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転生を断ったら、日替わりでチート能力を届けられるようになった  作者: おもちさん
第2部  転生を断ったら、女神と旅をすることになった
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第31話  守るべきものの為

オレはまるで放たれた矢のように王都を飛び出した。

今は一分一秒すら惜しい。

ほんの一呼吸違いで生き死にが分かれる命があるかしれない。

そう思うと、ノンビリしていられる理由など無かった。


ジュアンからは早馬の手配もされたが、それは断った。

馬は平地しか走れないため、結果的に大回りしなくてはならない。

その典型的な例が今目の前に立ちふさがっている。



「帰らずの森……か」



手付かずの原生林のせいで馬を疾駆できない

森だ。

もちろん整備などされておらず、街道も森を大きく迂回するように続いている。

ここを通過できればかなりのショートカットになる。

悪い噂しか聞かない場所だが、構わず突入した。


陽の光の届かない鬱蒼と繁った森を進んでいると、突然下卑た声が響き渡った。

木々の間には老婆らしきものが見える。


「ゲヒヒ、お前さんで1000人目の生け贄だよ。大人しくその命を差し出……」

「邪魔だ、どけぇー!」

「ギャアァァァーッ」



よくわからんバアさんを体当たりで撥ね飛ばした。

今のは悪者でいいんだよな?

生け贄がどうの言ってたし、今のは成敗ってことでいいよな?

よし、オレはノット・ギルティ。



森を抜ける事が出来た。

かなりショートカットできただろう。

だが、もうひとつ難所がある。



「ここは地獄の沼地……だな」



森のすぐ隣には広大な沼地が広がっている。

ここを通過できればアシュレリタは目前となる。

できればここも突っ切りたい所だ。



「ここが使いどころだな。魔力強化!」



人間の時に散々使い倒した技のひとつだ。

これは魔力によって身体能力を大きく向上させるものだ。

長時間使うとあっという間に力を使い果たしてしまうデメリットはあるものの、この場面では重宝すると言って良いだろう。



「いくぞ、オラァァァーーッ!」



水面を駆ける白鳥のように、沼地を疾駆した。

踏み込んだ足が絡め取られる前に、次の足を前に出す。

その要領で沼地の半分を踏破できた。

だが、そのまま突破という訳にはいかなかった。



ーーギャォォォオオオーーンッ!



巨大なミミズのような化け物が突如襲撃してきた。

オレをひと飲みにしようと、大きな口を開けて覆い被さってくる。

直撃すれば無事では済まないだろう、圧倒的体格差を活かした攻撃だ。

だが、オレにはお遊びをしている時間はない。


「邪魔すんじゃねぇーー!」

「グオオォォン」



低い姿勢から放たれた斬魔剣。

追い抜きざまに見事ヒットし、化け物を両断した。

敵はその巨体をフラつかせ、大量の泥を飛び散らせながら体を横たえた。

返り血と汚泥に塗れながらも先を急いだ。



「よし、沼を、抜けたか!」



さすがにこの頃には息が上がってしまった。

それでも出発してまだ半日。

相当疲れはしたが、それに見合うだけの成果だろう。

大回りしたらどう急いでも一昼夜かかっただろうから。



水休憩だけとって、再度駆け始めた。

ここはもうグレンシルだ。

アシュレリタも目前へと迫っている。

辺りはすっかり暗くなってしまったが、街の明かりがあるから迷わずに済みそうだ。



「みんな、無事でいろよ。こんな所で死ぬなんて許さないからな!」



どんな形でもいいから生きていてくれ。

街がどんな状態であっても驚いたりはしない。


あれこれ悩む間もなくアシュレリタに到着した。

何やら街の中央広場が騒がしい。

もしかして、犠牲者が出たのかもしれない。

ラストスパートをかけて向かった。



「みんな、無事かッ?!」



広場はたくさんの薪が焚かれ、真昼のような明るさだ。

その中央には大きな杭が打たれている。

そしてその杭に人がはりつけにされていた。

その人物はというと……。



「アゴおじさん?!」

「フゴッ! フゴゴフゴッ」



ロックレアの領主だった。

猿ぐつわをされ、両手の自由も奪われている。

あれ、どうしてこうなってんだ?

アシュレリタが攻められてた側なんじゃないのか?

オレの声に真っ先に答えたのはアイリスだ。



「タクミ様?! いつの間にお戻りで!」

「アイリス、それは置いといて。まずは何が起こってるのか説明してくれ」

「はい。それは構いませんが」



話は単純明快だった。

ロックレアが攻め寄せる。

あわや開戦、というところで敵が消滅する。

アゴおじさん逃げる。

それをマーガレット(誰?)が追いかけ、捕縛。



「そして今先勝祝い及び、タクミ様に命を捧げる儀式を始めた所です」

「わかった。まずは止めさせろ。オレがあんなアゴになったらどうしてくれる」

「止めさせるって、まさかお許しになるんですか?」

「そんな訳ないだろ。ジュアンに引き渡すんだよ」



魔人側でニンゲンの有力者を手にかけるのは良い結果を生まない。

無駄な逆恨みもされるだろうしな。

だったらニンゲン側に裁いて貰う方が断然良い。


つうかさ、気づいてしまったんだが。

自覚しちゃいけないと思っていたが、言っちゃっていいかな。



「急いで帰ってくる意味なかったじゃねぇかー!」



言うだけ無意味な叫びが響き渡る。

これがやり場のない怒りというやつか!

こんな結末だったなら馬に乗って悠々と帰ってきたっつうの!



「私はタクミ様にまたお会いできて、すっごく嬉しいですよ!」



ピョコンとアイリスがオレの目の前で跳び跳ねた。

顔を満開の花束のように咲かせながら。

あーうん、もうそれでいっか。



「そうだよ、お前に会いたくて超高速で帰ってきたんだよ!」

「まさかの好反応! もしかしてお妃様一直線?!」



半ば自棄になってアイリスを姫抱っこしてやった。

お妃とか言ってるが何の話やら。



「安心したら腹へったな。なんか食うもんあるか?」

「倉庫にクルミを山のように積んでおきました! タクミ様が戻ったら食べていただこうと思って」

「いいじゃねえか、じゃあこれからクルミパーティーといくかー!」

「はい! どこへでもご一緒します!」



アイリスの様子がちょっとおかしい。

だが、おかしいのはオレも同じだろう。

こうしてオレたちは夜の街へと消えていった。



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