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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第二章 夢幻祭《フェスタ》
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第1話 一週間の代償

 あいつの事が、嫌いな訳じゃない。だからと言って好きな訳でもない。

 だが、あいつを見ていると無性に腹が立つ。魔術に向き合い、魔術を想い、魔術を愛している。そんなあいつを俺は、受け入れられない。まるで昔の自分を見ているようだから……。

 魔術をろくに使えないのに、なんでそんなに頑張れる。なぜ使おうとする。なぜ諦めない。

 疑問を上げればきりがない。しかし、その疑問は昔の自分が逃げるために作った道に過ぎない。

 だから、あいつも同じ道を行くと思っていた。なのに……。

 あいつは、俺を越えた。昔の俺を、今の俺を。それがどうしても許せなかった。

 俺は決めた。こいつを叩き潰す。その想いも信念も何もかも、お前の全てを潰してやる。それが、何も生まないことは分かっている。けど、やるしかないだろ。じゃないと俺は──俺自身に潰される。





*********************










 ニック・ハーヴァンス。黒いメガネを掛けた十六歳。魔術もろくに使えないユートリアス学園の生徒である。

 だが、そんなニックにも秘密がある。それは、魔王が使い魔な事だ。名をシルヴァ。銀色の綺麗な髪を持つ男。

 この事を知っているのは、ニックの友人のリナ・フロース。教師のロゼリア・アクセス。理事長のカナ・ヒュースベルト。そして、エルステイン王国の王、アーサー・ペンドラゴ。おそらく、その直属の部下にあたる聖王騎士団。……意外と知られてしまっている事は、この際無視しよう。

 ニックがシルヴァとなぜ契約出来たのかは依然として不明だが、ロゼリア曰くニックの血が使い魔召喚の魔法陣と反応してシルヴァが召喚されたとかなんとか。詳しいことは分かっていない。

 そんなシルヴァと向き合う事になり、ひょんなことから魔術の特訓を始めた。

 しかし、そこに訪れたのは二人の悪魔、ギーツとダイス。ニックとシルヴァは、別れ二人と対峙する事となった。ニックとシルヴァ、互いに命を懸けた戦いだっただろう。

 だが、シルヴァはギーツを倒し、ニックはロゼリアに助けてもらいダイスを倒した。命を懸けた戦いに見事勝ったのだ。



 こうして二人の悪魔の事件が解決して一週間が経過した。

 ダイスとの戦いで負傷したニックは、一週間絶対安静の命を受けた。ロゼリアが言うには、


「治癒魔術をかけても体力、疲れ、身体への負担は回復出来んからの。お前は一週間授業に出ることは許さん。あと、シルヴァとの特訓もな。あー、あと魔力を起こす事も禁止じゃ。いいか? 絶対に禁止じゃぞ!」


 ということらしい。

 なんとも退屈な一週間だった。……と言うわけでもない。なぜなら、その一週間の半分以上は寝ていたからだ。一時的に目覚める事はあっても体を動かす事は出来なかった。もちろん、魔術を使おうなんてもっての他。

 つまり、ニックはこの一週間何もしていない。


 そう、この時ニックは、気が付いていなかった。あの悪魔の日が近づいていることに……。







*********************






「朝だ! 外だ! 学校だー!」


 柄にもなく、腕を上げ寮の玄関の前で叫ぶ。

 五月十六日。一週間ぶりに吸った外の空気。体全体で感じる太陽の温かさ。時刻は、七時。目を細め太陽を見上げる。


「やっぱ外に出ると気持ちいいなぁ」


 感激したように、うんうんと頷くニック。本校へと向かう数人の生徒に、変な目で見られている事には気が付いていない。外に出られたことに感激し過ぎているようだ。

 体は万全。もうどこも痛いところもない。体も重くない。むしろ軽いくらいだ。


「よし! ちょっと早いけど学校行こうかな」


 洗濯済みの制服のえりを少し直して頬を叩き気合いを入れる。

 すると、歩き出そうとするニックの肩を誰かが叩いた。驚き振り返る。

 ぷに。

 固く細い何かが頬に当たる。


「──うわっ!?」


 思わず跳ぶ。自分の今の身軽さをなめてもらっては困る。


「わぉ、すごい跳ぶね」

「え?」


 目の前に居たのは、ニックの友人のリナだった。

 炎のような赤い髪を腰まで伸ばしている。赤い瞳が驚いたように見開かれる。だが、口に手を当てて笑いだす。


「久しぶり、ニック。それだけ跳べるならもう大丈夫なんだね」


 優しく微笑むリナ。太陽に照らされ輝く髪が風で柔らかく揺れる。同じ明るさを放つリナの笑みに思わず目をらす。


「う、うん。もう大丈夫」

「そっか。なら良かった」


 心臓が高鳴っているニックの事などお構いなしに、リナが横を通り過ぎる。


「ほら、早く学校いこっ」


 肩越しに振り返ったリナの髪がふわりと持ち上がる。


「あ……う、うん」


 無理矢理、返事を口から出す。

 ニックは、リナの揺れる髪を前に本校までの道程を少し緊張して歩いた。


「……なんか、今日暑いな……」









 自分のクラスの前に着いた。

 教室には人の気配がする。なのに、なぜか異様な緊張感と静けさを感じた。

 扉を開ける手を躊躇ちゅうちょする。


「どうしたの、ニック?」


 ニックの顔を覗き込むリナ。心臓がやけにうるさいが、平然をよそおって首を振った。静かにメガネの位置を直直す。


「……いや、何でもないよ」


 おそらく気のせい。いつもより今日は、皆のテンションが低いだけだ。

 そう心に言いつけて扉をいつものように開けた。


「───え?」


 目を見開く。思わず持っていたかばんを落とす。

 目の前に広がったのは、普通の教室の風景。だが、このクラスに限ってこんな光景はあり得ない。


「ど、どうなって……」


 ニックが見たのは、全員が自分の席に座り勉強をしている。さらさらとペンの走る音。ページを少し大袈裟にめくる音。いつもの話し声が一切しない。

 そう、いつもならローリエが来る時間まで話し声と笑い声のオンパレードなのに。今の教室はその正反対。

 呆気に取られるニックを余所にリナがニックを通り過ぎる。


「それじゃ、ニック。私も勉強するから」


 爽やかに笑い、軽く手を振って自分の席へと向かうリナ。その姿をニックは、一人教室の入り口で寂しく眺める。


「…………と、とりあえず、座るか」


 落とした鞄を拾い、不安そうに教室を見渡しながら自分の席へと向かう。その時、一つの席が目に入った。

 ニックの席から二つ隣の席。シルヴァを召喚した次の日から顔を見ていないエバンの席。ニックが休んでいた一週間も来なかったのか、机の上には少しだけほこりが乗っていた。

 ニックは、目を逸らし自分の席へと向かう。

 最小限の音で椅子を引き、座る。自分の席の安心感と言うのは、なんとも言えないものがある。別に椅子が好きな訳ではないが、いつも座る椅子と座らない椅子とでは天と地の差があるとニックは思っている。


「──ってそんな場合じゃないか……」


 小さく呟く。

 もう一度教室を見渡す。全員が机の上にある教科書と格闘している。

 なんだろう……この取り残されてる感。

 とりあえず考えろ。なんで皆こんな真面目に勉強してるんだ?

 思い付いたぞ。これは、ドッキリなのでは。ニックの一週間ぶりの帰還にみんなが、ニックを驚かせようと──あり得ないな。そもそもそんなに有名じゃないし。いや、落ちこぼれという点で言えば有名ではあるが……。自分で言っておいてなんだが、悲しいくなってきた。少なくとも、シルヴァ召喚するまで、笑い者だったやつにドッキリをしかけても何もない。

 それじゃ、皆勉強に目覚めたとか。


「…………無いな」


 クラスの皆には、悪いがそれは無い。こんなに皆が、勉強している姿なんて見たことが無い。だって、なんか文字の書いてあるハチマキ着けてる人とかいるし……。なんだよ熱血って。


「ん、待てよ……。なんか同じ光景をどこかで……」


 腕を組み、この気持ち悪い感覚と格闘中、扉の開く音が前から聞こえてきた。みんなは、気にせず勉強を続けている。


「みなさーん、おはようございます」


 穏やかな口調。なんだが、久しぶりに聞いた気がする。どうやら、いつの間にか先生が来るような時間になっていたらしい。


「今日もみなさん元気そうで、先生嬉しいです」


 桃色のウェーブした髪を揺らしながら教壇へと歩いていく。同時に服の上からでも分かる巨大な胸も揺れている。そんなローリエの後ろを銀髪のシルヴァが、つまらなさそうに付いてきている。

 シルヴァは、ニックに気が付き驚きの表情に変わる。ローリエもニックに気が付きこちらに優しい笑顔を向けた。


「あら、ニックくん。来ていたのですね。もう怪我は、大丈夫なのですか?」

「え、あ、はい。もう全然大丈夫です」

「そうですか! それは、良かったです。これで、ニックくんも無事に試験を受けられそうですね」

「あ、はい」


 …………ん?


「あ、あのローリエ先生……?」

「はい、なんですか?」


 笑顔でローリエは、首を傾げる。くそかわいい。そうじゃない! ニックは、引き吊った笑顔で聞き直す。きっと聞き間違えただけだ。


「今…………試験、って言いませんでしたか……?」

「はい、言いましたよ」


 時が一瞬、止まる。聞き間違えでは無かった。

 道理で見たことある気がした訳だ。試験前はいつも、こんな感じだった。

 だが、ここで問題なのは別にある。一度深呼吸をして落ち着く。意を決してローリエの優しそうな顔を見つめる。


「ち、ちなみに試験は、いつ……ですか……?」


 何故か驚いた顔をして静かに微笑んだ。包容力のある笑顔。

 それでニックは察した。良かった。だいぶ期間は空いていそうだ。それなら今から本気を出しても余裕で間に合う!


「3日後ですよ」

「…………へ?」


 この時、ニックの一週間の休養が一瞬で無駄になった。主に精神的な面で。







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