第3話 下準備
『ユートリアス学園』。
ニックたちが通う学校は、エルステイン王国にある屈指のエリート校である。全校生徒は千人を超えており、身分など関係なく魔術や剣術、体術に青春をささげている。
その学園のとある古い小屋の中でニックとリナは魔術の本を二人で覗いていた。
小屋にはほとんど何もなく、あるのは埃を被った机と椅子くらいだった。埃やカビ臭いのが少し気持ち悪いが魔術を使えるならそんなこと安いものだ、ということでこの場所で『使い魔召喚』をしようと二人は決めた。
「えーと、こんな感じでいいのかな?」
ニックは、眉を中心に寄せて首を傾げる。
「たぶん大丈夫だと思う……けど」
リナは、本から目を離し地面に向ける。ニックもそれにつられ地面を見る。地面には、白で書かれた魔法陣。その周りには使い魔召喚に必要な動物の骨と変な緑の草、古びたスクロールなど丁寧に並べられている。
「まさか、こんな簡単に必要な道具が揃うとは思わなかったな……」
「これもロゼリア先生のおかげだね!」
リナは、嬉しそうな笑みをニックに向ける。ニックも笑みを返しながらこの光景を噛み締める。これから魔術が使えると感慨深くなってくる。
ちなみにロゼリア先生とは、ユートリアス学園の教師で基本的には魔術の実験などをしている人だ。
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今から、一時間前。教室を出たニックとリナは、ロゼリアのいる部屋の前にいた。
「ここ、だっけ?」
「だね」
長い廊下の一番端にある部屋の茶色い扉をニックは、ノックして扉をゆっくりと押す。
「失礼します。ロゼリア先生いますか?」
扉を開けたニックは一歩踏み出す。薄暗い部屋には、分厚い本や大量の紙、ニックにはよく分からないものまでも散乱している。散らかった部屋を目の前にニックは呆れていると後ろからリナが部屋の中を覗いてきた。
「居ないのかな?」
と言った瞬間。
ガタッ、と部屋の奥で物音がした。
「……ろ、ロゼリア先生?」
恐る恐る呼び掛けると先より大きい物音が聞こえてきた。音は、散乱した本の中からしている。そこをニックとリナは不思議そうに見つめていると、
「ぷふぁ! マジで死ぬかと思ったぞ!」
山ずみになった本の中から小さい体の女の子が出てきた。薄暗い部屋でも輝く金髪の髪を左右に分け結び、おさげの女の子。肩で息をしながら焦ったような顔で、未だに埋まっている下半身をもぞもぞして抜け出そうとしている。ちょっとかわいい。
だが、そんな気持ちを頭を左右に振って払う。
「ロ、ロゼリア先生?」
「ん? おー、ニックではないか。それにリナまで。良いところにおったのー。ちょいと引っこ抜いてくれぬか」
両手をニックたちの方に伸ばしているロゼリア。ニックは、近付き細い腕を掴んで引っ張る。
体が軽いので意外とあっさり抜けた。
「あぁ~、助かったー」
安堵の息を漏らすロゼリア。
ニックは、ロゼリアを見下ろす。ニックの半分の身長のため必然的に見下ろす形になる。黒を基調としたワンピースの上に白衣を羽織ったロゼリアは、ニックの視線に気が付きジト目になる。
「なんで、見下ろしてるじゃ」
「なんでって言われても僕の方が身長高いので……。しゃがめばいいですか?」
「それはそれで、ムカつくから止めい」
どうすればいいんだ。ニックは、戸惑った声で返事をする。
ロゼリアは、散らかった部屋の中から魔女が被るようなつばのデカイとんがり帽子をとって金髪の上に乗せる。
ロゼリア・アクセス。年齢不詳。こんな見た目なのだから幼いと思うのだがロゼリアは、エルステイン王国でもそこそこ有名な魔術師である。そのため見た目通りの年齢かもしれないが、もしかしたらものすごい年をとってるかもしれない。噂では、百歳を越えているのではないかと言われている。だが、あくまでも噂である。百歳でこの見た目なら、卑劣な詐欺だ。断じて許すわけにはいかない。
「それで、ロゼリア先生。なんで本の中に埋もれてたの?」
リナは、ニックも聞きたかったことを聞いてくれた。
「実はな、本を探していてな。積み上がった本から本を取ろうとしたら倒れてきてこの通りじゃ」
フッ、と鼻で笑うロゼリア。
「で、何のようじゃ?」
本を魔術で片付けながら聞いてくるロゼリアにニックはここに来た理由を思い出した。
「えっと、実は──」
「これが欲しいんだけど、あるかな? ロゼリア先生」
ニックを遮るようにリナが前に出て、一枚の紙をロゼリアに渡した。
「ん? これは……」
「魔術の研究に必要で」
「ほ〜ん」
紙を見て難しい顔をしたロゼリアをよそ目にニックは、小声でリナに話しかける。
「なんで紙で渡したの? あの本見せれば良かったんじゃ……」
「バカだな~、本渡したら私たちが使い魔召喚するってバレちゃうじゃん」
「あっ、そっか」
「私たちが上位魔術しようとバレると後々面倒だからね」
魔術というものは、下位魔術、中位魔術、上位魔術の三つのレベルがある。上位にいくにつれてその魔術の質などは、大きく変わり強力になる。上位魔術を使う魔術師は、下位魔術、中位魔術は詠唱なしで使えるほどでないと上位魔術を使うのは難しい。
リナがバレないようにしているのも上位魔術を使うレベルに達していない生徒は、教師立ち会いの下で使用しなければならないという校則が存在する。そして今は、下位魔術もろくに使えないニックが使用しようと企んでいるのだ。バレれば当然止められる。それをリナは隠れてやってしまおうという腹づもりなのだ。
「……ちょっと待っておれ。今、持ってくる」
「はい!」
リナは、元気よく返事をする。
ロゼリアは、ある程度片付けて作った道を沿って奥にある扉に入っていく。時折、騒がしい音が聞こえてくる。
数分後、ロゼリアは荷物を抱えながら扉から出てきた。
「ほれ、これでいいか」
ロゼリアは、机の上に持ってきたものを置く。二人は、机に近付き持ってきたものをまじまじと見つめる。
「すごい……これ、全部揃ってる。無いのもあると思ったのに」
リナが驚いた顔をしていた。それは、ニックも同じだ。まさかこんな簡単に揃ってしまうとは。感激である。
ロゼリアは、そんな二人を見つめて不敵な笑みを浮かべる。
「それで?」
ニックとリナは、道具からロゼリアに顔を向ける。
「────なぜお前らが上位魔術である使い魔召喚をしようとしておるのだ?」




