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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第5話 思い出すべきこと


「それで、今回は何をするの?」


 今回の特訓内容は聞かされていない。どんな特訓をするのか、全く分からないのだ。

 もしかして、またあのクリスタルを使うのだろうか。どうせ割りまくるだけだと思うと気が滅入る。


「始める前にお前に聞きたいことがある」


 少し真剣なトーンでシルヴァは話す。いつもより顔が険しい気がする。だから妙に身構えてしまった。


「な、なに?」

「お前、防御壁ディフェンド以外にも魔術使えたらしいじゃねぇか」

「────え?」

「ダイスだっけか? あいつからリナを守るときに使ったんだろ? 神の盾イージス


 その時、初めて思い出した。その事をシルヴァには言っていなかったのだ。

 ダイスとの戦闘の最中、ニックは下位の防御魔術である防御壁ディフェンドではなく、中位の防御魔術の神の盾イージスを少しの間だが使えたのだ。そして、それで悪魔ダイスからリナを守り切った。

 その時の感情、感覚、熱が全て思い出され、体が一瞬にして熱くなる。


「そう──そうなんだ!! 使えたんだよ、シルヴァ!! 僕さ、防御壁ディフェンド以外にも使えたんだよ!! スゴくない、ねぇ、シルヴァ!」

「うるせぇ」


 シルヴァに迫るように近付くニックを鬱陶しそうな顔をして押し退ける。

 少し離されたニックは、なお鼻息を荒くしながら両手でガッツポーズをとっていた。相当、興奮している。なんだか目がキラキラしているのは、シルヴァの見間違いではないのだろう。


「確かに、防御壁ディフェンド以外使えないやつが他の魔術を使えたってのは褒めるべきだろうな」

「うん! ありがとう、シルヴァ!」

「俺は、何もしてねぇよ」


 いいや、シルヴァはしてくれた。

 この十六年間。使えた魔術は一つだけ。それが、シルヴァが来たとたん二つに増えたのだ。魔力量によって強度を変える神の盾イージス。ニックが使った二つ目の魔術。

 だが、よく考えれば使い魔召喚も行ったことになってるなら三つ目になるのか?

 しかし、それについては分からないというのが正直な所だ。

 とりあえず、神の盾イージスは使えた。それでいいじゃないか。


「そんなことないよ! シルヴァが居なかったら、僕はリナを守れずにあの時死んでたよ。シルヴァは、僕の魔術の使い方についてダメ出しをしてくれたじゃん?」


 一つ目、魔力を引き起こすのに時間が掛かりすぎ。

 二つ目、魔術を使う時に必要な魔力が足りない。

 最後に、イメージ。

 この三つがニックのダメな所だと、シルヴァは教えてくれた。


「あれがなかったら僕は、神の盾イージスを絶対に使えなかったよ。だから、僕は、シルヴァに感謝を伝えないと」


 その言葉に偽りなど存在しない。

 ただ、ありのままの感情をシルヴァに伝えた。


「…………そうか」


 何でもないという風にそっぽを向きながら答えた。

 照れてるのだろうか。意外とかわいいところがあるんだな、とニックはシルヴァの新たな一面に頬を緩めた。

 ふと、気になることができシルヴァに尋ねる。


「ところで僕が神の盾イージスを使ったって誰に聞いたの?」

「あ? ロゼリアだが」


 ロゼリア先生は、神の盾イージスを使ってる時にはまだ居なかった。いつそんなことを知ったのだろう。


「あっ……そういえば、あの日の夜に話したんだった。疲れすぎて全然記憶ないけど」

「そうかよ。俺は、ロゼリアからお前が神の盾イージスを使えたってことを聞いただけだ」

「……そっか」


 思い返せば、すごい経験をしたと思う。

 ロゼリア先生が居なかったら、もしかしたらこの学園の全員が死んでいたかもしれない。ロゼリア先生に改めてお礼を言いに行かないと。


「それは言わなくていいと思うぞ」

「え?」

「お前は、感謝する側じゃねぇってことだ。お前が居なかったらダイスは、リナを殺して学園の奴らも殺してたんだろ? なら、お前が感謝される側だ。お前が居たから今があるってことだろうがよ」

「…………そうだね、そうだといいな」


 自然と笑みがこぼれた。

 心が温かくなっていくのが、とても心地よい。


「それにしてもよく僕の考えてることが分かったね」

「心読んだからな、魔術で」


 いや、なにその空気をぶち壊すような発言。ちょっといいこと言ってるのに台無しなんだけど。


「良いことなんざ言ってねぇよ、普通のことだ。普通の」

「心読むのやめてくれる!?」

「心が温かくなっていくのが、とても──」

「おい! やめろぉぉぉぉぉ!!」








「そ、それで、本当に今日は何をするのさ。もしかして、神の盾イージスと関係ある?」


 特訓をしていないのに息切れをしながらシルヴァに問う。

 心を読むのは止めてくれた。たぶん。


「まぁな、とりあえずお前の神の盾イージスを見してもらおうと思ってな」

「でも、出来るかな……。発動したって言ってもまぐれみたいなものだったし」

「一度解いたら発動しなくなったんだろ?」

「まだ心読んでる!?」

「もう読んでねぇよ。ロゼリアから聞いてただけだ」


 変なことするから、疑うようになっちゃったじゃないか。全く。

 あの日の夜の記憶が全然無い。話をした所までは覚えているが内容が全く記憶にない。いつの間にそんな話をロゼリアにしたのだろうか。疲れすぎると記憶が無くなるんだな、覚えておこう。


「一度使えたんだ。もう使えないなんてことは絶対にない。だから、ここでもう一度やってみろ」

「う、うん」


 言われるがまま深呼吸をする。目を閉じ心を落ち着かせた。

 ゆっくりと腕を上げて、手のひら全体に魔力を集中させる。

 意識は次第に無と化していく。風の音も芝生の揺れる音も鳥の鳴き声も。全てが消えていく。体の奥底から熱い何かが沸き上がってくるのを感じた。

 あのダイスとの戦闘を思い出す。

 無我夢中だったが、しっかりと意識はあったし心は落ち着いていた。ただリナを守らなければ、という心で動いた。

 その感覚をもう一度脳内で思い出す。

 ダイスの拳。あの大砲のような悪魔の拳。こちらを殺す気で構えられた腕。本来ならニックを貫通するであろう一撃。それが見える。記憶が鮮明に思い出させる。

 だから、防ぐために同じように最短の詠唱を呟く。


「────神の盾イージス


 ゆっくりとまぶたを持ち上げる。

 目の前には自分の弱々しい腕が伸びているだけだった。手のひらは悲しく開いているだけで、その前にはあの青い少し湾曲した魔法陣はなかった。


「やっぱり、まぐれだったのかな……」


 引き攣った笑顔をしながら手のひらを見つめる。

 使えたはずなのに使えない。前から使えなかった時よりもショックは大きかった。一度使えてしまった感動が、反発してニックの心を悲しみで染めていく。

 そんなニックはシルヴァは黙って見つめていた。


「お前よ」


 突然呼ばれ、顔を手のひらからシルヴァに移す。


「なに?」

「今、ダイスと戦ってた時のこと思い出して魔術使ったか?」

「そうだけど」

「それやめろ」


 思わず固まる。

 どういうことだろうか。ダイスと戦ってた時のことを思い出さなければ神の盾イージスは使えない。だって一度成功したのだから、その時を思い出して魔術使うべきなはずだ。むしろ、思い出さずにやれと言われてもそれこそ出来るはずがない。

 なのに、シルヴァはそれをやめろと言ってきた。それが当然だと言わんばかりに。真剣な表情で、ニックに告げる。


「え、いや、シルヴァ。それ止めちゃったら僕は、神の盾イージス使えないよ。シルヴァだって分かるでしょ?」

「分からん」


 魔術を無詠唱で使うようなシルヴァには、到底分からないことだと言ってから気が付いた。


「う……わ、分かんないかもだけど! だけど! 使えた時の事を思い出してそれを再現した方が、成功する確率は高いでしょ!? たとえ、まぐれで出来た魔術でも、今また出来るかもしれないじゃん!」


 勝手に言葉が口から出ていく。もう、この時点で冷静ではなかったのかもしれない。自分ではそう思っていても、使えなかったという事実がニックの口を必死に動かす。


「同じようにそれを繰り返せば、神の盾イージスを完璧に出来るかもしれないじゃん! なのに、シルヴァはそれをやめろって……! どういうこと!」

「落ち着け」

「僕は──! …………っ、ごめん……」


 シルヴァは、ため息を吐く。


「俺がやめろって言ったのはダイスと戦ってた時の事を思い出すのをやめろって言ったんだ」

「いや、だからさ、それって────」

「いいから話を聞け」


 ニックは、喋ろうとする口を無理矢理閉じた。

 それを見て、シルヴァは続ける。


「お前は、ダイスに襲われた時の光景を思い出してるんだろ? 神の盾イージスを使うまでは、一方的だろうからな。それまで、生きていたのはリナのおかげとただの運だ。……ダイスとお前とでは大きすぎる力の差があるのは理解できてるか」


 沈黙でそれに答える。


「そう、大きすぎる差だ。そうなると、お前が思い出している光景は大体予想がつく。気が付いたら攻撃がくり出されていたとか、そこら辺だろ」


 当たっている。

 さっき思い出したのは、気絶したリナを並木に置いて振り返った時の光景。すでにダイスの拳が引かれ放たれる寸前の光景。

 死が間近にあったあの瞬間。

 今、思い出しただけでも少し鳥肌が立つ。


「だがな、そんなものを思い出す必要はない」


 シルヴァは、きっぱりとはっきりと、ニックのやったことを否定した。


「どういう、こと……?」


 黙っているつもりでいたが、訳が分からず問いかける。


「それじゃ、何をどうして僕は、また魔術を使えばいいの?」

「決まってんだろ」


 シルヴァの腕はゆっくりと上がる。

 そして、人差し指で自分の胸をつつく。


「────その時の想い・・を思い出すんだよ」







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