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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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彼女は、悪役令嬢だった。

作者: 狼丘びび
掲載日:2018/06/11

それはとある国のとある昔話。




 憎くて憎くて堪らない。

 あのピンクの髪も、唇も。紡ぐ言葉も、奏でる声も。

 憎くて憎くて仕方がない。



 なぜ、私ではないのでしょう。貴方の隣にいるのは、なぜ私ではないのでしょう。

 ああ憎い。

 羨ましくなんかない。ただただ妬ましい。憎らしい。妬ましい。


 あんなに側にいたのに。側にいたのは私なのに。貴方はその子を選んでいった。私のことなど目にも留めずに、あの子だけを選んで愛でた。

 ああ憎らしい。嫉ましい。







 次期国王が婚礼の儀を執り行うと国中にお触れが回った日、彼女は王宮に火を放ち、その身を燃やし、黒い灰となった。


 彼女はこの国有数の貴族の娘で、幼い頃より次期王妃だと誰からも謳われてきた。彼女自身もそうだと疑う事なく十八年生きてきたが、次期国王である王子が選んだのは、しがない村娘だった。

 薄汚れた服、黒ずんだ肌、埃まみれの髪、教養の欠片も無い所作、不躾で無神経な言動。その全てを備えた娘に、王子は心を奪われた。村娘は、誰よりも顔が美しかったのだ。


 一瞬にして未来の地位を失った彼女は、村娘に嫉妬した。王子が村娘へ向ける熱い視線に、優しい仕草に、柔らかな声音に、燃えるような眼差しに、嫉妬しては泣き腫らした。

 それでも彼女は信じていた。この国で一番王妃に相応しいのは、誰でもなく自分だと。村娘よりも自分が次期王妃になるべきだと。


 だが結局、王子が妃に選んだのは村娘だった。

 王子は誰よりも美しい娘に夢中で、それ以外を蔑ろにした。王子の学問も執務も何もかもが、村娘を中心に回った。それに異を唱えた者は、次の日にはこの国を追われ姿を消す。次は己が消されるのではと恐れて、誰も王子を咎めなくなった。諌めるべき王家は世継ぎにのみ興味を示し、他の事には目を瞑っていた。

 世間は王子の婚礼の噂に素直に喜び、祝いの準備を始め、街は祭りのように華やいだ。国民は皆前祝いと称して騒がしく歌や踊りを舞っていた。



 彼女はその日、自前の豪奢な馬車で王宮の門をくぐった。慣れた足取りで豪勢な庭を通り、慣れ親しんだ廊下を我が物顔で進み、王宮を闊歩した。

 顔馴染みの衛兵に、その歩みを止められる事はなかった。皆、王族に程近い血筋と家柄の彼女が王宮にいる事を不審に思わなかった。

 だから、それは起きた。


 催事の時はパーティーも行われる大ホールの中央。彼女はそこに立った。

 頭から油を被り、華やかなドレスを油で濡らして、艶やかな髪を油まみれにし、彼女は叫んだ。



「この身が地獄の業火で焼かれようとも、お前達を決して許さない。私の内より燃え上がる嫉妬の炎は、この国を残さず全て焼き尽くすだろう!」



 誰が聞いていたのか、それが彼女の最期の言葉だった。

 その呪いの言葉通り、この国は焦土と化した。


 燭台の蝋燭から火が移り、油に濡れた彼女はあっという間に火達磨になった。

 その火は勢いよく燃え上がってホールを火の海にし、王宮は炎に包まれた。炎は火の粉を生み、火の粉は王都の家々へと飛んだ。

 一軒、また一軒と火は移り勢いを増し、王都を囲う塀の中すべてが炎の渦となった。



 ようやく火が落ち着いたのは、雨が降った7日後の事だった。王都の家々は灰になり、王宮は跡形もなく焼け落ちた。



 生き残った者が、彼女の事を伝えた。その生涯を、その最期を、大陸中に語り継いだ。


 彼女は、主役ではない。

 彼女は、お姫様ではない。

 彼女は、主人公の幸せな結末を邪魔する者。



 彼女は、悪役令嬢だった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に「悪役」となってしまった令嬢の話でした。嫉妬心のあまり、自分だけではなく周りの全てを不幸にしてしまう過程は悲しいものがありました。 [気になる点] 修正提案です。 それに(意)を唱え…
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