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10. 異なる認識

短い時間ではあったけど、それでもあれだけの言いあいを教室なんて公な場所でしたんだから、きっとクラスメイトたちから私に対する風当たりは強いんだろうな、ってぼんやりと思ってた。

適当な雑談以前の問題で、どっかの誰かさんの家族不和を積極的に聞きたいなんて思う人は少ない。

……まあ、面白がりの野次馬は何処にでもいるし、だけど、『私』というクラスメイトのあれやこれやを聞かされても、よほど意地の悪い人間でも限り、クラス替えがあったところで二クラスしかないなか、卒業するまで顔を合わせる可能性も高いのだから、気を遣わないといけない事態は避けたいのが本音だろう。

わざわざ吹聴することは無かった問題なのだから、それをどうしてココで話したのか。妹といえど、自分から関わりに行く気は全く持って起きないが、時と場合を考えて欲しいものである。

自分も思ってる以上にキテたみたいで、翌日の目覚めは最悪だったし、学校に行く足どりも重くなってた。

特に校舎入り口から教室までの数分間で、心臓の音が早くなっていったのを自覚したときは、泣きたくなった。


『おはよう』


という挨拶は、いつもよりずっと小さくしか言えなくて、その小さな声さえも掠れて聞こえて唖然とした。

家を出た時間は普段どおりだったのに、昨日の雅とのやりとりと、それを余すところなく聞いていた筈のクラスメイトたちからの視線が怖くて、教室に入ったのは予鈴がなってから。

表情だけは取り繕ったつもりだったけど、私と雅の間に入ってくれた親友、水城梓が、私を見た途端、心配そうな視線を向けてきたから、やはりショックが抜けきれていなかったんだと思う。


割り切っていたつもりだった。

そのいつかは、昨日来てしまった訳だけど、割り切った筈だった。


それでもこれだけ動揺してるってことは、やっぱり私は弱かったのかも知れない。


黙っていることで祖父母に余計な迷惑を掛けることが容易に想像出来たから、学校であった雅との確執を話しはしたけど、あくまで報告。祖父も祖母も難しい顔で黙り込んだので、相談は出来なかった。

不安なまま夜を過ごして、今に至る。

登校後は時間もなくて詰め寄られることも無かったけれど、流石に昼休みになればそうもいかなくなった。

でも、それまでに梓をはじめとした友人たちと話すことで、私もある程度、気持ちの整理をつけることが出来ていたから、あのことについて呼び止められても冷静に返事を返すことができたわ。


「茨木さん?昨日のことなんだけど、大丈夫なの?

あの子、妹だからって、何回も同じことが起こるのはちょっと、」

「…あ、うん、ゴメンね。

私もまさか学校で突っかかってくるとは思わなくて。

今は別に住んでるからまだ話し合いは出来てないの。かと言って向こうの教室でするのもアレだし」

「……あ〜、そうだよね。でも内容も相当だったけど、そもそも話し合いなんか出来る状態なの?仲がいい、悪いよりも、話自体噛み合わないんじゃない?

それって、あの子の主張からして向こうの思い込みが酷いのはわかったけど、それでも全部が全部そうじゃないよね?茨木さんの方にも原因があるんじゃない?じゃないとあんな極端なことにはならないわよ!」

「…うん、ほんとゴメン。なるべく早くどうにか出来るようにする」

「……はあ、わかった。でも昨日みたいなことは面倒だし、見てて気分も良くないから、あの子が来ても無視するよ?私は絶対取り次がない。いいよね?」

「構わないよ。私も皆んなに迷惑掛けたい訳じゃない」

「ならいいわ。まあ、母親が贔屓してるんなら、直ぐに解決なんか無理なのもわかるしね。茨木さんだけが気を付けても、あっちが関わってきたらどうにもならないし?

茨木さんにはいつもわからないとことか教えてもらってるから、何か言ってきたら悪い噂とか流されないようにフォローくらいはするよ。

その代わり、化学のノートコピーさせてくれない?

今度のテスト範囲でわからないとこ多いんだよね?ついでに教えてくれると嬉しい」

「わかった。本当にゴメンね?」


現金な話だと思うけど、うちのクラスで発言力のある子が話を振ってくれたから、それがそのままクラスの認識となった。

私の負担は、各教科のノートをそれぞれにコピーしてあげることと、わからないところを教えてあげること。これはいつもしてることだから、特別負担が増えた訳でもない。

『!そうだ。今度、今茨木さんが住んでる家に遊びに行ってもいい?お爺ちゃんとお婆ちゃん家なんだっけ??

前に話してた庭見てみたい!』

ってコソッと言われて、笑いながらも頷いた。


結局、祖父母の家に呼ぶことになったクラスメイトは、それを言い出した氷上杏花と彼女のグループの子が2人。

梓が心配して来てくれたけど、元から険悪な感じでもなかったからそれなりに話をして帰って貰うことができた。

花の時期は過ぎていたけど、ガクアジサイを見ているのに気づいた祖母が、今年、植木鉢に挿し木していたモノがあったので、世話の仕方を簡単に書いたメモと一緒に勧めてくれて、とても嬉しそうに受け取っていた。

単についてきた感じの二人には、可愛く作られたポプリの小瓶を。


女子どうしの関係は、特によく気をつけないと、簡単に敵になってしまうから要注意だ。

一方的に下手に出て貢ぐ状態になってしまうのも駄目だけど、今回みたいに、わざとで無くても迷惑を掛けたなら、それなりの誠意をみせる必要がある場合もある。

梓のように気心の知れた親友なら、謝罪の言葉だけでも平気かも知れないけど、そこまで親しくしていなかった子が様子を伺ってきたとき、その子がクラスカースト上位であったなら、おかしな対応をして機嫌を損ねただけで、翌日にいきなり他のクラスメイト全員から挨拶も返されず無視されて、剣呑な視線を投げつけられることもあり得るのだから。

必要以上にへりくだるのも、虐められる原因になりかねないから良くはないけど、迷惑を掛けたことに対して『悪いと思ってます』というアピールはしておかないといけない。

内心緊張しながら数日間を過ごし、誰の態度も変わらないことを確認出来たことで、ようやく胸を撫で下ろすことが出来た。


……雅はあれからも教室を尋ねてきてはいたようだけど、氷上さんを筆頭に、クラスメイトたちが悉く袖にして追い返していた。

昼食はお弁当を持参してたから食堂に行くこともなく、もちろん母のいる家に帰ることもしてないので、接触の機会が少ないのは否めないけど、話をする気さえあるなら祖父母のいる茨木の家に来ればいいのに。どうして雅はそうしないのだろう?

私が歩み寄る気が無いのは、あの日の問答で理解してるハズ!

それでも話したいことがあるのなら、話し合いから逃げられない状況でするか、キッパリ諦めればいい。

雅には母がいる。

母はどうしたところで無条件に雅の味方をするだろう。

それを前提に文句を言われても、私が頷くことはない。

私の話を最初から聞いてくれないとわかっていて、私以外の味方がいない場所に近づく気はもう無いのだ。

私を理不尽に虐げてくるところに戻る気は無い。


だから、


雅も好きにすればいいのに。

散々馬鹿にしていた姉を構うことは無い。

私はもうあの家にはいないのだから、お互い煩わしく思うことはなくなった筈。

母も目障りな娘が居なくて清々している筈でしょう?

これで思う存分、雅だけを構える環境が整ったのに、一体何を考えてるんだろう?


家の恥を外に見せるのは、成績を固辞する母にとっても、世間体という意味で忌避すべきことの筈なのに、雅へそれを許している。


……今度は何を企んでるの?


そう思うくらいには、母や雅へ強い不信感を抱いていた。

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