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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第15話 彼の為

「話は聞いたぞ、カナ。中々のことをやってくれたの」

「……さて、なんのことだ?」


 試験が終わったその日の夜。カナの部屋でもある理事長室にロゼリアはやって来ていた。

 カナは、ロゼリアの言葉に少し反応したが、またすぐに試験の採点に戻る。筆記の採点は、各教科の教師が担当するが、実技は全てカナが目を通し採点することになっている。一週間以内には、結果を発表することになっているのであまり悠長にやってはいられない。

 だが、そんなことお構いなしにロゼリアは理事長室に入ってきてそんなことを言ってきた。

 まぁ、思い当たる節しかないのだがとりあえず知らんぷり。


「惚けても無駄じゃ。ニックから話は聞いているからな」

「何を聞いているか知らないが、私には関係のないことだと思うぞ」

「はっ、何をぬけぬけと……。しかし、よくあんなことを思い付くものだ。相当な悪知恵が働くようじゃな。お前、そんな柄じゃないじゃろ」

「だから、何度も言うが私は知らない」


 いや、知っている。きっとロゼリアは、ニックの魔術披露の件を言っているんだろう。そして、それは計画されたものだと言うことをロゼリアは勘づいている。全く、ニックからの話だけでよく何か企んでいたと気付けるな。普通に尊敬だ。だがあの計画を考えたのはシルヴァだ。それには、どうやら気が付いてないようだ。


「知らばっくれるつもりか……」

「知らばっくれるも何も知らないんだから、そう言うしかないだろ」

「……お前な、自分が何をしたか分かっておるのか。このことが生徒らに知られればお前の信頼は地に落ちるんじゃぞ!」

「……」


 睨みながらロゼリアは、感情を熱くし訴える。

 カナは採点していた手を止め、机に置いてあるコーヒーを口の中に流し込む。砂糖を入れすぎたせいで若干甘い。だが、きっとこのコーヒーより自分は甘いのだろうと飲みながらそんなことを思った。


「お前は──」

「一つ聞いていいか、ロゼリア」

「……なんじゃ」

「そのことは誰にも言ってないんだな?」

「当たり前じゃ。言えるわけ無いじゃろ。ニックやリナが言ってなければ広まってはないはずじゃ」

「ん? リナには言ったのか?」

「お前が話すなら話す」


 互いに見つめあう。折れたのはカナの方だった。


「分かったよ、話す話す。だから、教えろ」


 ため息をついて立ち上がる。飲み終わったコーヒーカップを持ってもう一度注ぐために壁際まで移動する。その様子をロゼリアは後ろから眺めていた。


「お前の計画に最初に気が付いたのが、リナなんじゃよ」


 危うくコーヒーを溢すところだった。カナは黙って注ぎ終え、コーヒーの中に角砂糖を今度は一つだけ入れる。いつもは角砂糖なしなのだが、最近のマイブームで砂糖を使っている。ま、マイブームが始まったのは昨日からだがな。

 コーヒーカップを持って席に戻る。


「詳しく聞いても良いか?」

「お前が話すならな」

「だから話すって」

「ホントじゃろうなぁ……まぁよい。ニックは魔術披露の後、リナと昼を一緒に取っていたそうじゃ」


 リナと一緒にか。随分と仲が良いんだな。もしかして恋人なのか? いや、だが、ニックはそんな一言も……。


「どうした、カナ」

「あぁ、すまん。続けてくれ」

「うむ、そうか。ま、その時に魔術披露の事をリナに喋ったらしいんじゃ。そしたら、リナがなぜ理事長が魔術披露の審査員をしているのか分かってない、と言われたらしくての。それでカナが計画して魔術披露でニックの魔術を発動させるよう仕向けた。というのをニックはリナから聞いたようじゃよ」

「ほぉ」

「わしは、ニックからそれを聞いただけじゃ。じゃから、教えてくれ。どういうつもりでそんな事をしたのかを」

「……全く。誰にも教えるつもりなかったんだがなぁ」


 カナはコーヒーを一口飲み、静かにカップを机に置いた。







 カナは全てを話した。そんなカナをロゼリアは少し不機嫌そうに睨んでいた。そんな顔されると話しづらいのだが。


「────まぁ、そんな感じだ。全部、シルヴァが計画して私がそれを実行しただけ」

「なるほどな……」

「さらに詳しいことが聞きたいなら、シルヴァに直接聞け。まぁシルヴァの事だ、きっと教えてはくれないだろうが」


 小さく笑いながらコーヒーを飲み干す。

 ロゼリアは、いつの間にか机の上に座りながらあごに手を当てていた。って、なに勝手に座ってんの? 早く降りろ。

 と言おうとしたが、それを遮るようにロゼリアが口を出す。


「お前は、それを了承したのか……?」

「……まぁ、そういうことになるな」

「理由は?」

「ニックの為だ」

「ニックの為、か……」


 小さく呟くと、突然カナは胸ぐらを掴まれる。なんとなくそうなる気がしていたからあまり驚きはしなかった。

 ロゼリアは、眉間にしわを寄せながらおでこが触れるくらいまで顔を近付ける。


「お前な──!」

「おい、ロゼリア。苦しいんだが。離してくれないか?」

「ニックの為、ニックの為じゃと……!」


 聞いてない、か。


「何がニックの為じゃ! お前、あやつの気持ちを考えているのか!」

「考えている。だが、あれではニックの力を見ることは出来ない。ニックの真の力を確かめることは出来ない。だから、しょうがなかった」

「お前!!」

「──それにな! ……単純に気になったんだよ。ニックの力がどれ程か。私はあいつが小さい頃から知っている。だから、見たかったんだ。ニックの成長を」

「…………っ!」


 ロゼリアはゆっくりと胸ぐらから手を離す。そして、静かに机から降りた。


「それを言われては、責めずらいじゃろうが卑怯者め……」


 ムスッとした顔でロゼリアは、コーヒーがある場所へと歩き出す。こちらに背を向けたままロゼリアが独り言のように声を出す。


「実行する前ならともかく、もうやってしまったもんを今さら言ってもしょうがない。じゃがな、わしはそういうやり方は嫌いじゃ」

「あぁ、今度からはしないように気を付けるよ」

「……そうしてくれ」


 ロゼリアにとって生徒たちはとても大事なものなのだろう。だから、贔屓ひいきはしない。誰一人として特別はいない。みんなが平等で特別だから。


「やっぱお前はすごいよ。私とは大違いだ……」

「何か言ったか?」

「いや……私にも一杯くれと言っただけだ」

「しょうがないのぉ」

「まぁ、そのコーヒー、私のだがな」

「……はて?」

「おい」


 互いに笑う。

 ロゼリアは良いやつだ。人前には滅多に出ないが、生徒の信頼も厚い。だが、自分はどうだろうか。理事長という立場上、生徒と関わることがあまり無い。唯一、信頼されていたニックの事も裏切ってしまった。それがニックの為だと信じて。


 ──何がニックの為じゃ!


 ついさっきロゼリアから出た言葉が脳内で何度も再生される。

 嘘は嫌いだ。それが生徒の為であれ自分が嘘を付くことはない。あんなことをするつもりはない。

 だが、それがニックの場合は別だ。ロゼリアと違って贔屓する。彼は自分にとってとても特別な存在だから。だから嫌いな嘘もつく。嫌われてもいい。最悪、死んだって構わない。何だってやってやる。それが、


「ニックの為なら……」


 カナは一人、小さく呟いた。






********************





 少し肌寒い夜。エルステイン王国の中心部近くにある城。その城の無駄に広い廊下を鎧を着た二人が歩いている。静まり返った夜の中、鎧が擦れる音が静寂を打ち破っていく。

 二人はある部屋の前で立ち止まる。


「今日もお疲れ様でした。ルーク」


 金髪の髪を揺らしながら後ろを振り返る。後ろに居たのは、深海色の髪をしたルークだった。

 ルークは、首を左右に振る。


「滅相もございません。お疲れになっているのはアーサー様の方です。ですから、今日もしっかりとお休みになられてください」

「分かっています。ですが、それは貴方も同じです。貴方もしっかり休んでくださいね。この前にみたいに夜通し見張りはしないよう」

「ですが、それでは万が一に対応出来ません」

「出来るでしょう。貴方なら」

「しかし……!」

「これは、命令ですよ。ルーク」

「……分かり、ました」


 しぶしぶといった様子で了承する。全く、頑固なのは昔から変わらない。

 アーサーは、部屋の扉を開ける。


「では、今日はここで。おやすみなさい、ルーク」

「はい。アーサー様、布団をしっかり掛けてお眠りください」

「お母さんみたいなことは言わなくて良いです。それでは、おやすみ」

「お休みなさいませ。アーサー様」


 頭を下げているルークは閉めた扉で見えなくなった。

 部屋に入り一つ息を吐く。

 丁度良い広さの部屋。お洒落にはうとい方なので、色合い的なバランスは専属のメイドに任せてある。よく分からないけど、綺麗なのはよく分かる。ふかふかの絨毯じゅうたん天蓋てんがい付きのベッド。机も置いてあるがあまり使うことはない。

 アーサーは、腕を持ち上げ手のひらを前に出す。


空間倉庫ゲート


 と呟いた。アーサーを中心に魔法陣が展開される。そして、その魔法陣はゆっくりと上がっていく。アーサーの鎧は魔法陣が通り抜けると音もなく消え、頭上まで来ると魔法陣は消えた。


「んん~~。やはり鎧が無いと軽いですね」


 白い下着のまま軽く伸びをする。そして、いつも通りクローゼットからネグリジェを取りだし上から被るように着る。下にいくにつれて透けており、膝上から下はほとんど見えている。花の刺繍が施されており、なんとも可愛らしい。

 この部屋以外では、基本的に鎧姿なのでこういう風に着替えると新鮮な気持ちになる。

 ルークに言われたように疲れているのは確かだ。鎧を脱いでも体がどこか重いのは疲れている証拠だろう。お風呂はさっき入ったし、後は寝るだけなのだが、


「ん?」


 ふと、机の上に視線が向かう。机の上にあるクリスタルがあわく点滅している。通信用の魔術器具だ。点滅しているということは、誰からの連絡ということになる。しかし、こんな時間に掛けてくることはまずない。緊急事態ならば、ルークが飛んでくるだろうし。つまりアーサーの知らない人物の可能性が高い。

 唾を無意識に飲み込む。そして、椅子に座って深呼吸。王としてこんな事でいちいち動揺してはいけない。


「よし」


 細い指で軽く触れ、魔力を流す。点滅していたクリスタルが淡く光り続ける。


『お、繋がったな』


 クリスタルから聞こえてきたのは、女性の声だった。少なくとも変態さんではないようだ。いや、でも油断は出来ない。女性の変態さんかもしれない。

 意を決してアーサーも喋りかけてみる。


「あ、貴方は誰ですか?」

『ん? あー、えっと忘れちゃいましたか? 私です。カナ・ヒュースベルトです』

「カナ・ヒュースベルト……?」


 口の中でその名前を転がす。そして、思い出した。


「もしかして、カナさんですか!?」

『えぇ、そのカナさんです』

「お久しぶりです! カナさん──あっ、今は理事長の方がいいですか?」

『勘弁してください。国王様。普通に呼んでください』

「そうですか? ではカナさんで。改めてお久しぶりです」

『はい、こちらこそ、お久しぶりです国王様』


 カナ・ヒュースベルト。女性の変態さんではなく、アーサーの知り合いだった。最後に会ってから約五年くらいが経つだろうか。今でも昔の姿をよく覚えている。女性ながら男性より勇ましく強くてとてもかっこよかったのを記憶している。そんな姿を見てあんな風にかっこよくなりたいと子供ながらに思っていた。アーサーにとっての憧れても言える存在である。


「それにしてもよく私のクリスタルと通信シンクロ出来ましたね」

『昔のものは取っておくものですね。昔使ってたものを使用させていただきました。突然の連絡申し訳ありません。今更ですが、お時間大丈夫ですか?』


 正直なところ、明日も忙しい。出来れば早めに寝ておきたいのだが、


「はい、大丈夫ですよ」


 そう答えた。カナがこうして連絡してくるのは初めてのことだ。何かあるに違いない。それにアーサー自身もカナに言いたいことがあったからだ。


『それは良かった。実はですね──』

「あの、その前にいいですか?」

『? なんでしょうか』

「その、ジゼルのことなのですが……」

『あ~……』


 数週間前。突如現れたドラゴンを裏で操っていたのが実はニックではないかと疑い処刑にまでしようとした聖王騎士団の一人ジゼルのことだ。あの件はこちらできつく叱り処罰も与えた。ニックにも直接謝罪をしたが、肝心のユートリアス学園の理事長であるカナには謝罪を入れることが出来なかった。


「その節は、本当に申し訳ありませんでした。私の不徳の致すところ。謝っても謝りきれるものではありません。彼の命を、カナさんの生徒の命を奪いかけたのですから……心より謝罪致します」

『そのことですか……』


 考えるような吐息がクリスタルから聞こえてくる。だが、アーサーの真面目な雰囲気を壊すように小さく笑い出す。


『いえ、あれに関してはこちらの不注意でもあります。そもそもニック自身があんな行動に出なければ疑われることも無かったですし……』


 そして、沈黙。


『……ですが、一人の人間の命が奪われようとしたのもまた事実。以後、このような事が無いようにお願いいたします。もし、また彼に──ニックに同じような事が起きたら……』

「……」

『──私は誰であれ許しません。その身をもってつぐなわせます』


 悟った。クリスタルからでも伝わる殺気を。おそらく、もう一度同じことが起きたら誰かの命を平気で奪う。それがニックという存在の為ならば。如何なる犠牲を払っても。

 だから、アーサーは確かな覚悟をもって答える。


「はい。もうこのような事は絶対に起きないと、ここに誓いましょう。私の命に代えても」


 自然と自らの胸に手を置いていた。

 その覚悟が伝わったのか、クリスタルから伝わる殺気もいつの間にか消えていた。


『そうですか。それなら安心です』


 さっきまでのカナの声音に戻った。

 アーサーも安心したように「ふぅ」と息を吐いた。


『では、本題に入ってもよろしいですか?』

「はい」

『まぁ、本題といってもそんな大事なことではないのですが』

「そうなのですか?」

『決まったんですよ。出場者・・・が』


 その言葉でなんの話か一瞬で理解した。


『一年、二年、三年から五名ずつ。計十五名です』


 毎年の事だ。何名出るかも理解している。毎年と同じ学年から同じ人数。

 ここで一つの疑問が生まれる。なぜ今回、こうして報告してきたのか、だ。今までも行われてきたが、一度もこんな報告は受けていない。正式にはこういう形でだが。今までは書類で送られてきていたが、どういうことだろうか。


「すみません、一つ聞いても?」

『はい?』

「なぜ、私に報告を? 今までこんな報告してきてなかったのに……」

『あぁ、それはですね。ちょっと面白いメンバーでして』

「面白いメンバー……ですか?」

『私も採点結果を見て驚きましたよ。ま、一週間近く机にかじりついて採点した甲斐があるというものです。詳しくは後程書類をお送りしますが、どうしても伝えておきたいと思いまして』


 笑いが堪えられないのか、微かに笑い声が聞こえる。笑ってしまうほどの人物? 全く見当がつかない。そもそも学園にいる生徒のことはほとんど知らない。そんな人に伝えておきたいと言われてもこちらは訳がわからないだけだ。


「えっと……今は教えて貰うことは出来ますか?」

『すみません、今は無理ですね。こちらにも色々あるので』


 ここまで言っておいて教えてくれないのですか!? 軽い拷問みたいなことを。さすがカナさん。彼女らしいと言えば彼女らしいですが……。


『書類が届くまでお待ち下さい』

「……不本意ですが、分かりました。……ですが、出来れば早めに送っていただけると嬉しいです。気になるので」

『フフ、分かりました。善処しましょう』


 善処、ですか……。


『用件はこれだけです。夜遅くに申し訳ありませんでした』

「いえ、久しぶりにお話できて楽しかったです」

『私もです。では、楽しみに待っていてください』

「はい。楽しみにしています」


 流れ的に通信シンクロを切るところだが、寸でアーサーは声を上げた。


「────あの!」

『……っと、はい。何か?』

「えっと…………」

『……』

「……そちらは……楽しい、ですか?」


 沈黙が流れた。おそらく一秒くらい。だが、この一秒はカナの答えを出すには十分だった。


『えぇ、楽しいですよ』

「そう、ですか……」


 無意識に微笑む。だが、その笑顔は少しだけ寂しい表情だった。


「では、またいつか」

『はい、失礼します』


 クリスタルから光が消えた。

 アーサーは、背もたれに体重を預けた。天井を仰ぐ。王としてはだらしない格好だが、今は一人だ。何をしたって王としてではなく、アーサーとして受け入れられる。だからこそ、色々な事を考える。本当に色々なこと。自分のこと。他人のこと。国のこと。世界のこと。

 大きくため息を吐いた。どっと疲れが戻ってきた。

 アーサーは、椅子から立ち上がりベッドに飛び込む。ふかふかのベッドが体を飲み込んでいく。その瞬間から眠気は勢いよく襲ってきた。

 静かにまぶたを閉じた。そして、また考える。眠くなっても考える。色んなことを。



「絶対遅れてくるんだろうな……出場者の書類……」



 けど、今はこのことしか考えられなかった。






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