第27話 互いの一撃
立ち込める黒煙を眺めるレイラ。瞳を閉じ静かに笑う。
「やっぱり速いのね、貴方も」
立ち込める黒煙を刺突剣で払う。風が巻き起こり黒煙が晴れていく。その先に見える景色の中に爆発に巻き込まれたはずのシルヴァが立っていた。
「なめんじゃねぇ」
大剣の刀身を肩に乗せる。重々しい音が響く。その音にレイラは反応し独特のステップを踏み再度構える。
「そちらからどうぞ?」
「なら、そうさせてもらう、ぜ!!」
地面を砕き駆けるシルヴァ。レイラもそのままシルヴァに対抗するように突き進んでいく。
そして、ぶつかる剣。本来、大剣と刺突剣がぶつかった場合、刺突剣は簡単に折れてしまう。しかし、レイラにそれは当てはまらない。
なぜなら、それを凌駕するほどの技術がレイラにはあるから。
故に、叩きつけるようにして振り降ろした大剣は滑るように刺突剣を擦り地面に亀裂を作った。
隙の出来たシルヴァにレイラは刺突剣を構える。
突き刺さった大剣。それを抜いて弾くことはおそらく出来ない。レイラのスピードはシルヴァとほぼ同格。大剣を抜くより早く刺突剣は、シルヴァの体に当たるだろう。
シルヴァは、何故か大剣から手を離した。
レイラは、それを見て驚いた表情をする。てっきりそのまま剣を強引に振ってくると思ったから。だから、何かされるより早く刺突剣をシルヴァに当てようと胸に向かって刺突した。
しかし、それが間違いだった。
刺突剣がシルヴァの胸の手間で止まる。いや、動かなくなった。伸ばしきった腕。あとは、踏み込むだけで攻撃が当たるはずなのに。今のレイラにそれは出来なかった。
その答えは、地を蹴る足にあった。
「────っ!」
レイラの足にまとわりつく氷。冷気が辺りに漂っている。ガッチリと固定したように動かない。意表を突かれたレイラは表情を歪める。対して、シルヴァは片方の口角を意地悪く上げた。
シルヴァは軽く後ろに倒れながら後退する。もしもの為の対策だ。だがきっと意味はない。なぜならこの一撃で終わるから。
「俺の勝ちだな」
手のひらより大きな魔法陣がシルヴァの手に展開する。大きな炎の玉が作られる。あとは、放つだけ。だが、
「まだまだっ!!」
レイラは諦めてはいなかった。刺突剣の剣先を地面に突き刺す。その瞬間、地面が爆発するように弾けた。立ち込める砂煙と黒煙がシルヴァの視界を塞ぐ。すぐさま、シルヴァは炎の玉をレイラがいるであろう方向に向かって放つ。砂煙と黒煙が、炎の玉を避けるように通り道を作った。
その通り道にレイラの姿はなかった。
「チッ────!」
周囲を警戒。意識を全集中させ魔力を辿る。微かに魔力の流れが見えた。そして、その終着点は、
「上か!!」
天を見上げるシルヴァ。上から降り注ぐ太陽光が視界を照らす。そのど真ん中に彼女はいた。
逆行の中でも見える、どこまでも赤く煌めく烈火の焔。刺突剣の刀身を螺旋状に炎が燃え盛っている。
「宙を支配し、地を照らす灼熱の焔。我が剣に天の輝きを与えたまえ!」
螺旋状に燃えていた炎が剣先に集中する。炎の球体が剣先に現れ、徐々に肥大化ていく。炎の球体はまるでレイラの後ろに君臨する太陽のようになっていた。
見上げるシルヴァは白い歯を見せながら口角を上げる。大剣のを引き抜き、剣先を後ろへ送った。
「おもしれぇ! なら、こっちも!」
シルヴァは、大剣に手を置き持ち手から剣先へとなぞる。レイラと同じように大剣に炎を纏わせたが、シルヴァの炎はレイラとは違った。
蒼かった。
蒼炎。上位の火焔魔術の一つだ。使える人は数人程度しかいないとされる究極に近い魔術。それ単体では使うことは出来ず武器などに付与しないと使えない。しかし、高熱過ぎる炎、故に耐えられる武器はほとんどない。
つまり、シルヴァの持つ大剣は蒼炎を付与できるほどの武器になる。
レイラもまさかシルヴァが蒼炎を使ってくるとは思ってもいなかった。だが、なぜだか頬が緩む。
「そうこなくっちゃっ!」
剣先をシルヴァに向ける。太陽のような炎の塊もシルヴァへと方向を変えた。
「行くわよ!」
「来いっ!」
レイラは空を蹴った。まるで隕石のごとくシルヴァへと刺突剣を構え突っ込んでいく。シルヴァは大剣の柄を少し強く握った。
「──輝き放つ天の裁き!」
太陽のような球体が一気に縮小する。まるで小石のような大きさだ。剣先に小さな炎の球体が付いた状態で斜めに突っ込んでいく。
刺突剣を構え突っ込むレイラと、斬り込むタイミングを計り構えたままその場を動かないシルヴァ。
そして、今。
互いの剣が静かに振られた。
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目の前で、さながら隕石が落ちたかと思うぐらいの衝撃と爆発と熱風がニックたちを襲った。
軽い災害だ。いや、普通に災害級だろ、これ。
立っていることすら出来ず、地面に這いつくばるようにして耐える。しかし、そうしても数メートル飛んでいってしまった。きっとリナが後ろの方に魔術で壁を作ってくれなかったら今頃、数キロ先の学園までひとっ飛びで帰宅できたことだろう。着いた頃には死んでいるだろうが……。
風が落ち着きやっと立てる位にはなった。それでも視界は黒煙が支配している。
何も見えない。とりあえず隣にいるリナの無事を確認し少し歩いてみる。
「どうなったのかな?」
「さぁ? 僕には何が起きてるのかさっぱり分からなかったんだけど」
「私も」
改めてシルヴァの次元の違いを見せつけられた気がした。そして、それはレイラに対してもそうだった。聖王騎士団の強さを実感する。目の前でシルヴァと互角にやりあっているのを見てニックは、同じ人間として恐怖した。どちらも次元が違う。
「あ、煙が晴れてきた」
視界が眩しい。煙の隙間からさす太陽が視界を奪う。何度か瞬きをして目の前の光景を初めて視界に収めた。
そこには、最初の時のように距離を取った二人の姿があった。
だが、それぞれ最初とは違う。
シルヴァの肩は血で染まっており、レイラの脇腹には鋭利な切り傷があった。
そう二人は、それぞれの一撃で互いに一撃を受けたのだ。
ルールは、相手の体に一撃入れたら勝ち。
つまり、この状況は互いに一撃を受け、引き分けとなった。
はずなのだが、二人の瞳にはまだ闘志が燃え盛っているようにしか見えなかった。




