その7. 薫風かおる
ソッコーで続きでございますっ!
5月編です。迷子属性、絶好調ーーーっ!
怒涛の入学式が終わり、あわただしくも楽しい4月を何とか乗り切りました。
気が付けば、もう5月です。
ええ、入学してもうひと月以上たったのですよ。だと云うのに・・・。
『で、今、どこにいる?』
「そ、それがですね、多分、構内だと思うのですが・・・」
あああ、絶対に怒っている。そして、眉間の皺が深くなっているに違いない。眼鏡をいじりながら頭痛を堪えるような素振り・・・ええ、見えるようですよ。
電話口から聞こえる不機嫌極まりない声に、思わず返す声が小さくなってしまいます。
『阿呆っ!この短時間に校外に出られる程、我が校は小さくないっ!
とはいえ、先ほど別れてわずか15分で一体お前はどこにいるんだ、大貫佐保っ!!」
「わ、わかりませーーーんっ 長利さまーーっ!!」
周囲に長利さまの怒号が響き渡るが、私より他に聞くものはいない。・・・構内を安定の迷子です。
こんにちは、大貫 佐保です。絶賛迷子中です・・・もう泣きたい。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
「はい、これ 佐保のね」
「はあ」
椿寮で白河のお姉さまから渡されたのは、可愛らしいピンク色の携帯電話。
わあ、携帯って持つの初めてなんです。なんだか、小さくて可愛いですねー!
「とりあえず、短縮の1番に私、2番に緑子、3番に長利副会長を入れてあるから」
「長利さまもですか?」
白河のお姉さまや、緑子ねえさまは解ります。だって寮の事などでイロイロとやりとりもあるから、でも長利さま?
「・・・佐保、あなた、何回迷子になった」
「えっと、・・・たぶん、数え切れません」
白河のお姉さまがため息混じりに質問をなさいますが、答えられませんっていうか、解りません、迷いすぎてっ!
そのたびに、お姉さまたちと長利さまが探しに来てくれました。お説教付きで。
「長利くん、その度に構内をくまなく探し回ってくれているのよね。
おかげで最近校内で悪さをするものも減ったという二次的効用もでたけどね」
「うう、毎回、ありがとうございますぅ」
最近では、長利さまに見つけていただく率が高くなっていて、邑上さまに「長利は佐保探知機を持っているんだな!」って笑われてしまいました。
「無暗に探すよりも、多少なりとヒントがあった方が探しやすいのよ。
だからね、迷ったなー、って思ったら、素直に電話なさい。いいわね?」
「でも、あの、そんなにいつも迷うわけでは・・・」
迷ったみたいだから来てくれだなんて、流石に申し訳がないとしか言いようがありません。
きっとそのうちに慣れて構内で迷うことも少なくなると思うのですよ!
「・・・生徒会の総員20名総出で、最終下校時間まで探し回ったわよねぇ?
たしか、第二職員室へ資料を取りに行っただけの佐保を!」
「・・・はい、連絡をさせていただきますぅ」
美しくも恐ろしい笑顔で、白河のお姉さまが肩に手を置いておっしゃいます。手に力が入っていらっしゃるのは、気のせいではありませんよね?
ごめんなさーーいっ!
かくして、ワタクシは携帯を持つこととなりました。
スマホ全盛時代にそれかよ!?と言われますが、私のITリテラシーから言っても、スマホとか無理です。
押したら繋がる携帯ブラボー!ですもの。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
そんなワケで、迷子をようやく受け入れた私は、叱られるのを覚悟で(指は震えましたが)長利さまへ電話をしたのでございます。
『まあ、いい。現在地のヒント位は欲しいな。佐保、目の前には何が見える?」
「えっと、木、です」
あれ、長利さまが黙ってしまわれたわ。うーん、って言っても、本当に木が見えるのです。
『・・・周囲を見てみろ。何か見えるか?』
「えっと、木ですねぇ。木ばっかりなんです、長利さま」
今度は、ため息が聞こえました。ため息つくと幸せが逃げますよ、長利さま。
『お前に期待した俺が馬鹿だった。目の前の木は、高さがあるのか? 太さはどの位だ? 葉の形は? そして地面を観ろ。落ちている葉の形と、木の実があれば教えろ』
更に深いため息をつきながら、長利さまが次々と指示をだします。そんなので解るんですか?
「は、はいっ、えっと丈の高い周囲はそんなに大きくない表面のザラザラした木です。長細い葉っぱですね。地面は・・・あ、緑色だけど、どんぐり?があります!」
『わかった、東校舎の奥にあるクヌギ林に迷い込んだな。迎えに行くから、そこを動くなよ? 絶対に!』
「はい、わかりましたっ!」
あ、本当にわかるのですね! 凄いわ、長利さま。もう構内は全部ご存じなのかもしれない。
『どうも信用ならないが、まあいいだろう。・・・それで、俺は今回何番目だ?」
「は? 何番目、とは?」
『迷子コールをしたのは、何番目だ?』
「長利さまにしかしておりませんよ?」
自分が迷子だと認めたとたんに、助けてくれるであろう長利さまに迷うことなく電話をしました。
・・・あれ、そういえば、なんで長利さまに電話したんでしょうね、私。
『・・・いい子だ。すぐに迎えに行く。待って居ろ」
「・・・はいぃ」
笑いを含んだ長利さまの声は、とても蠱惑的で耳元でささやかれているような錯覚を起こします。
長利さまって、きっと女子の皆さまにモテモテなんでしょうねぇ。
・・・も、もしかして、私は立派なお邪魔虫でしょうか!?
とりあえず、ウチのお姉さまたちで、長利さまをお慕いしているような方はいないので、大丈夫でしょうが他校の女子の皆さまは、きっとジリジリして・・・うわあっ!ダメです、お嬢様方の恋路を邪魔してはいけませんっ!!
長利さまに頼ってばかりではいけませんっ! これからはちゃんと一人で帰れるようにならないとっ!!
ちょっとしたパニックになった私は、慌ててきた道を引き返してみました。
だって、迷い込んだのであれば、元に戻ればいいんですもの。簡単な事です。来た道を戻っていけば自然に・・・あれ、ここ、どこでしょう? ・・・私は自分の迷子属性を甘く見すぎていました。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
「・・・あの馬鹿がっ!」
東校舎奥にあるクヌギ林に行ってみたが、迷子の大貫 佐保はいなかった。
何度も迷子になったら動かないように言い聞かせているのに、本当に進歩のない奴だ。見つけたらみっちりと叱ってやらないとな。
少し移動をするだけで、とんでもない所へ迷い込み、戻れもしないし行くこともできないという恐ろしい迷子属性持ちの佐保は、このひと月半の間に、ありとあらゆるところへ迷い込んだ。
職員室へ行こうとして、食堂の調理室裏にたどり着くとか、ありえないだろう・・・。
クラブ棟へ行こうとして、なぜか北校舎の屋上にいたこともあった。
そのたびに、構内を駆け回って長利が見つけてやるのだ。
半泣き状態で、おろおろする子ウサギの救出は、長利の毎日の仕事のようになっている。
邑上は、毎日が宝探しみたいだな、と笑う。
「さて、いたずら兎はどこへいったのかな」
どうせ自分で何とかしようとして、ドツボにはまっているに違いない。これ以上変な事にならない内に探してやらないと。
東校舎に向かって歩きながら周囲を見渡す。クヌギ林を抜けた後、中央の英国庭園へのアーチが見える。
迷路のように入り組んだ英国風庭園は、全景を知らない者にはまさしく迷路だ。
「長利先輩、どうされたんですか? こんなところで・・・」
「ん? ああ、九条院か」
そういえば、東校舎は、中等部の特進組が使っていたな、と思い出す。
九条院は、中等部の中でもトップクラスの成績で生徒会にもちょくちょく顔を出している後輩だった。佐保にとっては、出来の良すぎる後輩であり、自分より頭二つ位でかい後輩になんとか近づこうと、一生懸命につま先立ちして話しかける姿に笑ったことがある。
「大貫 佐保が、迷子だ。ちょっと手伝ってくれ」
「・・・はい、そうでしょうねぇ」
それ以外で、長利先輩が東校舎の奥までくる理由が見つかりませんから、とため息混じりに呟く。
「子ウサギが迷いこんでいるからな、両方から追い込むしかないだろう」
「・・・佐保先輩が泣きますよ?」
長利は人の悪い笑みを浮かべて兎狩りかな?と笑って見せる。九条院は、そういいながら長利が佐保を大切にしていることを知っている。
本当に、この人は素直じゃない。
「さて、行くか」
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「な、なんで、また同じところに出てしまうんですかぁー!?」
さっきから、一生懸命に進んでいるのに、いつも同じ場所にでてしまうのだ。この緑の迷路をどうやったら抜けられるのだろうか。
「やっぱり、長利さまを待ちした方が・・・」
思わず、いつも見つけてくれる長利を頼ろうとしてしまったが、それではいけないと頭を振ってその考えを振り払う。いつもいつも頼ってばかりではいけないのだ、と。
何度も、何度も試してみるが、まるで出られる気配がない。
とうとう座り込んでしまう。意地になって電源を切った携帯を恨めしく見る。
「お、ねえ、さまあ、どうしたらいいか、わかりませ・・・」
半泣きになって携帯を握りしめる。
夕暮れ間近の庭園にガサガサと大きな音が近づいてくるが、その音の不気味さに怖くなった佐保は、小さく縮こまって、植え込みに身を隠す。
「やだ、こわ・・い、お・・・」
「佐保先輩?」
名前を呼ばれて、見上げれば高い位置にあるのは、見慣れた後輩の顔だった。
「・・・九条院くん?」
「はあ・・・探しましたよ。本当にかくれんぼ体質ですねぇ。長利先輩の言う通りだ」
見つけられた安堵のため息をつきながら、九条院が佐保の手をとり立たせてくれた。どうして、後輩くんがここにいるのか解らないが、探してくれていたらしい。
「けがはありませんか? 何か不都合は? 」
「あ、はい、平気です。大丈夫です、ありがとうございます」
にっこりと微笑んで丁寧に確認をとる後輩くんは、佐保の数段落ち着いている。うう、先輩とか言われるのが烏滸がましいくらいですぅ。
「さて、では、ちょっと失礼しますね。・・・よっと!」
九条院は軽く佐保の前に跪いたかと思うと、次の瞬間、佐保を肩に座らせ担ぎ上げたのだった。
急に視線が上がって、佐保は恐慌状態になったが暴れることもできず、固まっていた。
「はい、そのままで居てくださいね。長利せんぱーーーい、見つけましたよー!ご所望のウサギ姫です!」
「はい?・・・おさりさま?」
庭園に九条院の声が響き渡ると同時に、枝を折るすさまじい音がこちらに向かって近づいてくる。
ひぇぇ・・・あれは、もしやっ!
「よくやった、九条院。佐保、この馬鹿娘が! 迷ったら動くなと何度言ったら・・・!」
「・・・長利さまぁー」
いつもは綺麗に整えてある髪が枝葉によってかき乱され、制服もほこりまみれになっている。その姿をみた途端に涙が出そうになった。長利は何があっても、佐保を見つけてくれるのだ。
「どうした、心細くなったのか? 待っていれば俺が迎えに行くといっただろう」
泣きそうになっている佐保を九条院から受け取り、子供抱っことはいえ抱きしめてくれる。
「長利さまにばっかり迷惑をかけて、少しくらいは自分で、なんとか、しよおって・・・」
「あほう、無駄な努力をするな! 第一、探すのに余計時間がかかったではないか!!」
佐保の見当違いの努力は、長利にバッサリと却下された。九条院はその姿をみて、頭痛を感じたが、まあ、これもありかと思いなおす。
長利の抱きしめる春の姫を、少し羨ましく思ったが命が惜しいので、その場で言うような愚はおかさない九条院であった。
あああ、お話的に、ごはんネタが入らなかったんですーーっ!
なんで、次回こそはみんなでごはんですよぅーーっ! さて、他の攻略対象さんも出てもらわないとね。
波風は立てるためにあるんですよ、ねえ、姫様~!(悪魔か、お前)