこういるみたい。油断しないで。ほかの四年生との情報交換をしっかりやって。専攻講座別の対策とかいろいろあるんでしょ?」


 でも、としぶる木橋の横から元気が声をかけた。


「朋子センセはおれが手伝いましょうか? こう見えてもSEMは得意です」


 え? と思わず笑顔になると、木橋が「駄目ですっ」と元気に体当たりした。「朋子センセの手伝いはぼくがするんですっ」と殴りかからんばかりの勢いである。


 正直手伝ってもらえるなら誰でもいい。けれど、ここで木橋をなだめねば院試の勉強をおして自分の手伝いをやりそうであった。落ちたら責任問題である。あのね、と木橋と元気に顔を向けたところで、元気が「なんてね」と両手を広げてみせた。


「敵に塩をおくるようなことはしませんよ」

「敵って」

「せいぜいがんばってください。おれも学会の発表用原稿を仕上げなくちゃいけませんしね」

「へ? ああそうよね」

「それより飲みにいきましょう。『真冬日じょうとう』で今日は何が入ったかなあ。由加さんもどうです? 木橋、お前は勉強しろ。バイトも自粛な」


 そうじゃなくて、と由加が呆れた声を出す。


「ぜんぜん話は解決していないでしょう? 事件の犯人は誰かって話をしているの」


 犯人、と朋子は繰り返す。つい気乗りしない声になった。わかってはいる。由加や木橋がいうようにこれは事件なのだろう。でも。だから? 追及する必要はある? 別に死体が出たわけじゃないし。問題ないのでは?

 わたしにとって一番の問題は試料の山だもん。目の前に迫った学会発表だもん。犯人捜しなんてこれまた正直どうでもいいし。

 ついうっかり声になる。


「それこそ犯人捜しにさく時間がもったいないなあ」

「まだそんな悠長なことを」


 由加に耳をつかまれる。いたた、とたまらず声が出る。まあまあ、と元気がのんきになだめて、由加は元気に厳しい眼差しを向けた。


「元気さん、彼女は元気?」

「なんです? いきなり」


 由加は黙って元気の返答を待っている。元気はかまわず朋子へ視線を向けた。


「朋子センセ、気分転換は大事ですよ。飲みにいきましょう。由加さんも」


 由加の眼差しがさらに険しくなる。元気は動じずに由加へほほえみ続けている。わけがわからない。二人を見比べていると木橋が「あ、ひょっとして」と眉をひそめた。


「元気さん、別れたんですか?」


 ギョッとして元気を見た。


「え? え? 彼女さんと?」

「木橋さあ。お前うるさいよ。もう学生部屋に帰れよ」

「どうして。何があったんです?」

「だから決めつけるなよ。由加さん、早くいきましょう。このままだと朋子センセは仕事をはじめちゃいますよ」


 由加は険しい顔つきのまま元気を見つめる。元気も口を閉じる。口の端には笑みをたたえていた。それを見た由加が肩をすくめた。苦笑している。元気も苦笑を返している。なんなのだ。


「今日は駄目。ダンナが休暇で札幌に戻っているから。たっぷりと美味しいご飯を食べさせたいの」

「それはうらやましい」


 元気はおおげさに眉をあげる。元気さん、と由加はさりげなく続ける。


「ほどほどにね」

「もちろん」


 だから、何が。朋子は拳をにぎる。さっぱりわけがわからない。その朋子の後ろでペンギンたちが飛び跳ねた。

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