第29話 協力と団結
ステージの上に集まったのは、たくさんの生徒。二、三年生がほとんどで一年生は数人しか見られなかった。集まった人数は、おそらく二百人程度だ。ステージにそんな人数乗れる訳もなくステージから溢れ下でこちらを見上げている。
その中心にいるのは白髪の眼鏡をかけた生徒会長のオルガと、魔女が被るような鍔のでかい帽子を被った金髪おさげのロゼリア。と、クリスタルで会話に混ざる理事長のカナとローリエ含む全教員。
オルガが全員集まったのを確認すると眼鏡の位置を直しながらロゼリアに向き直る。
「ざっと二百人くらいですかね。選定を厳しくしなければもう少しいけたでしょうが、今回は事が事ですので」
それを皮切りにローリエや他の施設の教員が流れよく人数を伝える。
その数、約四百人。
ロゼリアは純粋に驚いた。千人以上がいる学園で約四百人が集まった。それはつまり四割の生徒が中位魔術を最短縮で使えるか上位魔術を使えることになる。別に生徒たちを信じていなかった訳ではない。ただ、こんなに生徒たちの魔術の腕が高いとは思ってなかったのだ。
『まぁ、一応私たちの学園はエルステイン王国の中でも魔術の腕は随一だからな。当然と言えば当然だよ』
「そうじゃったのか。あんまり興味がないから知らんかった」
「教師としてはあるまじき発言だな」
嬉しい誤算だ。これなら想定より早く隔離結界をどうにか出来るかもしれない。ニックたちのことも心配だ。早く助けに行かねば最悪の事態になりかねない。そんなのは御免だ。
ロゼリアは杖を地面に強く打ち付け声を張り上げる。
「では、お前らに今から結界の解き方を教える!」
「まず、この結界の解き方だが、原点が一つでは無いのは知っておるのだろ?」
「えぇ、ロゼリア先生たちが話していたのでみんな、知っているはずですよ」
オルガが返事をする。言い方が少し気になるが、ロゼリアはグッと堪える。周りにいる生徒たちは、黙ってロゼリアの話を真剣に聞いている。
「その原点の解き方だが、やってみないとわしにも正直なところわからんのだ」
『おいおい、それって解き方が分からないって事じゃないのか?』
「間違いでない。わしも、その方法が絶対に合っているか分からないからの」
ロゼリアは、オルガの方を見上げる。
「どうせ、お前らは知ってるから言うがこれは黒魔術の類いじゃ。さすがの、わしも専門外じゃ。もし、その解き方が間違っていたら何が起こるか分からん……」
張り詰めた沈黙が、流れる。
だが、そんな中でもオルガは堂々としていた。
「その魔術がどうであれ僕たちに出来ることはそれしかないですからね。ロゼリア先生の言うことに従いますよ。その為に集まったんです」
周りにいる生徒たちが、決意のこもった頷き出す。オルガはそれを誇らしそうに眺め笑ってみせる。
「それに僕たちの学園にこんな結界を張ったんです。僕たちに喧嘩を売っているなら買わない訳にはいかないですよ」
まさに生徒会長。この学園の事を第一に考え行動する姿は生徒の鑑そのものだ。この学園の事が大切なのがオルガの表情で分かる。そして、密かに握られた拳は、学園に手を出した事に対しての怒りだろう。
そんなオルガの気持ちにロゼリアも同意である。だが、ロゼリアが一番腹が立っていることはただ一つ。
生徒を危険な目に遭わせてしまっている事。未然に防ぐことができなかった事。それが一番腹立たしい。己の不甲斐なさに心底飽き飽きする。
「お前らの気持ちは、よく分かった」
ロゼリアもまた、怒りという感情を心の内で燃やしていた。
「原点の魔法陣の解き方を今から教える。しっかり聞いておけよ」
全員が静かにその方法を聞く。
「原点の魔法陣を見つけたら、その魔法陣の術式を解読するのじゃ」
『そこは、術式解除と同じだな』
「あぁ、じゃが問題はこれからじゃ。確か本には魔法陣の中には、隙間があると書いてあった。その隙間を一度埋めた後、解かなければならないのじゃ。それが、この隔離結界の解き方じゃ」
「それは、つまり、原点には術式の不足がある? という事ですか?」
「そういうことじゃ。不足している術式を埋めて一度完全な魔法陣にする。そしたら、あとは術式解除と同じ要領じゃ」
『確か、偽造の魔法陣もあるんだよな? なのに、原点の方が完全な魔法陣じゃないのか。なんと、まぁ、不思議な魔術だな』
「それで、ロゼリア先生?」
オルガが、眼鏡の位置を直しながら真剣な表情をする。
「魔法陣の隙間を埋めるには、どうするんですか?」
「術式を付け加えるだけでいい。そして、その術式を今から言うからしっかり覚えておけよ」
指を一本立てる。
「──血を満ちよ 生を尽くせ さればこの時、だ」
『なんとも中途半端だな……』
「言ったであろう? 術式の不足だと。その為、こんな変な途切れ方をしておるのだ。たぶん」
「血を満ちよ 生を尽くせ さればその時……ですか」
オルガは、顎に触れながら復唱する。そうして、覚えようとしてるのだろう。
ロゼリアは、持っている杖を地面に強く打ち付ける。視線が一気にロゼリアに集まった。
「原点の魔法陣の見つけ方は、周りの偽造の魔法陣と見比べて違うものが原点じゃ。そしたら、魔法陣を解読しさっき教えた術式を付け加え魔法陣を完成させろ。そしたら、あとは術式解除をすれば原点の魔法陣は、壊れるはずじゃ! さっき教えた術式が間違っていた場合に関してだが……」
ロゼリアは、少し俯くがすぐに顔を上げる。
「そうであったなら、わしには、どうにも出来ん」
本心としては、必ず解除できると言い切りたい。しかし、確証がないものを言い切る事は出来ない。
「間違っていたら、すまぬ」
「ロゼリア先生、間違っていても僕たちは先生を責めたりはしませんよ。我々は、やれることをやるだけです」
「……あぁ。そう、じゃな」
やれることをやるだけ。確かにその通りだ。このまま何もしないでいても待つのは死だけ。こうしている間にも時間は刻一刻と迫っている。隔離結界内で魔術を使うなら早いほうがいい。結界内にいるだけでも魔力は奪われ続ける。それに加えの術式解除を使おうというのだ。中位魔術といえどそこそこに魔力を消費する。試す前に死んだんじゃ悔みに悔やみきれない。
「先に、言っておくがこの結界にいるのも制限時間がある」
『何時だ? それは』
「ざっと、一時間くらいかの……」
「一時間ですか、それは短いですね」
「それ以上はおそらくわしらの命が危なくなるだろう。じゃが、これだけの人数がいるんじゃ。出来なくては、この学園の名折れじゃ」
ロゼリアの言葉に笑みを浮かべる生徒たち。それは、目の前にいるオルガもだった。顔から伝わってくる闘志がロゼリアの火に薪をくべる。クリスタルを通して全生徒に言葉届いていることだろう。
「こんな結界わしらの誇りにかけてぶっ壊すぞ!」
ロゼリアは、杖を高く掲げる。
沸き上がる雄叫び。その雄叫びが、学園を震わせる。団結した生徒たちの目には、燃え盛る炎があった。




