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最強魔王の夢物語(ユニバース)  作者: チャミ
第一章 悪魔遊戯《デスゲーム》
19/80

第18話 理由

 教室を出たニックとリナは、シルヴァを探しに本校を歩き回っていた。現在は、四階にある職員室に来ている。


「失礼しました」


 そう言って職員室の扉をゆっくりと閉める。外には、リナが壁に寄りかかりながら待っていた。リナは、ニックが出てきたのに気がつくと少し勢いをつけて壁から離れるとゆっくりとニックに近づいてくる。


「どうだった? シルヴァいた?」

「ここにも居なかった」

「そっか~」

「先生になったんだからここにいると思ったんだけどな」


 なんとなく心当たりのある場所を見て回っていてここが最後の場所だった。


「シルヴァの部屋にグラウンド、あと実習教室。他どこかある?」


 四階の長い廊下を並んで二人は、「ん~……」と悩みながら歩いていた。放課後と言うこともあり、窓からオレンジ色の夕日が差し込んできて二人を照らす。


「あっ!」


 リナが足を止め自分の胸の前で両手を勢いよく合わせる。ニックは、その音で一瞬肩が上がる。だが、リナの反応から何か思い付いたのだと思い体ごとリナの方に向ける。


「何か思いついたの?」

「うん!」

「どこ?」

「ロゼリア先生の部屋!」


 確かに可能性はありそうだ。ドラゴンが現れた次の日にシルヴァもそこにいたからもしかしたらいるかもしれない。

 ロゼリアの部屋は、他の教師の人たちと違い魔術の実験をする為二階に造られている。


「いるか分からないけどとりあえず行ってみようか」

「だね! そうと決まればロゼリア先生の部屋へレッツゴー!」


 リナが、右手を満面の笑みで突き上げる。隣にいるニックも小さく笑う。


「なーに、バカみたいなことしとるんじゃ。お前ら」

「うわっ!!!」


 いきなりの背後からの声に二人は、声を重ね勢いよく後ろを振り返る。後ろに居たのは、あきれたような顔で二人を見上げるロゼリアだった。


「ろ、ロゼリア先生!? なんでここに……」

「さっき職員室に居たじゃろうが! で、ニックが職員室に来て出て行ったから何をしに来たのか聞きに来たんじゃよ。話は聞こえなかったからの 」

「あ、そうなんですね。全然気が付きませんでした……」


 ニックが苦笑いしながら答えるとロゼリアがジト目で不満そうな顔をする。


「それは、わしの背が低いと言っておるのか……?」

「あ、いや……そういう事じゃないんですけど……」


 ニックの反応にため息を小さくつきロゼリアは小さな腕で腕を組む。


「それで? わしに何か用があったのか? さっきわしの名が聞こえたような気がしたんじゃが」

「今回はロゼリア先生じゃなくて、シルヴァになんです」

「シルヴァ?」

「先生の所とかに来ませんでしたか?」

「わしの所には来とらんな。そもそも来ておったらこんな所にはおらんじゃろ」

「そうですよね」


 これは、まずい。完全にあてがなくなった。もう、思い付く場所がない。そもそもシルヴァがここに来てまだ四日しか経ってない。そんな短い期間で心当たりがある方がすごいと思う。


「どうする? ニック?」

「んーー……」


 リナがニックの顔を覗き込むように少しだけ腰を曲げる。


「あっ……」


 ロゼリアが何かを思い出したように声を上げる。


「そういえば、シルヴァを見かけたな」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、外で歩いとるのを見かけたぞ」

「外ですか……?」


 なんで外なんかに……。不思議に思ったがとりあえず、外に居たのなら早く外に行かないとシルヴァが移動してしまうかもしれない。


「ロゼリア先生、ありがとうございます! 行こう、リナ」

「あ、うん」


 ニックとリナは、軽くロゼリアにお辞儀をして外に出るために三階へ下りる階段のもとへ走る。だが、ロゼリアからの声に一瞬だけ足を止めて振り返った。


「これが、最善の策じゃったんじゃよ……」

「え?」

「何でもない。ほれ、はよ行けっ」

「あ、はい。ありがとうございました」


 止めていた足を二人は動かし階段へと向かう。

 ロゼリア先生、今の最善の策って言ってたけど……なんのことだろう?

 ニックは、不思議に思いながらもシルヴァが居るかもしれない外へと向かうために階段を少し早めに下りる。






 外に出たニックとリナは、手当たり次第に歩き回った。すると、黒いロングコートを来た銀髪の人がとある場所でポケットに手を突っ込みながら立っていた。


「やっと、見つけた……。おーい! シルヴァーー!」


 ニックは、シルヴァの所まで走る。その後ろからリナも走ってついてくる。

 ニックの声でシルヴァは、肩越しにゆっくり振り返った。その時に夕日で照らされたシルヴァの銀髪がまるでダイヤモンドのように白く輝く。


「なんだ、お前らか」


 シルヴァの目は、ニックとリナを交互に見た後すぐに正面を向いた。


「なんだって……探したんだから。で? 何してるのこんな所で」


 ニックは、喋りながら歩みを進めシルヴァの隣に立つ。その時、この場所がどこなのかをニックは理解した。


「ここって……」

「あぁ。俺が召喚しょうかんされた場所だ」


 その場所は、シルヴァがニックをドラゴンから助けた場所でもありシルヴァが召喚された場所でもある古い小屋があった所だった。今は、ドラゴンのせいで小屋は壊されその場所に小屋は綺麗さっぱりなくなっていた。


「あの小屋、壊されちゃったんだっけ?」


 ニックの隣に立っていたリナが、少し悲しそうな表情で小屋があった場所を見つめる。


「うん。ドラゴンが壊しちゃった。でも、ここら辺だいぶ荒れてなかった?」


 ここまでドラゴンが来て、地面はえぐれたりしていたはずなのに今は芝生が綺麗に生えて整っている。ドラゴンが来るまでの爽やかさに戻っていた。


「それは、ロゼリアが直したそうだ」

「そっか。それなら、納得だね」


 何故なぜかしばらくの間、三人はその場所を静かに見つめていた。小さく吹く風が頬をでる。その度に、芝生しばふがほんの少しだけ揺れた。


「それで、俺に何の用だ? 探してたとか言ってたが」


 シルヴァが、不意にニックの方に顔を向けて話しかけてくる。シルヴァの一言でニックも自分が何をしに来たのかを思い出した。


「そうそう、話を聞きたかったんだよ! シルヴァに! なんで──」

「なんで、教師をしてるのか……だろ?」


 言いたいことを先に言われさえぎられてしまったニックは、戸惑いながらうなずくしかなかった。


「これには、色々とあってな……」

「色々?」

「話すと長いが、いいのか?」


 シルヴァは、ニックとリナを互いに見た。二人とも小さく頷く。

 軽くため息をついたシルヴァは、正面を向いてゆっくりと口を動かす。


「まず、昨日ニックと別れた後の話から──」



************************



 城から学園に着いた後、シルヴァはニックと別れ透明化ステルスで自分の姿を隠しながら目的地へと歩いていた。廊下を堂々と歩くがたまに前から歩いてくる生徒をけながらゆっくりと歩いている。昼休みのせいなのか、やたらと生徒の数が多く避けるのがめんどくさい。転移魔術で移動しようとも思ったがあれは、魔力を一気に消耗しょうもうするためあまり使いたくは無い。だが、ドラゴンの時は、緊急事態だったので仕方がない。

 数分間、生徒を避けながら歩いていたシルヴァは目的の場所に着いた。


「ここだったよな、確か」


 茶色い扉の前でシルヴァは、立ち止まりここが目的地がどうかを確認する。

 間違えてたら、また移動すればいいか。

 シルヴァは、扉を押して中に透明化ステルスのまま入っていく。

 中は、たくさんの本が本棚ほんだなに収まっていて窓から日が明るく差し込んでくる。そして、窓寄りに置いてある机。そこで金髪のおさげの女の子が書類に何やらペンを走らせている。だが、シルヴァが扉を開けた音に反応してゆっくりとペンを置きシルヴァの方を見つめる。


「おう、よく来たの。シルヴァよ」


 正直、驚いた。人間ごときに二度もこの魔術を見破られるとは。シルヴァは、透明化ステルスを解きフードを外す。


「何をムスッとしておるのじゃ」


 知らず知らずのうちにそんな顔になっていたようだ。


「お前が二人目だぞ」

「?」

透明化この魔術を見破ったのはお前が二人目だ」

「あー、そういうことか……」


 ロゼリアは、鼻で小さく笑うと椅子に寄りかかる。そんなロゼリアの前にシルヴァは歩み寄る。


「ロゼリア……とか言ったよな? お前の名前」

「そうじゃが?」

「それで、ロゼリア。これは、どういうことだ?」


 シルヴァは、黒いローブの中からそっと手を出して机に一枚の紙を置く。その紙には、


『わしの部屋に来い。場所は覚えているじゃろ? 分からなかったら地図を書いておくゆえそれを見て来るが良い ロゼリア』


 こう書かれこの文の下に小さく地図が書いあった。

 この紙は、朝ニックに透明化ステルスでついていく前に部屋から出ようとしたら扉の下の隙間からこれが置いてあるのを見つけた。


「どういうことだ、も何もそのままの意味じゃ。わしが、お前に用があって呼び出した。それだけじゃ」

「そこじゃない。別に呼び出しがあるなら全然呼ばれても構わない」


 正直、しゃくだが倒れたニックを救われたおんがある。だから、一回限りなら別に許せた。だが……。


「お前、この紙に書いてあるこの地図はなんだ!」


 そう言って紙に書いてある地図に指をさす。

 だが、その地図はあまりにもひどく地図とは呼べないものだった。例えるなら、へび。いや、ミミズと言っても構わないだろう。

 紙には、線がひょろひょろっとまるで、子供の落書きのような絵が文の下に描かれている。


「これのどこが地図だ!」

「どう見たって地図じゃろうが! しっかりとお前の部屋からここまでの道のりを描いていて素晴らしいほどに地図じゃろうが」


 どこがだよ! ただの落書きかと思ったわ!


「でも……ほんの少し、ほんのすこーーしだけ下手かもしれんな」


 ロゼリアは、目を反らしながら「ハハハッ」と感情の無い笑いをしている。

 シルヴァは、深くため息をつくと壁に近づき腕を組んで壁に寄りかかる。


「まぁ、それは良い。で? 何の用だわざわざ俺だけを呼び出すなんて」

「シルヴァ、お前いつまでもローブや透明化ステルスでは窮屈きゅうくつではないか? いちいち、魔術を使ったりフードかぶって顔を隠したり面倒じゃろ?」

「ああ、まぁ。だが、仕方がないだろう」

「そこでじゃ! 一つ提案があるのじゃが……聞くか?」


 ロゼリアは、シルヴァに向かって人差し指を立てて片方の口角を上げる。

 明らかに、ヤバイ考えのような気もするが……。


「聞かせろ」


 シルヴァの応えにロゼリアは、嬉しそうに笑ったのを見て少しだけシルヴァは、心の準備をした。







「は? す、すまんがもう一度言ってくれ」

「じゃから、教師としてこの学園にれば良い。それなら、ニックの監視も出来るしお前が学園ここに居てもなんらおかしい事はない。お前ほどの魔術の使い手なら生徒たちの魔術の使い方も上手くなる。ほれ、素晴らしい提案じゃろ?」


 思わず頭を抱える。

 何を考えているんだこいつは。魔王だぞ。そんなやつを易々と信用してこの学園の教師にするとかアホなのか。


「お前も、この学園にれてわしらの生徒たちも魔術の腕が向上する。まさにウィンウィンの関係じゃな」

「ウィンウィンの関係じゃねーよ。お前、自分が何言ってるのか分かってんのか? 魔王の俺をお前は教師にしようとしてんだぞ?」

「確かにな。魔王のお前を教師にするなんぞアホの考えじゃ」


 全くもってその通りだ。だからこんな考え──。


「じゃが、今のお前は魔王でもあってニックの使い魔でもある。それなら、今はニックの使い魔としてここにいるべきではないのか? 使い魔の契約はあるじであるニックが契約を破棄はきしないと永続的に契約を結んだままじゃ。このまま何もしないで使い魔をやっとるより教師をしておる方がよっぽどマシじゃろ」

「……」


 使い魔としてここにいるか、教師として使い魔をするか……か。全くもってふざけた選択肢だ。魔王が使い魔ってだけでもふざけていやがるのに教師をやれだ、なんて。


「ふざけすぎだろ……」


 小さく声が漏れる。

 確かにそんじょそこらの使い魔と一緒にされるよりは確かにマシか……。

 チッ、っと舌打ちをして頭をガリガリと掻く。


「だー、分かった! 良いだろう、その教師とやらやってやるよ」

「おー! さっすがは、魔王じゃ! 話の分かる奴で良かったわい!」

「ただし! 二つ条件がある」

「ほう。それで、条件とは?」

「俺が担当する授業は、実際に魔術を使う授業のみだ」

「つまり、実習ということか……」


 シルヴァに、勉強なんて教えられるはずもない。教えられる事なんて魔術の使い方くらいだ。だから、実習以外に出来るものがない。

 ロゼリアは、手をあごに当てながら悩んだ様子だったが了承してくれた。


「よし、良いじゃろ。それで、もう一つは?」

「もう一つは、ニックのクラスの副担任にしろ」

「それは、最初からそのつもりじゃったよ。丁度、ニックのクラスの副担任は、居らんかったからの」

「そうか、それならもう良い」

「本当にそれだけで良いのか?」


 シルヴァは、静かに頷く。

 確かに、条件は少ないかもしれないが正直他に望むものがない。だから、必然的に条件が少なくなる。


「あっ、そうじゃシルヴァ」

「なんだ」

「魔術だが、無詠唱では出来るだけ魔術は使うな」

「なぜだ?」

「分かるじゃろ。ただの教師になるお前が無詠唱で上位魔術をポンポン使っていたら明らかに不自然じゃ。何故、そんな奴が学園にいるのか、教師なんかをやっているのか……。それに、その噂を聞き付けて奴等やつらが来たら……」

「奴等?」


 聞き返すとロゼリアは、動揺したようにはぐらかす。その時のロゼリアの様子は、少し異常だった。何かを恐れているような、そんな感情を少しながらシルヴァは感じ取った。

 深くは、追及しないでおくか……。


「まぁ、いい。分かった。無詠唱は出来るだけ使わないでおく」

「お、おう。そうしてくれ」


 ロゼリアが一つ小さく息を吐いたところで、シルヴァは、壁から背を離し部屋を出るために出口の扉へとゆっくり足を動かす。

 だが、その歩みをロゼリアは声をかけ止めた。


「おい、シルヴァ!」

「あ? 今度はなんだ」


 ため息をつきながら出口に向けていた足を反対にして振り返る。振り返ったシルヴァの視界は一瞬だけ暗闇くらやみに染まる。とっさに右手でそれを振り払おうとすると手のひらに柔らかな感触が伝わる。その時に、その暗闇の正体が一枚の布ような物だと理解した。手のひらに握られたそれを不思議に見つめる。


「おい、なんだこれは」

「見ての通りコートじゃよ」


 それは、黒いロングコートだった。デザインはシンプルなもので特に目立ったデザインは見当たらない。


「就任祝いじゃっ」


 ロゼリアは、にかっと口角を上げる。

 ロゼリアの方を一度見てコートの方に視線を向ける。


「とりあえず、ありがたく受け取っておく」

「おう! あっ、ちなみに教師にも制服があるから後で部屋に送っておく」

「あぁ」


 今は、ローブを着ているのでコートは着れない。だから、コートを手ににぎったまま部屋を出るために止めていた足を再度動かす。

 扉の前に来た頃に部屋を出ようとドアノブに手をかけたところでシルヴァの後ろからロゼリアの話し声が聞こえてきた。

 シルヴァは、少しだけ顔を振り返るとロゼリアが机の上に置いてあるあわい水色のクリスタルに話しかけている。


「よぉ、わしじゃ。カナ。シルヴァの件じゃが無事に了承を得たぞ」


 そして、一旦静かになる。だが、すぐにロゼリアが喋り始める。


「そうじゃの」


 どうやら誰かに連絡をしてるらしい。

 通信用の魔術器具か……。相手は、カナとか言ってたな。カナ……あー、この学園の理事長か。

 他人の会話を盗み聞きする趣味はないので静かに立ち去ろうとドアノブを回しロゼリアの部屋を出る。


「はー、別に構わんが? ……分かった。今日の夜には資料を渡しに行く」


 そんなロゼリアの声が扉が閉じるギリギリまでシルヴァの耳の中に入ってきた。







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