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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第6話 もう一度

「その時の想いを思い出す……?」


 知らず知らず、復唱していた。

 意味がよく分からない。


「それって、どういう……」

「難しいことなんざ一言も言ってねぇぞ。単純だ、単純。そのままの意味で解釈しろ」


 想いを思い出す。

 そのままなら、あの時に思っていた事を思い出して魔術を使え、ということだろうか。

 だが、それはもうやった。ダイスが腕を引いていた瞬間を思い出したとき、同時にリナを守らなければ、と思っていた。つまり、想いは思い出している。シルヴァの言っていることは既に実行されているのだ。

 それをシルヴァに伝えると、わざとらしくため息を吐かれた。

 そのため息が、少しニックのムッとさせる。


「何もおかしいことなんてないでしょ。シルヴァが言ったようにあの時の想いを思い出して、使ったんだよ?」

「いーや、それはお前の勘違いだ」

「勘違いなんかじゃ────」

「なら、聞くがなんでリナを守りたいんだ?」


 何かを言いかけたニックの口が止まる。


「確かに、守りたいという感情も一つの想いだ。だが、それは外枠だろうが。俺が聞いてんのは中身の方だ。なんで、お前はリナを守りたかったんだ?」

「それは…………」


 上手く言い表せない。なぜかと問われても困る。だって、理由なんて思い出せない。その時に何を思ってリナを守ったのなんて分からない。ただ守りたかっただけなのだから。

 他に感情なんて……ない。とは言い切れなかった。

 少なからず、リナに好意を抱いていた可能性も否定できない。だから、守りたかったのかもしれない。しかし、今リナに抱く感情がそういう物なのか事態が分からないのだ。

 そんな不確定な感情を思い出して魔術を使えと言われても出来ない。


「それにお前は、忘れてることがある」

「……なに?」

「俺が言った三つのことってやつだ」


 それは、シルヴァが初めての特訓をしてくれた時に教えてくれたニックの三つのダメな所。

 さっき神の盾イージスを発動しようとした時、確かに思い出してはいなかった。


「お前は、それを知っていたから使えたってさっき言ったよな。なら、それも思い出して使わなきゃダメだろ」

「…………」


 容赦のないシルヴァの言葉が胸に突き刺さる。

 言い返すことが出来ない。

 つい先程、そのことについてお礼を言ったばかりなのに実践してなかった。それについては、反省だ。


「ま、リナをなんで守りたいのかなんて、俺が知ってもどーしようもねぇからな。テメェで勝手に考えておけ。それが、魔術を使う鍵になるかもしれねぇからな。それに俺は答えが聞きたいんじゃねぇ。俺は、お前の魔術が見たいだけだ」


 シルヴァは、なぜか首を左右に傾け首の筋肉をほぐしている。さらには、自分の手を握って開いて握って開いてを繰り返し、なにやらストレッチ的な動きをし始めた。。

 全くもって行動の理解が出来ない。

 ストレッチをしながら、さらにシルヴァは続ける。


「俺はお前の魔術が見れればいい。そこら辺の中身はお前が自分で見つけるべきだ。自分は何をしたいのか、自分は何をしなければならないのか、自分はなぜ魔術を使いたいのか……とかな」


 自分が何をしたいのか……。

 自分は何をしなければならないのか……。

 自分は何故魔術を使いたいのか……。

 妙に心に響く言葉だった。そんな言葉の答えは、いつかハッキリと導き出さなければならない。

 魔術が好きだからとか、曖昧な言葉ではなく。その中身を見つけなければならない。


「で、さっきからシルヴァは何をしてるの……?」


 真剣な所なのに、なぜ今ストレッチをしているのか。真剣に考えているこっちが、気落ちしてしまう。

 だが、シルヴァの答えは想像していたものとは全く違ったものだった。


「何って、お前を殴るんだよ」

「………………は?」







 驚いて言葉が出ない。

 殴ると言われた。理解不能である。


「いや……いやいやいや! おかしいでしょ!? この流れでなんで僕を殴るのさ!?」

「殴りたいから」

「あんたは、狂人か!?」

「わりぃな、魔王だ」


 ……めんどくせー。


「殴りたいから、ってのは、冗談だ。なに、単純な話だ。神の盾イージスが使えないってんならそれと同じ状況を作って強制的に脳に思い出してもらう」

「脳に……思い出してもらう……?」

「おう。人の脳ってのは、メモ帳みたいなもんだ。一度記憶したものは、基本的には消えねぇ。まぁ、メモ帳を無くすことはあるから、一概に消えないとは言えないがな。だが、一週間前の出来事だし、あんなこと滅多に起きることじゃねぇんだから、脳はまだ覚えてんだろ。その時の想いとかよ」


 シルヴァに言われ自然と手のひらが自分の胸に行く。心臓の鼓動が伝わってくる。


「だから、それを再現する」

「その方法が……殴る?」

「あぁ」


 シルヴァは、楽しそうに口角を上げた。本当に冗談なんだろうか。

 ニックは、少し考える。

 シルヴァの言いたいことは、こうだ。今からダイスのように殴りに行くから、あの時と同じように拳を神の盾イージスで防げ。

 なんか色々おかしい気がするのだが。形は、理解できる。


「殴って、それを僕が神の盾イージスで止めれば良いってこと……?」

「おう」

「それじゃ、もし、僕が発動できなかったら?」

「お前は、また一週間安静だろうな」

「えっ!? 寸止めとかしないの!?」

「そんな器用な真似できると思ってんのか」


 出来るでしょ! シルヴァなら! それに、テスト二日目なのに今怪我なんてしたら成績が終わるんだが。そこら辺、教師なんだからちゃんと考えてほしいんだけど。


「俺は、本気でお前を殴る……もちろん、殺す気でな。だから、お前も死ぬ気で発動しろよ」

「ちょっと、待ってよ! そんな急に言われても────」


 シルヴァの右手が、ゆっくりと握られる。

 その瞬間。空気が変わった。シルヴァの瞳から光が薄れていく。優しく吹く風も完全に無となった。

 ニックは、思わず一歩退く。


「本当にやるの……!?」


 腰を落としたシルヴァからは、殺意しか感じられない。いつもとは、違う空気。冷えきった氷みたいな空気。なのに、ニックの体は熱く汗が頬を伝う。

 諦めたようにニックも手のひらをシルヴァに向ける。


「こんなやり方ってないだろ! 普通」

「おい、集中しろ……死ぬぞ」

「ねぇ、やめようよ! こんなことしてなんになるのさ!!」

「なるさ。少なくともお前のためには、な」


 少し上がったシルヴァの口角も今は恐ろしい。

 この時、ニックの心の中には怒りがあった。訳が分からないまま殴られる。しかも、それを止めなければ死ぬ、または怪我をする。その止める方法が神の盾イージスを使うしかない。


「ホント……なんなんだよ」


 体から魔力を起こす。

 さっきと同じように……では、なくシルヴァの三つのダメな所を思い出す。

 あの時と同じように。


「──神の盾イージス……!」


 シルヴァがゆっくりと、目を閉じた。


「……」


 ニックは、その事実が理解できなかった。

 手のひらにはなにもなかった。手のひらと奥に見える、シルヴァが見えるだけだった。


「……は? なんで、だって……ちゃんと、思い出したのに、なんで……!!」

「んじゃ、ニック────」


 視線が自分の手からシルヴァに向かう。

 体が硬直する。唇は渇き、喉も潤いを失っていた。呼吸が、荒れる。震えが止まらない。

 シルヴァの瞼が上がり青い瞳がニックを捉える。その瞳には、本当に殺意しかなかった。他の感情が見えない。

 だから、その事実を理解したくなかった。

 この状況がありえないほど、おかしい。

 だって──さっきまで普通に話してんだ。どうしたら、こんな風になるのか。どうしてシルヴァは、こんな事を。


「死ななきゃ、また一週間後に会おうぜ」


 シルヴァの姿が消えた。

 厳密には、移動した。目の前に腕を引くシルヴァ姿。シルヴァの視線がニックと重なる。

 そして、この光景はあの時・・と似ていた。だが、後ろにリナは居ない。あの状況とは訳が違う。今、目の前にいるのはシルヴァ。ダイスじゃない。

 無意識にシルヴァの言葉を思い出す。


 ────その時の想い・・を思い出すんだよ


 そう、思い出すのはあの時の光景じゃない。想いだ。

 拳は、ゆっくりと胸への軌道を描く。ただ真っ直ぐ貫くように。

 最初は、シルヴァがそうしているのかと思ったが違った。ゆっくりと見えているだけだった。スローモーションの拳は、異様に怖く、恐ろしかった。

 なのに、手は自然と動いていた。

 その拳に立ち向かうように広げられた自分の手。まるで、その手だけ自分のものではないのかと思うほどに。自然に無意識に。立ち向かっていた。

 だからこそ、その手に自分自身も全てをゆだねた。


「────神の盾イージス!!」


 ニックは、想いを乗せてそう叫んでいた。





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