第7話 お出掛けしようよ
※あともうちょっと書いたら、本当のお終いとします。
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子供の成長は早いって聞くけど、あれ本当だな。
どんな理屈かしらんが、アメリアが4歳くらいに急成長したのだから。
何かスイッチでもあったのか、それとも灰龍姫の性質なのかすら分からん。
まぁ、正体はどうあれ可愛い我が子なんだがな。
大通りを駆け回る2つの影を眺めつつ、そんな事をボンヤリと考えた。
「兄さま、こっちこっちぃ!」
「アメ! 前見て走らないと転んじゃうぞー!」
ダイチとアメリアの仲は良い。
たまに派手な兄妹喧嘩をやらかして、天をも焦がすような魔法合戦を繰り広げたりはするものの、今の所は色々と無事だ。
2人の絆も、街の各施設も。
問題なく遊び回る姿を確認すると、オレは街中央に設えた宝物庫へとやってきた。
「おっと、王様が来なすったか」
「タクミさーん、わざわざすみませんねぇ」
出迎えたのは建設を一手に担うドンガ、そして会計担当のシスティアだ。
2人とも宝物庫の中央に積み上げられたガラクタらしき物を見物するように佇んでいる。
「すげぇ量だな。しかも汚ぇし」
部屋を占拠している山は、クズ鉄や錆びた武器やらが大半だ。
辺りにはうっすらとカビ臭さが漂っている。
「多少は仕方ないですよぅ。なにせスケルトンたちの副葬品ですからね」
「しっかしのう。戦闘を回避するばかりか、臣従までさせてしまうとは……。この貢物もお主の手腕の賜物というものじゃな」
これはレイラの股間で稼いだんですよー、とは流石に言わないでおいた。
まさかパンモロの件で連中が副葬品を差し出すとは思いもよらなかったし、手腕とか言われても正直困る。
しかも生前の所有物とは言え、大事な副葬品を「煮るなり焼くなりお好きなように」なんて言いやがった。
よほどパンツがお気に召したらしい。
オレは畏敬と呆れを半分ずつという、かなりレアな感情を器用なバランスで抱いていた。
「んで、このガラクタはどうすんだよ。ここに置きっ放しか?」
「使い道が無いのであれば、工房で使わせて欲しいのう。鉄はいくらあっても足りんからな」
「良いんじゃねえの。どうせ臨時収入みてぇなもんだし。リョーガにはあとでオレから伝えておく」
「恩に着るぞい。早速若い衆を呼んでくるとするか」
ドンガがスキップにも似た動きで宝物庫から出て行った。
たしか年齢は70歳くらいだったと思うが、身のこなしからは年寄りには程遠い。
「臨時収入と言えばタクミさん。お金も沢山手に入りましたよぉ」
そう言ってシスティアは革製の小袋を取り出し、袋の口を開け広げた。
中には金貨が窮屈そうに詰め込まれている。
「すげぇ量だな。どうしたんだ?」
「いただきものの中に古銭とか記念硬貨がありましてぇ、それがマニアに良い値で売れたんですよぉ」
「ふぅん。あんなカビくさい金がねぇ」
「そこがむしろ良かったみたいですよ。歴史を感じさせるとか何とか」
「そういうもんかよ。そんでさ、稼いだ金は何に使う?」
小袋満載の金貨など、中々お目にかかれるものではない。
ちょっとやそっとの豪遊じゃビクともしないハズだ。
一体どんな詐欺……もとい口車、いや交渉を重ねたのか、と思う。
「うぅーん。新しい交易車でも買います?」
「まだ要らないんじゃないか? 生産の方が追いてないから、輸送枠にはゆとりがあるぞ」
「じゃあ何か施設でも建てますかぁ?」
「資材も人手も足りてる。金を投入する意味がねぇな」
「うぅーんと、慰安旅行とか?」
「行くわけねぇだろ面倒臭ぇ」
「ですよねぇ」
引きこもり国家首脳を舐めるなと言いたい。
こちとら家から離れる事でさえ苦痛の極みだし、可能であれば一秒たりともベッドから身を起こしたくない。
「ともかく、必要になるまで金は置いとけ」
「あぁ何て事……お金ちゃんを眠らせておくだなんて!」
「……イリア」
オレが独り言のように呟く。
すると倉庫床下の収納扉が音も無く開いた。
そして次の瞬間には、あの変態メイドが目の前で跪く。
「イリア、参上いたしました」
「金を着服しないよう、システィアを見張ってろ」
「はい、ただ今」
「オレが次にお前を呼ぶまで、システィアから目を離すな」
「承知いたしました」
「タクミさぁーん、そんな神経質な……」
「神経質だと? じゃあサッサと袋を床に置けよ」
「えっとぉ、すみませぇん。もうちょっとだけ重みを味わってもいいです?」
システィアは両腕で大切そうに袋を抱いたままだった。
まるで我が子を慈しむように、頬擦りまでする始末。
つくづく会計担当にしたのは失敗だと感じた。
イリアに監視の命を出すと、オレは倉庫を後にして寄り道する事なく帰宅。
総移動距離は10歩。
それでも、普段は家どころかベッドから離れる事さえ稀な自分からすれば、歩くだけでも過重労働だと言えた。
だから慰安旅行のような遠出だなんて、検討する余地も無い。
「ただいま。帰ったぞー」
軽く声かけをしつつ帰宅すると、奥から小走りでアイリスがやってきた。
「タクミ様、おかえりなさいませ!」
いつもと変わらぬ満面の笑みでお出迎えだ。
手櫛で真っ赤な髪を何度も撫でつけつつ、「エヘ、エヘへ」と楽しげな声を漏らしている。
これは何か面白い出来事があった訳じゃなく、アイリスは大体がこんな感じだ。
彼女の愛玩動物っぽさは今日も健在なのだ。
「そう言えば、タクミさまと入れ違いでマリィさんが来ましたよ。あとで法務局に来てほしいとか何とか」
「そうか。行けたら行く」
「それと、先ほどお昼ご飯を作りましたけど、もう食べますか? クルミ蕎麦ですよ」
「あんまり腹は減って無いんだよな。子供たちと一緒に食おうか……」
その時、ドアの向こうが急に騒がしくなる。
どうやら外遊びから帰って来たようだ。
「ただいまーー! お腹減ったぁ!」
「かか様、とと様、アメリアはゴハンを食べるの!」
「……もう帰って来たのか。早えよ」
「タクミ様。どうされます?」
「うん、いいや。食事の用意をしてくれ」
「わかりました、すぐにお持ちしますね!」
キッチンへ消えていくアイリスと入れ違いになる形で、ダイチとアメリアが食卓に着く。
大人用に作った足の長い椅子だが、うちの子たちは難なく着席する事が出来る。
思わず見とれてしまう程の身体能力。
そして座ったなら、いつものように大合唱が始まる。
ニコニコと笑う2人を見ているだけで、オレは満腹感にも似た想いで満たされた。
「ご、ご、ごはん! アメリアのごはん!」
「ご、ごごごはん! ダイチのごはん!」
この兄妹には血のつながりが無いので、外見は微塵も似ていない。
だけども言動はトレースしたように同じだったりする。
何故だか分からんが、それが堪らなく嬉しく感じる。
しばらくの間料理を待っていると、2人の手が汚れている事に気づいた。
手の甲や腕には、派手に遊んだ証がそこそこに刻まれている。
『お手てを洗ってきなさい』と言いかけたが、それを遮るようにしてアメリアが言った。
寝耳に水というか、完全に想定外の言葉を。
「とと様、オンセン!」
「うん? アメリア、急にどうしたんだい?」
「アメリア、オンセンにはいりたいの!」
「パパァ。僕も温泉に行ってみたいよ。こないだレイラ先生が教えてくれたんだ!」
「そういや2人とも温泉は未体験か。じゃあ明日にでも行こう」
「ほんと!? ほんとうに?」
「ああ、もちろんさ。オレもたまには外のお風呂に入りたいしな」
やっぱり人間、外に出ないとダメだと思う。
気が塞ぐというか鬱屈した気持ちになるもんな。
さっきの提案は渡りに舟だと言って良い。
お出掛けするとあって、子供たちはどちらも大興奮してしまう。
せっかくお行儀良く座っていたのに、即座に床へと降り立って追いかけっこが始められた。
子供たちが奇声をあげてはしゃぐ中で、アイリスのやんわりとした叱責が被さる。
ここも随分と賑やかになったもんだと思った。




