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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第17話 結果発表

 エバン・ホーキン。ニックと同じ十六歳。金髪のオールバックが特徴的で耳や首にはギラギラしたアクセサリーを着けている少年。

 だからこそ、ニックを含めたクラスメイトは勘違いしたのだ。扉を開け入ってきたのが、知らない人だと。

 オールバックだった髪は重力に従うように下へ垂れている。手入れする前の髪になっていたのだ。アクセサリーも付けていない。耳にも首にも何もなかった。

 彼は以前見たときと、全くと言っていいほどに変わってしまっていた。

 だが、変わっていないところもあった。垂れた前髪から覗くつり上がった目。狩人のような眼光が一瞬、ニックの視線と重なった。

 心臓が締め付けられる感覚を覚えた。全身の毛穴から何か出そうなほどに焦りを感じ、無意識に一人だけ視線を反らした。

 しかし、横目でエバンを盗み見る。

 エバンは、長いこと登校していなかった。だから、エバンの机も椅子もあの時から変わっていない。ニックがシルヴァを召喚した次の日の朝から。エバンに初めて殴られそうになったあの日から。

 長いこと動かされてなかった椅子がエバンによって動かされ、それに腰を下ろした。

 嫌な空気が流れる。さっきまでの興奮しきった空気が一人の少年の登場によって淀んでしまった。その空気に誰もが一言も喋れずにいる。

 彼女を除いて。


「エバンくん、お久しぶりです。登校出来て良かったです」

「……」


 ニコニコとしているローリエと対照的に無表情でエバンはローリエを見ていた。が、数秒するとエバンはゆっくり瞼を閉じた。


「エバンくんも結果発表が気になりますもんね。うんうん、こうしてみなさんが揃うのも久しぶりな気がします。やっぱり全員集まるととても嬉しいですね」


 ニックは、素直に感心していた。この空気の中、いつもの通りでいられるローリエに。

 ん、いや、待て。その隣のシルヴァに至っては軽く寝てないか!? 完全に瞼閉じてますけどぉ! まだ朝は始まったばかりですよ!

 寝ているのか寝てないのか分からないが、興味がないのは確かなはずだ。シルヴァにこの空気はきっと分からない。

 ローリエだけでなく、シルヴァを加えた二人の教師は、鉄の心をお持ちのようだ。

 ローリエが胸の前で手を合わせる。その音でシルヴァが目を開けた。……寝てたようだ。


「さて、全員揃ったところで結果発表をしたいと思います!」


 静まりかえった教室を見渡しながらローリエが首を傾げる。


「みなさん、どうかしましたか?」

「……よ、よっしゃ! 結果発表だぜぇ! 盛り上がっていこうや!」


 隣に座っていた生徒がこの教室の空気を変えようと声を張り上げる。それに連なり教室が少し騒がしくなる。教室の最悪の空気は、見事消え去った。ナイス、隣の人。


「うんうん、そうですよね。盛り上がりましょう! 何て言ったって今回の試験結果は、出場者・・・の発表・・・も兼ねているんですから! ね、シルヴァ先生っ」

「……あぁ、そうだな」


 一瞬、間があった気がするのは気のせいだろうか。きっと見間違いではないと思う。


「シルヴァ、絶対分かってないだろ……あれ」


 ニックは、苦笑いしながら小さく呟いた。








 ローリエがわざとらしく咳払いをする。すると、教室の騒がしさはゆっくりと消えていった。ほとんど全員が、ローリエに注目する。だが、その中でエバンは瞼を閉じ、ニックは窓の外を眺めていた。

 教室を緊張が包み込む。


「では、結果を発表します──といきたい所なんですけど、まずみなさんにお話があります。この話は、わたしが少し遅れた原因でもあります」


 無駄にもったいぶるせいで教室の緊張がニックにも伝わってくる。


「嬉しさと驚きのあまり、固まってしまいまして……」


 へへ、とはにかむ。


「実は、ですね。出場者なんですが……なんと! このクラスの中から四人も選ばれたのです!」

「────!!」


 ローリエが、えっへんと胸を張る。

 教室が再び騒ぎだした。


「先生! それってつまり……」

「はい、二年生の枠の五人中四人が我々のクラス二年C組から出ました!!」


 誰かが雄叫びをあげる。興奮が最高潮にまで昇る。さっきまでの重い空気なんて感じさせないほど、今の空気は明るい。

 ニックは、少し安心した。いつも通り、だと。


「わたしは、とても嬉しいです。みなさんが、こんな風に成長してくれて。心から──」

「先生、そういうのは、あとでいいんで結果お願いします!」

「えっ、あっ……はい、そうですね」


 ローリエの笑顔が少し寂しそうだ。

 だが、またわざとらしく咳払いをして気持ちを切り替えていた。


「では、まず説明しますね。一応、規則ですから」


 ローリエは一呼吸置いて喋り始める。


「まず、結果発表についてです。この結果は、試験結果。つまり、一週間前に行われた筆記試験、実技試験の合計で決まります。筆記で百点。実技は、魔術披露五十点、魔力測定五十点、合わせて百点」


 筆記と実技を合わせれば合計で二百点。


「この二百点が最高得点です。そして、これから順位を発表しますが、発表すると必然的に出場者は順位がバレてしまいます。それでも大丈夫ですか?」


 生徒のほとんどが首を縦に振った。


「分かりました。では、みなさん。お待たせしました! 結果発表のお時間です!」


 全員がこの結果に期待をしている。

 ニックはみんなの背中を見て、そう思った。ニックを除いて、みんなが期待をしている。あのエバンですら、瞼を開けて少なからずその発表を待っていた。

 ニックには関係のない話。今回の試験では、色んなことがあった。努力もした。だが、決してニックが呼ばれることはない。そう確信していた。

 そして、結果発表が始まった。


「まず、一人目の出場者。合計得点百九十八点! シーナ・クローディオさん! おめでとう!」


 知らない名前だった。と、思ったが、どうやら委員長の名前だったようだ。委員長としか、呼んだことなかったから気が付かなかった。覚えておこう。

 拍手が委員長──シーナに向けられる。シーナは、立ち上がり一礼して席に座った。


「では、二人目。合計得点百九十点! リナ・フロースさん! おめでとう!」

「え!?」


 リナは、思わず驚いて声を上げていた。拍手がリナに向けられ、リナは恥ずかしそうに立ち上がる。

 きっとリナは呼ばれるだろうと思っていた。なぜなら、去年も五人目として出場者していたからだ。それにリナの魔術の腕なら行けると思っていたから。筆記は、三十点と言っていたが、どうやら今回は緊張せず本来の力を出せたようだ。


「えっと、頑張ります!」


 リナは嬉しそうにそう言って席に座った。


「それじゃあ、次ね。リナさんと同率。合計得点百九十点! エバン・ホーキンくん! おめでとう!」


 全員が耳を疑った。そして、自然と視線はエバンに向かう。もちろん、ニックもだ。なぜなら、それが信じられなかったから。

 エバンの授業態度を見ればそれは全員が予想できた。今までエバンが真面目に授業を受けているところを見たことがない。大体寝ているか、居ないかだ。それに彼の性格からも察することが出来た。エバンの魔術の腕がどれほどかは分からない。もし魔術の腕がすごくても、エバンはきっと出場しないような成績を出すはずなのだ。

 だが、今この時、エバンの魔術の腕が完全に分かった。

 点数からしてリナと同格。少なくとも二年生という学年に置いてはかなりの上位であることが判明した。

 エバンは全員の視線を集めているが、立ち上がることはなく瞼を閉じて椅子に座っていた。それは、何も言うことはないと語っていた。


「じゃあ、次が最後ね」


 ローリエのその一言で全員がエバンから視線を外す。しかし、ニックは視線を外せずにいた。視線に気が付いたのか、エバンの瞳が静かにこちらを向いた。

 また咄嗟に視線を反らす。ニックは、奥歯を強く噛んだ。今のは良くなかった。完全に逃げている。一秒もない、その間にエバンの瞳の奥で何かを言われた気がした。それが何かは分からないが、とても心がざわついた。

 この気持ちを強く息を吐くことによって無理矢理、紛れさせる。今は、発表を聞いていよう。


「では、ラスト。四人目の発表です!」


 教師のローリエ、シルヴァ。そして、呼ばれたシーナ、リナ、エバン、以外の全員の緊張が伝わってくる。

 ニックもまた、多少だが緊張はしている。呼ばれないのは分かっているが場の空気に当てられ心臓が高鳴っていた。

 筆記は出来ていると思う。少ない時間だったが、今までの勉強が活きた。だが、問題は魔術披露だ。いくら魔術披露で魔術を発動できたとしても、所詮は中位の防御魔術、神の盾イージスだ。使える者は多い。そんなもので点数は稼げない。

 魔力測定に関しては、正直な所よく分からない。ロゼリアの反応的にいえば学園トップクラスだというが、ニックはあまり信じてはいない。確かに、魔力が多くなっているのはなんとなく感じているが、実際の所分からないが正しい。ロゼリアの発言もニックを励ます為のなのかもしれない。ロゼリアを疑うわけではないが、信じられないのだ。

 落ちこぼれのニックの名前が呼ばれる未来が見えない。

 人によっては、この結果発表が人生に大きく影響するかもしれない。それ程に、ここには未来がある。


「合計得点百八十六点!」


 去年は確か九十八点だったか。筆記が九十六点で実技が二点だったはずだ。当然、出場することはなく中継で試合・・を見ていた。とても白熱した戦いだった。全員が全員、全力で魔術の腕を競い合う。

 そう、だから、思わず自分の耳を疑った。


「ニック・ハーヴァンスくん! おめでとう!」

「………………え?」


 教室が騒ぎだし、クラスメイト全員の視線がニックへと流れる。みんな信じられないというような目で固まっているニックを見つめた。

 ニック・ハーヴァンスはこの時、手に入れたのだ。


「──以上、四名! 見事、出場権を勝ち取った四人は頑張ってくださいね。みんな応援してますよ! みなさん、改めて出場者四名に大きな拍手を!」


 いや、手に入れてしまったのだ。輝かしい未来への招待状。

 夢幻祭フェスタへの出場権を。






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