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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第25話 信用

「んで、どうするんだ?」


 シルヴァの呑気な声が聞こえる。それに陽気な声でリナの母親であるレイラが答える。


「そうね、簡単なルールでいきましょ。相手の体に一撃でも与えたら勝ちってのでどう? あ、もちろん、命を奪うようなことはなしね」

「まぁそれぐらいが丁度いいだろ。じゃねえと、殺しちまうかもだしな」

「ふふ、安心して。貴方じゃ私は殺せないわよ。貴方が魔王であってもね」

「ぬかせ。テメェごときに遅れは取らねぇよ。一瞬で終わらせてやる」


 シルヴァが空間倉庫ゲートの魔法陣からゆっくりと大剣を引き抜く。同様にレイラも腰にぶら下がっている鞘から剣を抜く。レイラの剣は刺突剣レイピア。まっすぐに伸びた針のように鋭い剣先を静かにシルヴァに向け独特の構えをとる。体は横向き。右手に持った刺突剣レイピア、左手は背中に置いく。そして、軽くステップを踏みながらその場でタイミングを計る。シルヴァも大剣を肩に乗せ、腰を落とし臨戦体勢。

 対峙するシルヴァとレイラ。互いの表情はどこか楽しそうだ。


「んじゃ、まぁ──」

「始めますか──!」



 二人は駆ける。目にも止まらぬ速さでシルヴァの大剣とレイラの刺突剣レイピアがぶつかる。




 さて、ここで一つ問題である。

 目の前では、シルヴァとリナの母親であるレイラが戦っている。一体何故か。

 その答えは数分前にさかのぼる。






**********************






 白いテーブルの上に置かれている四つのティーカップとティーポット。皿に綺麗に並んでいるお菓子が真ん中に置かれている。そのお菓子をレイラは一つ手に取りパクリと口に運んだ。


「ん~~、やっぱり甘いものって最高よね~」


 頬に手をあてお菓子を頬張るレイラ。

 そんな様子を豪華そうなソファーに座ったシルヴァとニックはぼんやりと眺める。レイラの隣に座ったリナは恥ずかしそうに肩をぶつける。


「ちょっとお母さん! あんまり変なことしないでよ。は、恥ずかしいから……」

「変なことって、お菓子食べてるだけなんだけど」

「そうじゃなくてさ……」


 チラチラっとニックを見る。ニックはその視線に気が付きとりあえず小さく笑う。顔を真っ赤にしながら顔を伏せるリナ。


「それで俺たちに会いたいってどういう意味だ?」


 唐突にシルヴァは、話題を持ち掛ける。それはもちろん目の前に座るリナの母親であるレイラにだ。咀嚼したお菓子を紅茶で流し込む。幸せそうな表情でティーカップをテーブルに置いた。


「そうだった、そうだった。肝心なことを忘れていたわ」


 こほん、と一つ咳払い。

 レイラは、ニックとシルヴァを交互に見る。


「ニック君とシルヴァ君、であってるわよね?」

「はい、そうです」

「初めまして、私のことは気軽にお姉さんと呼んで」

「ちょっとお母さん!!」

「冗談、冗談」


 顔を真っ赤にして怒っているリナを、あははと笑いながらあしらう。しかし、すぐに真剣な眼差しでニックとシルヴァを見つめる。


「えーっと、とりあえずお二人にお礼が言いたくて王城まで呼ばせていただきました。こうして来てもらうことになって申し訳ありません。本来はこちらが出向くはずなんですけど」


 申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえいえ、そんな!頭を上げてください」

「最近、少し忙しくて……。今日だってなんとか時間を作ったんです。なので、あまり長い時間お話しできないの」

「はぁ……」

「本当ならしっかりおもてなしとかしたいのだけど」


 しっかりおもてなしって、一体どんなおもてなしなんだろうとニックは話を聞きながら疑問に思う。既に普通におもてなしを受けている。まぁ、アーミルに置いていかれたり、ジゼルに道案内されたりここに来るまでに色々あったが。普通におもてなしされている。これ以上のおもてなしとは一体どんなものなんだろうか。気になる。


「ニック君? 大丈夫?」

「え、あ、大丈夫です! はい!」


 変なことに頭を使ってしまったようだ。とりあえず話を元に戻す。


「えっと、それでお礼って?」


 ニックは、レイラが何の為にニックたちを呼んだのかをリナから聞いている。だが、改めて聞いてみた。


「もちろん、あの『ユートリアス学園襲撃事件』についてのことです」


 ユートリアス学園襲撃事件とは、悪魔ギーツとダイスがユートリアス学園を襲撃した事件のことだ。世間では、あの事件のことをそう呼んでいるらしい。


「報告書で大体のことは聞いています。本当に娘を助けていただきありがとうございました」


 さっきまでの陽気な雰囲気は消えレイラの目は真剣そのものだ。その顔を見るとやはりリナの母親なんだと再認識する。娘が生きていて良かった、そんな安心感がレイラの赤い瞳から伝わってくる。同時にニックとシルヴァに対しての信頼もほんの少しだけ伝わってきた気がした。


「いえ、そんな僕の方こそリナさんが居なかったら今ここに居ないですし……。そもそも、あそこで僕がもっと魔術を使えたらリナさんを危険な目に遭わせることなんてなかったのに」

「それは違うよ、ニック」


 レイラの隣に座っているリナがニックの目をまっすぐ見ながらそう言った。


「そんなこと言わないでよ。ニックのおかげで私はここにいるんだよ。魔術を習う以上、危険な目に遭うのは当たり前なんだから。そんな風に自分を卑下しないで。ニックは私を助けてくれたんだから」

「リナ……」


 互いに微笑みあう。


「あら、やっぱり二人は仲良いのねぇ~。もしかして、もうそういう関係だったりするの?」


 ニヤニヤしながらレイラはそう尋ねる。そう言われ互いに見つめあっているのが恥ずかしくなりニックとリナは、目を反らす。二人とも顔はリンゴみたいに真っ赤だ。

 そんな二人を見て楽しそうにレイラが笑う。隣に座ったリナがまるで獣みたいに睨んでいるが。



 一息ついたレイラは、正面に座るシルヴァに顔を向けた。


「さて、シルヴァ君。貴方にもお礼を言わせてちょうだい」


 突然の言葉にティーカップを持っていた手が止まる。


「あ? 俺はなんもしてねぇぞ」

「何もしてないなんてことはないでしょ。直接的じゃなくてもドラゴンの時とかね」

「あれは、ただの偶然だ。俺が助けたのはニックだしな」

「それでもお礼を言わせて」


 レイラは静かに笑う。感謝の意を込めて。


「ただ──」


 しかし、すぐにその笑みは消える。声のトーンが一気に下がった。


「私は貴方を信用できない」


 さっきまで太陽のように暖かい笑みは氷河のように冷えきってしまった。赤い瞳からは人の温かさすら感じない。部屋が一瞬で凍る。そう錯覚するほどレイラからは冷たさしか感じなかった。

 しかし、それはすぐに元に戻った。

 また太陽のような笑みになり、胸の前で手を合わせる。


「──なので、戦いましょうか」

「……は?」


 あまりに唐突でとりとめのない発言に思わずシルヴァは呆気にとられる。


「別に変なことではありません。ただ語りたい・・・・だけです。貴方が魔王を名乗っているのは知っています。だから知りたいのです。貴方に娘を任せても大丈夫かどうか」

「……ふん、なるほど」


 シルヴァは、何かを納得したように笑う。


「確かにそっちの方が分かることは多いな」

「でしょ?」

「話は決まった、さっさとやるぞ」

「では、移動しましょ。案内するわ」


 シルヴァとレイラは何かを分かりあえたようだ。二人はソファーから立ち上がり互いに対峙する。何が楽しいのか二人の頬はお互いに上がっている。

 ニックとリナには、完全においてけぼりだった。











 さて、そんなことがあって今に至る。


「結局、何をしてるんだろう。あれ」

「……さぁ?」


 ニックとリナは、目の前のよく分からない状況を眺めていた。突然始まった謎の戦闘。いや、語り合っていると言った方が適切だろう。意味は不明だが。

 重いはずの大剣を軽々と振り回すシルヴァと軽快なステップで回避し隙を突いていくレイラの姿がそこにはあった。

 ニックたちがいる場所は訓練所らしい。訓練所はレイラの部屋からそう遠くはない場所にあった。更地のように開けたど真ん中でシルヴァとレイラは剣を交えている。


「えっと……なんか、ごめん」

「え? 何が?」

「いや、たぶんこうなったのって私のお母さんのせいだから」


 ため息をつきながらリナはニックに謝る。


「私のお母さんってちょっと変でさ。言葉で会話するより、その、剣とかで戦って会話するよりタイプなんだよね」


 なんですか、そのタイプ。初めですよそんな人。


「お母さんが言うには、『剣を交えれば、その人の全てを語ってくれる』らしいんだけど……」

「あー、なるほど。つまり、信用できないシルヴァを信用出来る存在かどうか戦って確かめてる、ってことで良いのかな?」

「たぶん、そうなんじゃないかな?」


 なんだか分からないが、とりあえずすごいのは分かる。何を言ってのかはさっぱりだがそれだけは分かった。


「私もお母さんと喧嘩した時とか、あーいう感じになるよ」

「へぇー、リナも喧嘩とかするんだ。意外」

「そりゃするよ。私だって人間だし。でも、寮で暮らし始めてからは無くなったかな。今日も久しぶりに会ったんだよね。だけど、変わらないなぁって」

「ふーん、なんかいいね」

「そうかな?」

「少なくとも僕からしたらいい家族だなって思うよ」

「そう? なんか恥ずかしいな、でもありがと」


 少し俯きながらリナは嬉しそうに笑った。それをニックは横目で眺める。きっとリナとレイラは、いい家族と言えるだろう。眩しいほど明るい家族。

 ニックは、想像する。何故かもやがかかる。頭の中が灰色だ。


「僕は……」

「ん? どうかしたの? ニック」

「え、いやなんでもないよ」


 心配した顔でリナがニックの顔を下から覗き込んでくる。ニックは目を反らし愛想笑いを浮かべた。何かを誤魔化すために。






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