FILE1 季節
夏目
「ってーなぁ、あのバカ教師」
結局頭を強く殴られた挙句に、夏目にだけ宿題まで出されてしまった。
自分に非があるのが分かっている。
こういうところだけムダに物分りが良いせいで、ぶつけようの無い怒りが夏目をこのような態度にしてしまうのだ。
生徒A
「夏目、結局何の宿題出されたの?」
幼馴染の勝木が駆け寄ってきた。
夏目
「何で白虎の国は常冬で、めったに雪が止まないのかを説明できるようにしとけだってさ。
そんなもん分かるわけないじゃん。俺が生まれたときには既に雪降ってたっつーの。
大体宿題出すなら今日の授業に関係あることにすればいいのに。」
勝木
「まあまあ、そんなこと言わずに図書館で調べればいいじゃん。
案外関係があるのかもよ?
あたし暇だから一緒に調べてあげる。」
勝木は夏目とは違い、マジメで面倒見のいいお姉さん的な存在だった。
親同士仲が良かったので、付き合いも長く、夏目のことを誰よりよく知っている。
夏目が宿題を出されたとしても絶対しない事も知っている。
だから、決して暇でない時も宿題を手伝ってくれる。
夏目は一瞬何か考えた後、ニッと笑って、
夏目
「ありがと。じゃあ図書館でさっさと調べて帰ろ。」
と言うと、勝木の腕を引っ張り図書室に向かった。
図書室は人が少なく、ゆったりしたクラッシックが流れていた。
夏目
「じゃあ、あっちの方探すからここら辺は勝木が見てて。」
勝木
「わかった。あ、夏目・・・」
走り出した夏目を勝木が呼び止めた。
夏目
「な、何?」
ギクッとしたように夏目が振り返る。
勝木はビシッと夏目の顔を指差して、
勝木
「寝ちゃダメよ!」
と、釘を刺した。
友達としては信用されている夏目だが、勉強に関しては全く信用されていない。
夏目
「ば、バカにすんなよな。」
そういうと、たたっと本棚の間に隠れてしまった。
そんな様子の夏目の後姿を見てため息をつく。
勝木
「いつもこんな調子なんだから、でもたぶん・・・」
隠れて夏目の後を追いかけ、本棚から隠れるようにそっと覗いてみた。
勝木
「あれっ?」
すると、予想に反して夏目は本棚から本を選び、熱心に探し物をしている。
夏目もやる時はやるんだなと思いつつ、自分もちゃんと探さないくちゃと、さっと本棚に目を戻した。
そんな期待をよそに、勝木がこっちを見ていないことを横目で確認した夏目は、
夏目
「甘いなあ。」
と言うと、本に挟んであった薄っぺらいマンガに視線を戻した。
夏目
「今回は俺の作戦がちだな。」
と、勝ち誇った笑みを浮かべた。
数分後、本を一冊持って走って来た勝木に気づいた夏目は、読んでいた漫画を本と一緒に棚に隠した。
勝木
「夏目、理由がわかったよ。」
夏目
「すごーい。でもこっちは全然ダメだぁ。」
夏目はわざとらしくフルフルと頭を振った。
勝木は仕方ないなと言う顔をしている。
勝木
「漫画読んでちゃね。
夏目の宿題なんだからしっかり探してよ。
今回だけだからね。」
さすがは幼馴染、夏目の考えている事などバレバレだった。
夏目は頭をぽりぽりと掻くとチロッと舌を出した。
夏目
「今回だけだって、ありがとね。
で、なんでだった?」
勝木
「うん、今日の授業と案外関係ないわけでもないみたい。」
夏目
「要するに関係あるわけね。」
夏目はイタズラっぽく笑う。
勝木
「もう、教えてあげるんだからまじめに聞いてよね。」
勝木がむくれて本を閉じようとする。
夏目
「あぁごめん、ごめんって。まじめに聞くから教えて!!」
夏目が両手を合わせて謝った。
勝木
「もう、夏目は調子いいなぁ。
今日授業でこの星は平らだって教わったの覚えてる?
あと、ブラックホールとホワイトホールがつながっていて、光が往復していることも。」
夏目
「さすがにあの授業から一日もたってないからね。」
勝木
「よかった。
で、ブラックホールに吸い込まれたものは全てホワイトホールから排出されてるんだって。
つまり、水や空気でさえも。
だから、水が排出されたところにこの国が位置していることと、温度が低いから空中で水分が凝結してしまうことが重なって、雪が止まないみたい。」
夏目
「じゃあ雨がずっと降っててもおかしくないってこと?」
勝木
「そういうこと。
実際に玄武の国ではずっと雨が降ってるみたいだしね。
反対に青龍の国では雨が全然降らなくて大変みたい。」
夏目
「まあ魚とトカゲにはちょうどあった国なんじゃない?」
夏目はニヤニヤしながら話を聞いている。
しかし、勝木は少し困ったように眉の端を下げた。
勝木
「そういうこと言ってる人が多いから仲良くなれないんだよ。
そのせいで、向こうは私達を白毛猿なんていう人がいるんだから。
もっと・・・」
と言いかけて勝木は言うのをやめた。
夏目が白髪を逆立て、ふるふる震えながら怒っていた。
夏目
「あいつらー!
この国で見つけたらただじゃおかない。」
この国は一年中直射日光が雲で遮られていて、日の光などめったに見ることは無い。
よって、髪のメラニン色素が意味を失い退化してしまった。
つまり、生まれながらにして白虎の国の人は全員白髪なのだ。
勝木
「それはお互い様。
大体今さっき魚人族と龍人族をバカにしたのは夏目なんだから。
それに、宿題で何で常冬なのかまだ説明して無いでしょ。
それが終わるまで愚痴禁止!」
夏目は予想外の勝木の大声に驚いてだまってしまった。
勝木はため息をついた。
勝木
「夏目ぇ、いい加減その怒りっぽい性格と男言葉やめたほうがいいよ。
顔は可愛いんだから。」
夏目
「う、うるさいな。
生まれつきなんだからしょうがないだろ。
そんなことより早く常冬の理由教えろよ。」
隠しているつもりなんだろうけど、可愛いと言われた事が予想外で、耳の端まで真っ赤になっていた。
勝木も気付いたが、あえてふれなかった。
可愛いと言った事に対して恥ずかしがってる夏目を見ると、こっちまで恥ずかしくなって来たからだ。
夏目
「勝木?どうした。」
そういうと、うつむいた勝木の顔を覗き込んだ。
勝木
「う、うん。
えっと、今日の授業でこの星はゾディアックに吊り上げられているって言ってたでしょ。
要するに、別の星と違って自転してないみたいなの。」
夏目
「自転?」
なにそれ、と言わんばかりに聞いてきた。
今度はうなだれる意味で下をむいてしまった。
勝木
「位置はそのままでその星がその場で回る事。
これ小学生問題だよ。
しっかりしてよ、夏目。」
夏目
「ち、違うって。
俺が言いたかったのは、えっと、そう、何で自転しないのと関係あるかどうかってこと。」
勝木
「ああ、ごめんそういうことね。」
夏目は何とか誤魔化せてホッとした。
勝木
「つまり、星自体が動かなかったら、日の当たらないとこは何年たっても日に当たらない。
逆に日に当たるとこはずっと日にあたってる。
だから、日当たりの悪いところはずっと寒いってこと。
聞いた話では他の星は一日に一回、暗くなる夜って言われる現象が起こるんだって。」
夏目
「へんなの。
そんなに一日に明るくなったり暗くなったりしたらめんどくさそう。」
勝木
「だね。」
二人顔を見合わせてくすくす笑う。
夏目
「でも、とりあえず宿題は終わり!
じゃあ帰ろっか。」
勝木
「うん。」
夏目はさっさと支度をすませると、勝木と一緒に外に出た。
いつもの風景、いつもの寒さ。
でも、今日はいつもと少し違っていた。
夏目
「勝木、見て。」
夏目は指を空に向けた。
勝木もその方向を見た。
勝木
「すごい、綺麗・・・。」
赤色の一筋の光の剣が雲の隙間から地面をつらぬいていた。
二人は、ただその美しさに立ち尽くした。
夏目
「知ってる?
雲から光が覗く時は何かが変わる前兆なんだって。
何でそうなのかなって思ってたけど、なんとなく今なら分かる気がする。」
勝木
「そうだね。
空なんかめったに見ることが出来ないし、その理由も分かるとなんだかね。」
白虎の国は常に雲が蔽っている。
国の天気が変わる事など本当にまれな事だった。
案の定雲の谷間はすぐに消えてしまい、またいつもの雪景色に戻った。
二人は何かいいことが起こりそうなどと他愛も無い話をして帰った。
夏目
「それじゃ、またな。」
勝木
「うん。また明日ね。」
そういうと二人は自分の家に向かって駆け出した。
今思えばこの日の光の剣、何かが変わる前兆は、これから起こることに対して警告を発していたのかもしれない。
お読みいただきありがとうございました。
とりあえず、スタートダッシュは大切かと思い二日連続で投稿しましたが、無い頭で考えているので既に頭がショートしそうです。
世界観の説明に二話も使っていいのだろうか?
夏目や勝木はこの後出る機会があるのだろうか?
戦記物だと言うのに未だに中学生の日常を書いてる自分がなんだかなあ、って感じです。
色々な不安がありますが、力の限り頑張ります。
ではまた次回作で。