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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第28話 とある男の介入

「まさか本当に一撃貰うとは思ってなかったぜ」


 シルヴァは少し不機嫌そうに血に染まった右肩に触れる。黒い服だからこそ目立たないものの結構な血の量だったと思う。しかし、なぜかシルヴァの手が肩から離れると傷も血の痕すらコートには残っていなかった。

 何をしたかニックには分からなかったが、恐らく治癒魔術だろう。


「全くだわ。私もこんな風になるとは思ってなかった。もぉ、乙女の柔肌になんてことをするの」


 レイラも自分の脇腹を見てそんなことをぼやく。明らかに重傷だ。だが、そんな傷はシルヴァ同様レイラには関係なかった。治癒魔術であっさりと鎧ごと治してしまう。


「乙女って歳じゃねぇだろ、お前」

「シルヴァ君? ちょっとこっち来てくれる? 女性に対する礼儀を教えてあげるから」

「急に殺気出すのやめろ」

「大丈夫、怖くないわ。ちょっと一発ぶん殴るだけだから」


 レイラの顔は笑っているのに目が笑っていない。あれは完全にキレている。


「だがまぁ、それもいいかもな」

「ん? 殴られたいの?」

「ちげーよ」

「じゃあ、何が?」

「今ので決着付いちまった訳だろ? 一応」

「まぁ、そうね。私は脇腹に。シルヴァ君は肩に一撃ずつ貰ったわけだし」

「けど、今ので満足してねぇだろ? あんた」


 レイラは静かに頬を上げた。


「それは……まぁ」

「だよな」


 シルヴァも意地悪そうな笑みを浮かべる。

 互いに剣を構え直す。そして湧き出る魔力。濃密で濃厚な魔力はぶつかり合い、その場の空気がみるみる下がっていくのをニックは感じ取った。


「ちょ、ちょっと二人とも! もう決着ついたならそれで終わりなはずでしょ!? なんで二回戦みたいな流れになってるのさ!」


 だから思わず、その殺気が混じった空気にニックは割り込んだ。

 だが、そんなニックの言葉は全く二人には届かなかった。


「んなもん決まってんだろ」

「やりあってみたいからに決まってますわ」


 ニックの方など見ることなく二人は意見を合致させた。剣を交えての会話は何処に行ったのか。最早ただ戦いたいだけのように思える。

 リナの方を見てどうにか止められないか聞いてみるが、


「あんなの止められるわけないよ……」


 リナは苦笑いで答える。

 本能的にリナは悟っていた。そして、それはニックも同様に。割り込めば死ぬ。止めようとすれば死ぬ。動いたら死ぬ。もう、シルヴァとレイラの間に入ることは不可能だった。つまり、この二回戦を止める者はいないということ。


「んじゃぁぁ! 行くぜ!」

「次こそ決めるわ!」


 大剣を構える踏み込む体勢を取るシルヴァ。刺突剣レイピアに炎を纏わせ姿勢を低くするレイラ。

 そして僅かな間。たった一秒にも満たない無の時間。音は消え、世界が止まったかのような錯覚を覚えるほど無だった。

 だが、一秒が二秒へ変わる瞬間。無が動き出した瞬間、二人は駆ける。地上で走るスピードとは訳が違う。たった一息で互いにぶつかる。爆発音にも近い爆音と砂煙が柱のように舞い上がる。砂煙のせいで何が起きているか分からない。砂煙が立ち込めているだけで何も聞こえないのがまた不気味だ。剣が交わっていれば金属音の一つでも聞こえてもおかしくはないはずなのに。聞こえるのは、飛んでいった石や地面の破片が地面に落ちる音だけだ。







 次第に煙が晴れていく。

 そして、そこでニックは初めて砂煙の中の現状を知った。確かに振られているシルヴァの大剣とレイラの刺突剣レイピア

 だがそれは、交わってはいなかった。

 シルヴァの剣とレイラの剣の間に人影が見える。それは、深海色の髪に白い鎧を身に纏った男。シルヴァの大剣を銀色の剣で、レイラの刺突剣レイピアを鞘で受け止めていた。

 アーサー王の側にいた、殺気にも近い独特の雰囲気を放つ人物。

 そう、ルークとアーサー王が呼んでいた。そのルークが二人の間に入っていたのだ。






********************






「貴様らは、一体ここで何をしている?」


 ドスの聞いた声でルークは、シルヴァとレイラを一瞥する。


「見りゃわかんだろ」


 シルヴァは挑発するよう口角を上げた。

 少し大剣を押し込むつもりで踏み込む。が、動かない。ルークの腕は、微動だにせずただ剣を受け止めていた。それはシルヴァにとって驚きでしかなかった。


「分からないから聞いている。答えろ。貴様らはここで何をしている」

「……ただの遊びだ」


 少し間を置きシルヴァは答えた。ルークは、レイラの方に顔を向ける。分かりやすく目を反らすレイラ。


「それは確かか、レイラ?」

「えーっと……。まぁ」

「なるほど。では、もう一つ尋ねる。今の一撃は遊びの域を越えていたと思うのだが、それは俺の気のせいか?」

「……」


 ルークの鋭い瞳がレイラに刺さる。

 つかの間の静寂。その静寂が如何に冷たく、恐ろしかったことか。ニックが遠目から見ていてもそれは分かった。その空気と殺気にも近い視線をもろに受けているレイラは、一体どんな気持ちなのだろうか。ニックには、ただただ恐怖でしかなかった。のだが、


「はいはい、分かりましたよ。団長さん」


 はぁ、とレイラは嘆息した。まるで反省など微塵もしてない。あっけらかんとしていたのだった。

 刺突剣レイピアを払いゆっくりと鞘に納めた。それを見たシルヴァも不満げに大剣を空間倉庫ゲートへと戻す。


「ったく、邪魔しやがって」

「全くですわ。これだから堅物と言われるんです」


 シルヴァとレイラの文句を聞きながらルーク自身も受け止めていた剣を鞘に収めた。


「止めるに決まっているだろ、バカかお前らは。ここは王城の中だぞ。なのに殺す気で魔術を使うバカがどこにいる!」

「「ここに」」


 シルヴァとレイラは、罪を相手になすりつけるように互いを指差す。


「よし、お前ら一度殺してやるから前に出ろ」


 鬼のような形相のルークが仕舞ったはずの銀色の刃を鞘から引き抜こうとする。というか半分くらい出ている。

 それを聞いてシルヴァが、


「んじゃ、今から二対一ってのはどうだ。テメェとレイラの二人で俺が一人だ」

「聞き捨てなりませんね、それでは私が弱いみたいじゃありませんか。やるなら私が一人です」


 レイラは、シルヴァの意見を却下する。


「あ? こんな、ひょろなが男なんざいるか。邪魔だ、邪魔。俺が一人でテメェらが二人だ」


 ひょろなが男とはどうやらルークことを指しているようだ。鎧を着ているせいでいまいち分かりづらいが確かに細身ではある。しかし、シルヴァとレイラの剣を止めるだけの力がある時点でひょろではないだろう。少なくともニックの方がそれに当てはまる。


「貴様らぁ! さっきから聞いていれば……!」


 ニックは、とりあえず安心した。さっきからニックも聞いていたが変な方向に話が進んでいる。なぜか三回戦目をシルヴァとレイラは、ルークを含めてやるつもりでいるようだ。ルークの忠告など聞いちゃいない。

 しっかりルークが怒ってくれるのだとニックは安心したのだ。ニックでは、きっと言っても止めてくれないだろうから。

 ルークが剣を鞘から完全に引き抜く。

 そして、切っ先を二人に向けた。


「──私が一人で貴様らが二人だ!」


 …………あれ?

 神様。どうやらこのルークという男。意外とおバカなのかもしれません。


 

 

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