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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第14話 魔力測定

 魔力測定とは文字通りの意味である。魔力を測定する試験だ。会場は、魔術披露をしたところの隣。魔術披露とは違って審査員が居るわけではない。代わりに魔力をはかる魔術器具がその役目を担ってくれるのだ。個室のようになった結界に、その魔術器具と不正をしないよう監視として教師が一人付き添われる。その結界が二十ほどあり、呼ばれたらそれぞれ結界に入っていくという感じだ。




「はい、ではニック君、五番の結界に入ってください」


 受付係にそう言われるがまま五番の結界を目指すため少し歩く。

 受付係に関してだが、これは教師ではなく生徒が行う。普通生徒がテストに関わることは不正になるのでないかと言われるかもしれない。

 しかし、彼らは成績優秀で選りすぐりの選抜メンバー。生徒会のみなさんである。生徒会に入るには相当な努力が必要らしいが、ほとんど魔術の使えないニックには全く無縁の話である。

 まぁ、つまりは信頼ある生徒会だからこそ安心して受付係を任せているということだ。


「あ、ここだ」


 地面に刺さった五番の看板の前で止まる。魔術披露と同じように何もない空間が看板の後ろに広がっている。これも他の生徒に魔力を感じさせないようにするためのものらしい。

 ニックは静かに深呼吸をする。

 リナとの会話のこと。カナのこと。魔術披露で起きた全ての事を一度忘れる。完全に忘れることは出来ないが、意識を反らすことはできる。無理矢理に気持ちを作って切り替える。

 少し重い足を持ち上げ無の空間に入っていく。魔術披露のとき同様に入った感覚はない。しかし、一瞬にして視界に一人の教師と魔術器具が現れる。


「よく来たの」


 その声とその教師を視界に捉えた時、ニックは無意識に足を止めていた。


「──────」

「ん? どうしたのじゃ」


 ニックの目の前にいる教師。それは、教師というには小さすぎる体。魔女が被るようなつばのデカイ帽子を金髪おさげの上に乗せている。なぜか、黒のワンピースに白衣を羽織っている特徴の塊。


「──ロゼリア……先生」

「よっ」


 小さく手を挙げ、にしりと笑う。

 ロゼリア・アクセス。ニックがとてもお世話になっている教師。主に魔術の研究などをしている。シルヴァの件やあの二人の悪魔の件などでも助けてもらった恩人とも言える人だった。

 試験の時に側にいてくれるのはとても心強いし緊張も少しだけだが解ける。

 だが、今回ばかりはそうはいかない。

 もちろんその理由は決まっている。ついさっきリナから聞いたカナのこと。あれが本当だというのなら、この魔力測定にも何かある。そしてその疑惑はロゼリアがニックの担当だということで確信に変わる。


「……なんで」

「ん?」

「なんでここにいるんですか!!」


 突然の怒鳴り声でロゼリアは、ハトが豆鉄砲食らったような顔でニックを見る。

 対してニックは、自分の感情をぶちまけていた。


「そんなにですか! そんなに僕はダメですか! こんな不正みたいなことして、そうでもしないと僕はダメなんですか!!」

「お、おい、ニック。どうした急に」

「どうしたもこうしたもありませんよ! ロゼリア先生は、一体何をするつもりですか!」


 自分でも驚くほど感情があらわになっていく。ただただロゼリアに向かって怒りという感情だけをぶつけていた。


「僕だって頑張れば出来ますよ。出来るって信じたいですよ! でも、先生たちがそんなことをしてしまったら、僕の努力なんてなんの意味もないってことじゃないですか!」

「そんなこと? お、おい、ニックいい加減に教えんか。わしが何をしたというんじゃ」

「それはこっちのセリフです! 先生が教えてくださいよ! 僕をどうしたいんですか、こんなことされても全然嬉しくないです! 理事長と何を企んでるんですか!」

「……カナが何かしたのか」


 ロゼリアの目が少しだけ変わる。ニックを心配するような目からカナに対しての何かに変わった。


「何かしたってロゼリア先生たちが仕組んだことでしょ!」

「……ニック」

「そうやって、先生たちは──」

「ニック!!」


 ロゼリアの一声によりニックの口から吐き出されていた感情が喉に引っ掛かる。そして、静かに口を閉じた。少しだけ冷静さを取り戻した。

 そんなニックの様子を見てロゼリアが小さくため息をつく。


「はぁ……まぁ、ともかく何があったのか、聞かせてくれんか?」


 ロゼリアに言われた通りにニックは全てを語った。リナの時と同じように。そして、今回はそれにリナの話を付け足して喋った。ロゼリアはその話を目を瞑りながらしっかりと聞いていた。語り終わるとロゼリアはゆっくり瞼をあげる。


「話は分かった。まぁ、確かにそんなことがあれば疑うのも分かる。じゃが、これに関してはただの偶然じゃ」

「……え?」

「わしは、カナがそんなことをしておったなんてこと全く知らんかった。それにわしは、お前にそんなことをするつもりなど毛頭無い」


 ロゼリアはニックの瞳を見ながら悠々と語る。


「わしがそんなに甘いと思ったのか。これは試験じゃぞ。たった一人の為に動いてしまっては、他の生徒たちと一緒にならんじゃろ。差別になってしまうからの。そんなことわしは、絶対にしない」

「ロゼリア、先生……」

「大体のぉ、わしはたまたま見つかって監視役させられておるんじゃぞ。全く、人の昼寝タイムをこんなことに使いおって!」


 なぜか、今度はロゼリアが地団駄を踏んでいる。


「ともかくじゃ! わしはお前のためになど動かん! ある程度のことなら手を貸そう。じゃが! 試験という大事なものに関してはいえばそうはならん! 試験とは、己の力を自ら発揮しその結果を受け止めるもの。そして、その結果を見てさらに向上してゆく為にあるのじゃぞ。なのに、わしが手を貸したら意味無いじゃろ」


 ムッとした顔でニックに堂々と告げる。

 ロゼリアの語り口からしてニックは思った。本当にロゼリアとカナは関係ないのだと。ただの早とちりだったと。


「…………すみま、せんでした。なんか、つい熱くなっちゃって」

「まぁ仕方ないじゃろ。疑いたくのもわかる」


 ロゼリアは小さく笑い隣に浮いている透明な宝玉のようなものをコンッ、と叩く。


「今は、こっちに集中しておけ。その話の件はわしが後で聞いておく」

「はい……わかりました」


 ニックは申し訳なさそうに頷く。そして、自分の頬を両手で叩く。気持ちを改めて切り替える。今は試験中なのだ。それをしっかり思い出せ。


「僕、頑張ります!!」

「おう、そのいきじゃ」





「あの、ロゼリア先生」

「ん? なんじゃ」

「それ、何ですか?」


 さっきロゼリアが叩いた透明な宝玉のようなものを指差す。魔術器具なのは見てわかるが、今までの四回の試験であんなものは見たことない。だが、魔力測定という場のおかげでなんなく察してはいる。


「これは、魔力を測定する魔術器具じゃよ」

「でも、今までそんなのじゃなかったと思うんですけど……。確か前は、腕に変なのはめて魔力を通すことで繋がっている装置に魔力の数値がでる、てな感じのやつでしたよね?」

「あぁ、そうなんじゃが。なんでも、今年から新しくなったそうじゃ。この宝玉に魔力を通すと宝玉の色が変わるらしいんじゃよ。んで、その色によって魔力の量を測定するようじゃよ。わしも詳しく知らんが」

「え、知らないんですか?」

「あたりまえじゃろ。わしは昼寝タイムを邪魔されたかわいそうな教師なんじゃから」


 昼寝タイムって……さっきはつい流してしまったが、やっぱ突っ込んだ方がいいのだろうか。……いや、めんどくさいから止めよう。


「簡単な話、この宝玉に魔力を注げばそれで魔力測定は終了ということじゃ。それで、試験全てが終了、はれて自由の身というわけじゃな。つー訳でさっさとやってしまえ」


 なんだかなげやりな感じな気がする。だが、やらない訳にもいかない。


「えーっと、どうすればいいんですか?」

「その宝玉に手を置くのじゃ。そして、ただ全力で魔力を流す。それだけじゃ」


 随分と簡単だ。この前のやつまでは、魔力を通した後それを維持しなければならなかった。それをせずに、流すだけでいいのならとても楽でありがたい。ニックにとってもそっちの方がやりやすい。魔力を放出することと魔力を維持することでは大きな違いが存在してしまう。


「手を置いて、全力で魔力を起こす」


 宝玉に手を置く。とりあえず深呼吸。意識を手のひらに向ける。体の奥から沸き上がってくる魔力。マグマのような熱さ。体が次第に熱を帯びていく。

 そして、噴火する火山のように手のひらから全力で魔力を放出した。

 体から何かが消えていく感覚。しかし、喪失感ははない。何かが出ていく奇妙な感覚だけが体を巡る。


「────」


 しかし、一向に宝玉の色が変わらない。おかしい、魔力はしっかり通っているはずなのに。なら、もっと強く流してみよう。

 ニックは、手のひらに少しばかり力を入れる。

 何かが消える感覚が強くなった。だが、何も起きない。完全に宝玉は無反応だった。なら、もっと。もっと強く。体の奥からありったけの魔力を放出する。もっと、もっと、もっと、もっと。


「────おい! ニック!」

「──っ!」


 置いていた手を反射的に離す。体の奥から沸いていた魔力が一瞬で静まる。動いてる訳でもないのに息があがっていた。ちょっと運動不足なのだろうか。魔力を放出しただけでこれは情けない。


「さすがに流しすぎじゃ。学校の備品を壊す気か」

「あっ、すいません! ちょっと夢中でやってしまいました。けど、全く宝玉反応しなかったので、つい」

「確かに。透明なままじゃの」

「あの、これってもしかして……」


 点数ゼロ。そんな予感がした。

 ロゼリアは、そんなニックを見ながら小さく笑う。


「かもな」


 思わずため息が漏れてしまった。カナのことがあったことで魔術披露は結果的に出来た。しかし、魔力測定がゼロでもいつもよりはいい程度になる。

 けど、それでいい気もしていた。

 いつもならどっちもほぼゼロにだったのだ。それが今回は違う。色々思うところはあるが、この魔力測定でしっかりと自分の実力が分かった気がする。


「僕はやっぱりダメなんだな」

「いや、そうでもないぞ」

「え?」


 ロゼリアが宝玉を見ながら、うむうむと頷いている。


「どういう意味ですか?」

「なに、別に難しい話ではない。わしが側で見ておった限りお主の魔力は相当なものじゃよ。今までの非でない。この学園でもトップクラスじゃ」


 ロゼリアが何を言っているのか理解できなかった。

 魔力がトップクラス? この学園で?

 シルヴァに言われて知ったが、魔力は多くなっている。昔のニックと比べたら天地と地の差だ。

 だが、学園トップは言い過ぎだ。生徒会はもちろん、ユートリアス学園には魔術の才が集まる。そんな彼らを差し置いてトップとは。


「いや、ありえないですって。いくらなんでもその嘘は僕でも分かりますよ」

「これが嘘じゃないんじゃな。実は、お前に内緒でお前の体を調査したことがあってな。シルヴァを召喚した辺りの時期じゃったかな」

「えっ!? ちょっと何してるんですか! 人の体をいつの間に!?」

「まぁまぁ、落ち着け。過ぎたことじゃもう良いじゃろ。それに今はお前の魔力の話をしておるのじゃ」


 えー、良くないんだけどぉ。


「今、お前が魔力を放出をした瞬間、気がついたか?」

「えっと、何をですか?」

「結界がの、揺らいだんじゃよ」

「──!」

「本来、一度張った結界は術者が自分で消すか、強引に壊されるかせねば壊れることはない。それ故に、結界は完璧でしか発動できない。不完全な結界など結界とは呼べない。完璧であるから結界なんじゃ。しかし、今のお前の魔力によって一瞬だけその結界かんぺきが揺らいだ」

「…………」

「お前は、完璧を崩すほどの魔力を持っている。というわけじゃ。じゃから、お前はダメじゃない。もっと自信を持つがよい」


 あまりに大きな話で自分がそれをした実感が湧かない。まぁ、気がついてないのだから無理はない。だが、ロゼリアが言うのだからそうなのだろう。カナの一件のこともあるので絶対に信用できるとはいかないが。


「今、この魔術器具覗いてみたんじゃが……どうやら、ちょいと壊れているようじゃな」

「そうなると、もう一回ですか?」

「いや、どうやら色の出る仕組みが少し壊れているようでな。数値はしっかり出ている」

「ホントですか!?」


 喜びのあまり無意識に覗こうとする。が、


「ダメに決まっておるじゃろ」


 頭を叩かれてしまった。だって気になるんだもん。


「まぁ、少なくともゼロではないのぞ。安心せぇ」

「はい!!」


 爽やかなロゼリアの笑顔に屈託の無い笑顔でニックは返した。

 ロゼリアは、咳払いをする。


「それじゃ……二年C組ニック・ハーヴァンス。これをもって全試験を終了する。お疲れ様じゃ」

「はい! ありがとうございました!」


 腰をしっかり曲げてお辞儀をした。

 そして、密かに試験の結果に自信を持ってニックは魔力測定の会場である結界から出ていった。



 魔術披露と魔力測定。実技試験が今日終わった。

 つまり、ニックの試験は完全に終わったのだった。たった三日だけだったが、この三日間で掴めたことはとても多い気がした。

 まぁ、何が言いたいかというと、無事終わって良かった。ということだ。




**********************





「ふむ」


 ニックが出ていった結界の中でロゼリアは一人、宝玉のような魔術器具とにらめっこをしていた。だが、負けたのはロゼリアだった。


「クハハハ。まさか、これ程とはのぉ」


 ロゼリアは、人差し指の背で宝玉を叩く。

 瞬間、ひびが入り、火花が散り、煙を吐き、重力によって落ち、砕けた。魔術器具は、ただのゴミと化した。

 なぜ、こんな風になったのかは言うまでもない。ニックの魔力のせいだ。


「そりゃ、色なんて出ないじゃろ」


 ゴミと化した中から数値が出ていた画面部分を摘まむ。それを見ながら再度笑う。


測定不能エラーなんじゃからな」


 測定不能ということは、この魔術器具が受け入れる魔力の量を圧倒的に越えていたからなのだから。普通なら警告音がなるらしいのだが、それすら鳴らなかったところをみると。鳴る前に壊れた。鳴ることすら出来ずに壊れた。

 つまりは、そういうことだ。ただそれだけなのだ。


「やはり面白いの、ニックは」


 教師として成長を喜ぶ。だが、同時に魔術師としての本能がロゼリアの口角を自然とあげていた。







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