寸説 《利き手》
突然、『正面に立っている人と握手してください。ただし話してはいけません』と言われたらどうしますか?
「あ?」
「え?」
この二人の男女は握手が出来なかった。
急に握手しろと言われた。
意味が分からなかったがとりあえず目の前に居た真面目そうなクラスメイトの女子に手を出した。
「あ?」
「え?」
こいつ左手を出しやがった。
突然、握手してと言われた。
疑問に思ったけど仕方ないので目の前のちょっと怖いクラスメイトの男子に手を出した。
「あ?」
「え?」
私は左手を出してしまった。
握手しなくちゃいけねえのに左手を出してきやがった。
俺は右手だっていうのに。
これじゃ握手できねえじゃん。
というか何でこいつ驚いてんだ?
握手しなくちゃならないのに左手を出してしまった。
この人は右手を出したのに。
これじゃ握手が出来ない。
ああ、やっぱり怒った顔してる。
いつも右利きのくせに何で左手を出したんだ。
こいつ本当は左利きなのか?
いつも右利きなのにどうして左手を出してしまったんだろう。
私が本当は左利きだから?
こいつは字を書くのも飯を食うのも右手だ。なら握手も右手出せば良いのに。
私は文字を書くのもご飯を食べるのも右手に矯正した。だから握手も右手を出せば良かったのに。
右手を出すのが普通だ。だって皆、右利きだ。
左手を出すのはおかしい。。だって皆、右利きなんだから。
俺は自分が右利きだということに疑問なんてない。周りからも何も言われない。
私は自分が左利きだったということに苦痛があった。周りからは直すように言われた。
こいつが左利きでも俺は気にしない。
この人が右利きだと私が否定された気分になる。
俺は左手を出した。
私は右手を出した。
こいつに合わせて左手を出したのに右手を出しやがった。
私に合わせて左手を出してくれたのに右手を出してしまった。
「ああ、もう! これで良いだろ!」
「ふぇ!? ちょっと!」
俺はこいつの左手を握ってやる。
私はこの人に左手を握られる。
こいつの左手は柔らかく暖かかった。
この人の右手は強く堅かった。
《重なる右手と左手》
でもこれじゃあーー
でもこれだとーー
恋人みたいだ。