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飼い猫になりました。

作者: 林檎売り

もっと小説を上手くしたいので大変お手数ですがアドバイスやコメントお待ちしております。

 




 それはあまりにも突然の事だった。






 平民の身しかも低下層の猫の獣人でありながら王室専属女中にあり得ないスピードで異例の大出世を成した私ことルルベルは新しく華やかな職場の見学をしていた。


 床を見れば磨きあげられた大理石に壁や天井にカーテンに飾られている物全てに金銀財宝を余すことなく使われた絢爛豪華な厳かな空気に平民の私は恐れおののいていた。案内をしてくれる優しい騎士様にこれまた優しげな女中様の先輩にこれからの王室専属女中生活に胸に馳せていた。


「さぁ座って」


 騎士様と先輩女中様に案内された一室にてこれまたお高そうな紅茶とお菓子を出され「遠慮しないで」と笑顔で進められ、ご厚意有りがたく頂くといきなり突如意識がブラックアウト。視界が急に狭くなり強烈な眠気にバランスの崩れた私の身体を受け止めた騎士様になんとかすみませんと言いたいが、上手く口が回らない。薄れ行く意識の中「騙されやすいのね」と嘲笑いながら呟いた先輩女中様の声が鼓膜に響いた。


 目覚めると黄金でできた檻の中であった。

 首には王家の紋章のマークの入った首輪をつけられ、着ていたメイド服はいつの間にか外には出られない際どい服に変わっていた。気を失うまで日が照っていたのに辺りは暗闇で猫の獣人で暗闇はある程度見える筈なのに檻の外に何が有るのかさえも解らない。どれ程時間が過ぎたのか、何が起きたのか、理解出来ない私は身体をガクガク震わせながら助けがくるよう祈っていた。


 ーバタンッ



 扉が何処からか開く音がし、誰かが手元のランプを持ちながら此方に近づいてきた。声を掛けたいが、味方か敵か判断がつかず檻の端に逃げる。恐怖で心臓が速く強く鳴る。近づいてきた人は派手な服をきた野生的で、それでいて美しい男だった。褐色の肌に黒い髪、瞳は金色



 男の金眼と目が合った瞬間言い様のない本能の警鐘が頭の芯から生まれた。涙が止まらない。逃げなきゃ、速く、噛み砕かれちゃう、食べられちゃう、逃げなきゃ、



「助けて..下さい..殺さないで..。」



 つたなくそれしか声を出せない。

 するとそれを聞いた男は長い腕を此方に伸ばしてくる。その指先を見ると爪が黒色で尖っている。その特徴は珍しい黒狼の獣人のそれであった。獣人の中でも一番危険で本能に従って生きている種族であり、最も強い種族である。人や黒狼以外の獣人も食べる者もいることで有名だ。そしてこの国の王族は黒狼だ。頭の中で「騙されやすいのね」と笑った声が再生される。


 つまり私は獲物(しょくざい)として献上された?


 うすのろい頭でそう理解した瞬間、とても熱く大きな手が首輪回りを優しく撫でた。鋭い爪が僅かにあたる。動脈の上を通るそれは凶器でしかなかった。この(ひと)が少し強めに爪をたてるだけで、それで終わりだ。瞼を強く閉じ身体を固くさせた。腕が首から離れていき、檻が開く音がする。と身体がぐんと強く引っぱられた。あれだけ身体を固くしていたのに、いとも容易くだ。もう駄目だと絶望する。頬に流れる涙を熱い舌で舐められるのを感じ驚き思わず目を開けた。


「ひぁ..」



闇夜の中らんらんと輝く瞳がこちらを覗きこみながら頬に首辺りをゆっくり舌が撫でる。逃がさない為に掴まれる腰。肉食の獣人は獲物を捕まえた時に首を噛んで止めをさす。そんな記憶が思い出されて自分の喉骨が跳ねるのを感じる。しかし、ふわり香る匂いにじんと頭がぼんやりと甘く痺れて何も上手く考えられなくなる、じわじわと広がるむず痒い甘さに恐怖が薄れる。耳元まで舌が伸びて生暖かい吐息がかかる。


「名前は?」

「....へ?」


舐めながらこちらを伺う様子がわかる。今なんて言った?


「お前の名前は?」

「え、あ、ルルベル..です..。」

「ルルベル..ルルベル......今日からお前の名前はルルだ。」




そう言って軽く触れる程度のキスをされた。この瞬間から私は王家の血縁の方であろう(ひと)の獲物からペット兼非常食へと昇格された時であった。




ーーーーーー


私の仕事がメイドからペット兼非常食に変わってから業務内容が大幅に変わった。まずこの(ひと)が気が向いた時に首や手首に甘噛され、愛でられ、気の向いた時にキスをされ、膝枕をされたり膝にのせられ、一緒に昼寝や添い寝をしたり、餌付けをされる。部下の方らしき人が居る前でもしなくてはいけないのでとても恥ずかしい。だがこの(ひと)から香る匂いに酔いしれ物事を深く考えなくなっていた。何か話し合いをしてるな、まぁいいかとこの(ひと)にすり寄る。そして最近知ったのだがこの(ひと)の名前はカイ様と仰られるみたいだ。畏れ多くて呼んだこともないが、あととても無口な方だ。私も何も話し掛けないがこの(ひと)も殆ど話し掛けてこない。かわりに



「ルル」




私を呼ぶ時はカイ様は名前だけで呼ぶ。呼ばれた私は側まで近より機嫌を伺う。私が庭ばかり見てると機嫌は悪くなり噛まれる事が増えるが、常にカイ様の側から離れないでピットリと引っ付いていると機嫌がよくなり見たことの無いような宝石がついた首輪のプレゼントや甘い口づけの上で抱擁が待っている。


そんなカイ様に私は次第に心が惹かれている。食べられてもいいくらいに好きになってしまった。この蜜月が終わり飽きられてしまう位なら美味しく食べてほしい。そう思いながら毎夜優しく包んで下さるカイ様の腕の中で眠りにつく。そんな毎日が繰り返された。が。今日はやたらと部下の人が騒がしい。ギャーギャー騒いでいる。それを座られているカイ様の膝の上にそっと頭を寄せ頭を撫でられる事を甘受する。嗚呼幸せだ。



「可哀想だとは思わないのか?!この子の知り合いのハウナーって子やご家族から嘆願書を送り付けられたんだぞ!!確かに王族は献上された物は受け取ってもいいが同じ獣人を献上するとは100年以上前に行われている事をしでかすとは、あのクソ貴族が!」


はうなー、ハウなー、ハウナー、あれ?、兎の獣人のハウナー、友達のハウナー、おせっかいだけど優しいハウナー....あれ?..どうやらハウナーの話をされてるみたいだけど、何があったんだろうか?聞かなくちゃ..何だろうと部下の人をまじまじと見て聞こうとしたが


「ルル」


ふいに、抱き寄せられて頬にキスをされる、そうするとまたふわりと香る匂いに思考が停止する。ハウナー?ハうナー?はうなー?あれなんだっけ?まぁ別にカイ様がいれば..。カイ様が私の全て、それ以外どうでもいい、それが正しいんだ。くたりとカイ様の胸板に身体を預ける。嗚呼私は本当に幸せだ。



「カイ、お前も突き返すつもりだったんだろう、なんでフェロモンで支配させてんだよ!」


「献上してきた貴族つぶしたからいいだろう。」



キスを頬や耳元にされてそれだけで溶けそうになる。どろどろと溶ける意識下でカイ様にすがり付く、世界でカイ様しか私の渇きを満たせない。もっと構って欲しい。もっともっと..。


「その子にも権利ってやつがあるだろう。」

「妃にする」

「はぁ?!独身貫くんじゃないのかよ?!」

「気が変わった」

「はぁあ?!」

「俺のものだ。」

「いやいや自由意志を持たせようよフェロモンで支配するのは無しでしょ?」

「..震えていたのだ。」

「はい?」

「初めて会ったとき『殺さないで』と哀願していたのだ。」

「誰でも檻に入れられた状況になればそうなるわ!!」



うるさいな、今日はなんだかいつもより騒がしい、カイ様がいればそれでいいのに、カイ様が..。そうだ最大の愛情表現をして私に構ってもらおう、この時初めてカイ様に私からキスをした。すると噛みつくような激しいキスをされる。もっと噛んでキスして欲しい。あれ?私こんなこと考えるタイプだったかな?幸せだから良いか..。嗚呼ワタシハトエモシアワセ




長いキスを見ていた部下の方は深いため息をつきながら頭に手を当てている。


「あのなぁフェロモンで支配しても後が虚しくなるぞ、フェロモンの元のお前から1日でも離れれば..本来の感情が戻るって知ってるだろ、真の心までは変えることはできない。」

「煩いぞ」

「先人の忠告だぞ、支配を解いて膝をついて詫びろ、そんでもって求愛に励んだ方がいいぞ」

「だまれ」

「いーや黙らんぞ王が誤った道に進むのは王族の端くれは許さんぞ」

「いつか支配は解く」

「逃げられないようになってから本当に愛してるかどうか試して、愛が無ければまた支配して完全に壊す気か?」


 

カイ様が急に黙られた。どうしたのだろう?泣きそうな顔されてる気がする。可哀想に撫でてあげないと、幼い弟はこれで泣き止んだんだよね。抱き締めて撫でて子守唄を歌わなきゃ....?..あれ?私に弟っていたっけ?..とにかくカイ様を慰めなきゃ..。



「~♪~♪..カイ様..カイ様..」




壊れたレコードみたいに名前を呼ぶ私を見て、濁る視界の中でカイ様がなんだかもっと苦しそうな顔をした気がした。



そういえば..ルルベルって誰の名前だっけ???




果たしてフェロモンが抜けても愛しているのかは神のみぞ知る..です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっとアホの子かわいい。 王様かな?と思ったらその通りで萌える。 獣人世界の設定が面白いのでスピンオフできそう [一言] 別人物の視点で続編希望
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