FILE2:3 思考
対策本部から一時間程度の距離に位置するウロボロス一の大都市に、その建物は建っていた。
しかし、この建物は周りの新しい建物と違って、重々しい歴史を感じさせている。
焼け焦げたあとや銃創、おそらく人の血が付けたであろう血痕がところどころに点在している。
総司の話では、ウロボロス最古の建物であり、特別なときにしか使用しないようだ。
この建物のすぐ裏にREG ENDという名の星を貫いた大穴があるほど、国の辺境の地にあるため戦火を逃れたらしい。
誠一
「明日はここで戦闘の可能性有りか。
まさに背水の陣って感じだな。」
脅迫状が本物だとしたら明日MARSが披露されるそのときに強奪する可能性が高い。
サウル道元はまだ一般にはMARSの使用価値など明かされていない点から、ただのいたずらだろうと笑い飛ばしていたが、どうにも気に食わない。
おそらくやつの考えは隊長の言っていた通りだろう…
桐生
「一条さん、なぜウロボロス本部長の道源さんは、いたずらだろうと言いながら私たちを呼んだのでしょう?」
桐生は頭をひねりながら考えていたが、一人で考えていても答えが出せないので、ついに一条に質問した。
ウロボロスが画かれたのステンドグラスを見つめていた一条は、桐生に振り向くと進入禁止と書かれた手すりにもたれかかった。
一条
「桐生にしてはいいところに気がついたな。
なら何で呼んだのか、お前の考えられる範囲内で答えてみろ。」
自分が質問をしたのに逆に聞き返されたことに少し戸惑った様子だったが、自分の意見を聞いてもらえるのがうれしいのか、桐生は満面の笑みを見せたあと、急にまじめな顔になった。
桐生
「はい、えっと…、
まず考えられるのは簡単な任務なので、それを合同演習のような形で私たちに見せ、自分の武力を見せたいということ。
あと、我らの軍とのスキンシップをすることで、戦争などを未然に防ぐなどといったところでしょうか。」
それを聞いた一条は桐生の目を見ながら笑みを見せて、
一条
「道元からすれば90点だが、俺からすれば10点だな。」
と、言った。
それを聞いた桐生はキョトンとした顔をしている。
桐生
「90点、10点?。
一条さんの考えはどうなんですか?
できれば道元さんが90点な理由もききたいのですが…」
一条
「そうだな、道元からすればお前が言ったとおりのことを他国にも思わしたいのがねらいだろう。
しかし、あいつらからしてみればせいぜい俺たちを都合のいい隠れ蓑程度にしか思ってねえだろうな。」
隣で話を聞いていた誠一は
誠一
「同じ考えだ。」
と、いいながら、深く溜め息をついた。
桐生
「カクレミノ?といいますと?」
桐生なりに頭をひねってみるが、さっぱり意味がわからない。
誠一
「つまり、マースに何かあった場合、俺らも巻き込むことで責任を分散させ、何も無かったら他国から軍を要請してまで強化したことで未然に防いだ自分の手柄にする。
あのデブがどっちに転んでも好都合なんだよ。
まさにダルマやろうだぜ。はははっ!」
桐生はなるほど!と、納得したようすだったが、すぐに顔を曇らせた。
桐生
「しかしどうしてそんな面倒なことを?
サウルさんは本部長だからそんなことをしても出世に関係ないと思うのですが?」
一条
「今回は地位など関係ないんだ。」
桐生
「はい?」
ますます持って意味がわからない。
地位も出世も関係なく面倒なことをして守りに徹する必要があるのだろうか?
一条
「国と国、人と人との交流が増えれば増えるほど、思想や人種の違いから摩擦というものが生まれる。
当然摩擦が強くなればなるほど言い争いや小競り合いが増え、しまいにゃ戦争にまで発展することも容易にありえる話だ。
その摩擦を最小限に抑えるには、互いに武力を保持することが一番手っ取り早い。
現在の世界情勢は武力を見せ合うことで、互いに威嚇し戦闘を避けてる。」
桐生
「なら、なおさら援軍を呼ばずに自分たちだけで対処したほうが都合がいいのでは?
相手が軍レベルの武力を持っていない確立が高いわけですし、大体サウルさん自身いたずらの可能性が高いと言ってたじゃないですか。」
一条
「なら敵が不明確な今、どちらの武力が勝っているかなどどうやって知ることができる?
それに、一度でも弱みを他国に見せた時点で、ウロボロスにいろいろな国の軍が近づくことになる。
守ってやるからこの国に軍事基地を作らせてくれってな。」
桐生
「そのほうが好都合じゃないのですか?
人手は大いに越したことはないのですし。」
一条
「ならその軍の国が戦争し始めたらどうだ?」
桐生
「それは…」
桐生はくっと答えに迷った。
一条
「すべての国に一番近く、中継地点にいいこの国は一瞬で戦場になることを知らないやつはいない。
その戦火が外からではなく内部からあがれば、抑える暇などなく占領されることは火を見るよりあきらかだ。
だからこそサウルは俺たちに弱みを見せられない。
しかし、意地をはってもしもマースを奪われることがあれば、俺らの国との戦争の火種を作りかねない。」
誠一
「それに何かが起こったとき臨機応変に対処できるほど自分の軍のレベルが高くないことを知っているんだろ。
敵の数、思想、個々の戦闘力、エトセトラ、
はっきりいって相手がわからないほど厄介なものはない。
幸い今回は自分の国のものを守るわけじゃないから援護要請してもなんら不思議じゃない。
自国はそれなりに武力を持っていて交流もあるというアピールだと思わせられるからな。」
二人の言葉は、戦争を体験したことがあるものの声だった。
いつものように何気なく言っているようだが、どこか泉の悲しみのような、それでいて業火の怒りをやどしているように桐生は感じた。
桐生
「…隊長達は気付いているのでしょうか?」
誠一
「グランド隊長は来る前から気付いてたよ。
ただ、道元が立場を隠すと自分に不都合な必要な情報まで隠すことになる。
隊長の機嫌が悪いのはそのせいだ。
岩城はどうだかな。」
一条
「あいつにそこまで脳みそ詰まってると思えるのか?
あのばかはここで実績を作ることしか考えてない。」
誠一
「だろうな。
いい加減お前が隊長やったほうがいいんじゃねえのか一条?」
一条
「俺には俺のやり方がある。
だまってろ。」
一条が機嫌悪そうにすっと立ち去ろうとしたときに龍牙が重々しいホールの扉を開いて入ってきた。
龍牙
「隊長からの命令だ。
爆弾、盗聴器のたぐいはないのでそろそろ撤退する。
今日の警備はウロボロスに任せ、各自明日に備えて十分に休養をとるようにとのことだ。
以上!あと、誠一!」
誠一
「ん?どうした?」
誠一がやる気なさそうに振り返ると、にへらっと笑った。
誠一の態度にイラッときた龍牙は、顔面に向かって防弾ジャケットを思い切りたたきつけ、
龍牙
「下見とはいえ防弾ジャケットぐらいつけやがれ!
明日これ忘れたらしゃれになんねぇぞ!」
と言うと、ほかの隊員を連れてさっさと出て行ってしまった。
誠一はというと、バランスを崩して後頭部を思い切り床に叩きつけられ、気がついたのは閉館前の警備員の見回りが来たときだった。
お読みいただきありがとうございます。
更新やっとこさできましたが、ごたごたしてるうちに三ヶ月近く間が開いてしまい申し訳ないです。
次話も予定は未定ですが、ゆっくり待っていただけると幸いです。