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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
アナザーストーリー
50/80

2.その日の夜

 部屋を出たアーサーは、バルド王国の兵士と別れ自らが率いてきた兵士たちが休息を取っている場所に向かうため足早に歩いていた。

 なぜか、扉の前で待っていたはずのルークの姿はなかった。

 異様に寂しくなる足音が一つ。

 国が危機に瀕している。その事実がアーサーを逸らせる。加えて、エルステイン王国に居るときはいつもルークが側にいる。こういう時に、一人でいる事がなんとも心細い。


「どこにいったのですか……ルーク」


 つい独り言を呟く。

 長い廊下の先に光が見える。出口だ。アーサーは、迷わず光の中に入っていく。容赦なく太陽が瞳を刺激してくる。目を細め緩和するが、あまり意味はない。

 開放的に開いてある玄関。すぐに下へ続く階段が見える。だが、階段を下りる寸前で足が止まった。


「ルーク……」


 階段の下にいたのは、茶色の馬に乗ったルークだった。その隣には、誰も乗っていない白い馬。その後ろには、この地に来たときよりも少なくなっている兵士たち。

 ルークは準備をしていたのだ。しかもこの短時間で。扉の前で立っていたルークがバルド王国の兵士に話を聞き先に出発の準備をしていたのだろう。


「アーサー王!」


 アーサーの存在に気が付きルークが声を上げる。


「全く、貴方という人は……」


 優しく静かに微笑み、数十段の階段を素早く下りる。


「すみません、ルーク」

「いえ、当然の事をしたまでです。ですが、お急ぎを」

「分かっています」


 慣れたように誰も乗っていない白い馬に乗り、ルークが持っていた手綱を貰う。

 そして、肩越しに振り返る。


「これより、我々はエルステインに全速力で帰還します! 遅れずしっかりと付いてきてください!!」


 兵士たちの同意の声。それを聞いてから、アーサーは手綱を握り締め馬を走らせた。








 たくさんの重々しい馬の足音と砂埃を舞い上げながら茶色の道を走り抜ける。その先頭には、白い馬に乗ったアーサーと茶色の馬に乗ったルーク。


「ルーク」


 舌を噛まないよう気を付けながら隣にいるルークに声をかける。


「はい、なんでしょうか」

「兵の数が最初より少ないですが、どうしたのですか?」

「彼らには、ラインハルトたちと先にエルステインに戻ってもらいました」

「そういう事でしたか。どうりで姿が見えないわけです」


 後ろを振り返る。ラインハルトの姿はなく、鎧を着た兵士が三十人ほど付いてきている。


「ラインハルトは何分前に出発をしたのですか?」

「五分程前に」


 五分程前ということは、それほどの距離はない。すぐに追い付けるはずだ。

 エルステインを襲っているドラゴンがどんなものか分からない以上早く戻らなければならない。もし、国を簡単に滅ぼせるような力を持っていれば民を危険にさらしてしまう。

 焦りと不安がアーサーを襲う。


「少し飛ばします。皆さん、付いてきてください!」


 後ろの兵士にそう告げ、馬の腹を蹴ってスピードを上げた。






 だがアーサーたちが着いた時、すでにドラゴンの姿はなく、崩壊した街の中央部が寂しく王の帰りを出迎えていた。






*********************






 日は落ち、黄金色の月が天に昇っている。

 時刻は、二十一時過ぎ。白を基調としたエルステイン王国の城。とある部屋の玉座に座ったアーサーとその後ろに立つルーク、二段程低い所に顎髭あごひげを生やしたジゼルがひざまずいていた。


「愚か者!!」


 アーサーの怒鳴り声が部屋に響き渡る。


「民を犯人扱い……ましてや、学生に罪を着せるなどあってはならないことですよ!」


 アーサーの睨みがジゼルに向けられる。


「申し訳ありません」


 感情の無い声と共に頭を下げる。

 アーサーが円卓会議から帰還した後、すぐにジゼルから何が起きたのか話を聞いた。

 ジゼルが言うには、とある少年がドラゴンを送り込みエルステイン王国を滅ぼそうとしていた。だが、それは間違いでその少年の使い魔がドラゴンを倒してくれたらしい。

 だが、問題はその使い魔が魔王であるということ。ジゼル(ロゼリア)によれば既存の魔王とは異なる存在らしい。魔族であることは変わらないが、魔王は自称であるとか。

 真偽の程は分からない。ただ今の問題はそこではない。

 結果的にドラゴンが襲撃してきただけとなったが、もしかしたら罪の無い一人の少年の命を奪っていたと言うことになる。


「なぜ、そんな事をしたのですか……ジゼル」

「突然の出来事に動揺したのかもしれません」

「動揺で片付けられるものではありません。聖王騎士団としてあるまじき行為です、ジゼル」


 動揺したのも分かる。王が不在の状況でドラゴンが襲ってきたとなれば自分が同じ立場だとしても動揺はするだろう。

 ましてや魔王の登場。

 しかし、それで一人の少年の命を奪おうとするだろうか。


「処罰については後ほど言い渡します。まずは、明日その学生に謝罪をして来なさい」

「……承知しました」


 少しの間をおいてジゼルは了承する。

 立ち上がり、その場を去ろうとするジゼルの足を止める。


「ジゼル」

「はい、何か」

「一つ聞いても良いですか?」

「なんでしょうか」

「本当に他意はないのですね? ただ、動揺してその少年を危険な目に遭わせてしまっただけだと……」


 視線が重なりしばらくの沈黙。だが、ゆっくりとジゼルの瞼が下がる。


「無論です。私は人の命を軽んじているつもりはありません。本当に今回の件は反省しております」

「……そう、ですか。分かりました。では、その少年とその使い魔殿も明日こちらに連れてきてください。私から直接伝えたいことがあるので」


 ジゼルは、頭を下げ部屋から静かに出ていった。

 ゆっくりと胸に渦巻く緊張を吐き出す。


「大丈夫ですか、アーサー王」

「えぇ、大丈夫です。ですが、ジゼルがあんな事をするとは思っていませんでした。この国に居なかった私が言えた事ではありませんが……」


 そうだ、そもそも自分がその日この国に居なかったのが原因ではないだろうか。もし、自分が出掛けていなかったらこんな事には。


「失礼ですが、それは考えすぎかと……。アーサー王が居ない時は見計らって誰かが仕掛けてきたと言う事も考えられます。そのように自らを責める必要はないかと存じます」

「……そうですね。きっと私も動揺しているのでしょう」


 ルークの言葉に少し心のもやが払われた気がした。


「ですが、その少年に謝罪しなければならないのは事実です。それに……」

「遠征の件ですか……?」

「はい。正直、魔王が使い魔なんて信じられないですが……もし、それが本当なら遠征には必要不可欠な存在になるはずです」

「私は気乗りしませんが、アーサー王がそう言うのでしたら反対はしません」


 ドラゴンを倒したという使い魔(まおう)がどんな人かは分からない。そもそも本当に魔王なのか、謎が多いがドラゴンを倒し国を救ってくれたという事実は変わらない。そんな人材をみすみす手放すつもりはない。

 アーサーは、椅子から立ち上がりニックたちを呼び出す王令の準備をその日の内に終わらせるため部屋を後にした。








********************

**





 月夜が見える廊下。魔術器具で明るい廊下でも月はそれより遥かに明るく美しい。そんな月をジゼルは見ることなく、無表情で静かに歩いていた。

 怒られ落ち込む事もなく怒りを覚えることもない。ただ黙って廊下を歩く。だが静かに足を止めた。

 その原因は、支柱に寄りかかる一人の少女だった。少女は、ジゼルに気が付きニヤニヤしながら近付いてくる。


「お説教は終わったっすか?」

「何の用だ。アーミル」

「いや、お説教食らったジゼルの顔を見に来たんっすけど全然変わらないっすね。残念」


 肩を落とすアーミル。ため息を吐き、手を頭に後ろで組み歩き出す。その小さな背中にジゼルは付いていく。

 若草色のくせ毛。だが、普通の人とは少し違う。頭の上、大きな三角の耳が二つ立っている。そして、腰に付いている若草色のふさふさとした尻尾。左右に揺れる尻尾は、たまに回ったり八の字を描いたりしている。


「ジゼルゥ」

「なんだ」


 突然名前を呼ばれ前を見ると、手を組んだまま肩越しに振り返ったアーミルが唇を尖らせこちらを睨んでいる。微かに頬が赤くなっていた。


「あんまし、尻尾とか見ないで欲しいんっすけど」

「見てたつもりはない」

「それは、それで困るんっすけど──ってそうじゃなくて……まー、いいっす」


 何が言いたいのか分からないが、良いというのなら無視しよう。


「それで何か用があって来たんだろ」

「まぁ、そりゃあるっすよ。あんな事をジゼルがすると思ってなかったすから」


 アーミルが足を止め振り返る。ジゼルも足を止めた。


「なんかあったんすか?」


 心配そうな瞳が向けられる。そんなアーミルにジゼルは近付き頭の上に手を乗せた。

 驚いた声と顔がジゼルを見上げる。


「お前が心配するような事は何もない、安心しろ」


 ジゼルの大きな手を軽く動かす。どこか不満そうな顔をするが、その手をどけようとはしない。アーミルは、ジゼルの顔を凝視する。


「そんな無表情で撫でられても嬉しくないっすよ」

「…………」


 動かしていた手を止める。そして、手をずらすしアーミルの目を隠すように親指と小指でこめかみを押さえ力一杯握る。


「痛い、痛い痛い痛い!! 痛いっすよ、ジゼル!! あたしなんか変な事言ったっすか!?」

「別に」

「怒ってるっすよね!? どう考えても」

「別に」

「痛い、本当に! 良く分かんないけど悪かったっす! 謝るっすから!! だから、離して! ほんと、死んじゃうっす!!」

「……」


 力を緩めるとするりと離れていく。

 目の端に涙を浮かべながら頭を両手で押さえている。


「なんっすか、急に! 人が心配してやったっていうのに、もうっ!」

「余計なお世話だ」


 アーミルは、頬を膨らませ不機嫌そうにまた歩き出す。ジゼルもその後を追う。


「──本当に何もなかった。だが、あの少年がどうも気に食わなかっただけだ……」

「ん? 何か言ったっすか?」

「……いや、ひどい顔してるなと」

「何をーー!!」


 ぽかぽかと、叩いたり蹴ってくるアーミルを無視しながらジゼルは歩き続けた。





 次の日、ジゼルはニック・ハーヴァンスの元へ謝りにユートリアス学園に向かった。







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