番外: 万魔節と、万聖節の間で
まだ、二話しか書いていないのに、番外って、お前さん・・・。
ハロウィンが書きたかったんです。それだけなんですっ!
ちなみに、コスプレは殆どありません。悪しからず~。
「ハッピー ハロウィーン!」
…おかしい、ハロウィンって喜ぶべき事柄だっけ?
せっせとかぼちゃを裏ごしして、かぼちゃのパウンドケーキと、パンプキンプリンの準備をする。
なんせ、20人以上の高校生のお腹を満たすには、せっせと作り続けなければ間に合わない。
今日は、椿館の応接間で、生徒会や、他の役員たちを集めてハロウィンパーティだそうです。
…ええ、主さまがお決めになりました。それも、昨日、急に。
今、オーブンでは、アップルパイが、焼きあがるところ。
これは、煮たリンゴではなく、生のリンゴをパイ皮の中で蒸し焼きにするカントリー風のアップルパイ。生リンゴを調理するので、焼き時間が恐ろしくかかるひと品だが、味は保証付き!
甘酸っぱい香りが、キッチンに広がります。うーん、美味しそうな香りっ!
隣では、さよちゃんが、ジンジャークッキーを作成中。
あの茶色でスパイスの効いたジンジャーボーイではなく、児童文学にも出てくるすりおろし生姜を練りこんだ英国風クッキーの方なのね。
「やっぱり、王道はハート形だと思うのよ!」
表面に軽くグラニュー糖をまぶした黄金色のハートクッキーは、私も欲しいカモ。
はっ、いけないわ、どんどん作らないと、すぐに時間になっちゃう!
「さよー、さほちゃーん、次にオーブン使うよー!パイ焼くのー!」
きよちゃんが、パイ型を4つも持って待機中。
「わぁ、きよちゃん、何のパイ?」
「んーと、リンゴのサワークリームのパイでしょうー、チョコレートパイに、
メレンゲ載せのレモンパイと、チェリーパイ!」
「…お客様に出さないで、あたし達で食べようよ〜、もったいない!」
きよちゃんのパイが大好物のさよちゃんは、全部食べたいらしい。でも、食べすぎだよ、それは!
サンドイッチもたくさん作って、色とりどりのケーキにピカピカの照りを放つパイ。まだ湯気が上がっているプティングに、クラフティ! クッキーにチョコレートなどなど。
応接間の大きなテーブルにセットしたら、まるで映画のワンシーンのようだ。
なんだろう、見ているだけで幸せ〜!
「「「トリック オア トリート!」」」
「はいはい、たっくさん用意しましたからね、たっぷり食べていってください、狼男さん、悪魔さん、フランケンさん」
悪戯かごちそうかって言われたら、ごちそうしちゃいますよ! みんなで頑張りましたからね!
「なんか、こう、もうちょっと反応が欲しかったよ、佐保ちゃん」
「難しいのは、わかっていたけど、ここまでとは…」
「情緒がないなぁー。女子高校生のリアクションじゃないじゃん」
皆様、言いたい放題ですね。
ていうか、この状況でコレ以上何を言えというのでしょうか。仮装を褒めるべきだったのかしら?
「えーと、素敵な毛なみですね、狼男さん。今日もいい顔色ですね、悪魔さん。縫い目がリアルですね、フランケンさん?」
「・・・一応、褒め言葉、なんだよね?」
「もちろんですとも!」
ハロウィンパーティを所望した我が主さまは、ケーキやパイを片っ端から食べていた。
無理はしないでくださいね、食べすぎでお腹を壊しても知りませんよ?
「んもー、佐保も、希世も。小夜も凄すぎる! めちゃめちゃ美味しー!! 満足ー!」
「こんなに沢山、大変だったろう。みんな、ありがとうね、ご苦労さま」
紅香姫様は、上機嫌でケーキを平らげ、姫様の弟君、碧さまがみんなに労いの言葉をかけられ優しく微笑まれる。
ああ、幸せだなって思う。
前世でも、お城で宴会があると、みんなで忙しく立ち働いた。
規模ももっと大きくて、招待客もいっぱいいた。準備で朝から晩まで走り回り、ごはんを食べる暇もなかったけれど、宴会が始まって裏方がある程度落ち着いた頃に、紅香姫さまや碧様がひょっこり来られて声を掛けてくださった。
「忙しくて大変だったでしょう、お疲れ様。おかげで助かったわ!」
「ご苦労さま、みんな交代でごはん食べてね、休憩もとってね」
あの時も、こんな風に声を掛けてくださったんだな。そして・・・
「あの煩い親父どもが帰ったら、みんなでコッソリ美味しいモノ食べようね!」
おどける様に言って、私たちより何倍も大変な近隣の領主や、面倒な武将たちの相手の接待に戻って行かれた。
そうやって、主さまは、私たちを精一杯守っていてくれていた。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「ハッピーハロウィーン!」
深夜の応接間に、お気に入りのマグカップにたっぷりのミルク入り紅茶。
ちょっとしたフィンガーフードに、特製クッキーに、主さまが今嵌っているパイヤールのチョコレート。身内だけのお疲れ様会だ。
「なぜに、”ハッピー ハロウィン”なの? もう零時を超えたわよ。」
「いいのよ、気分、気分。 大体が、ケルトの祭りと、キリストの祭事を一緒にしようと言うのが矛盾なんだし!」
冷静な白河の姉さまのツッコミを、緑子姉さまが軽く躱す。
曰く、今流行りのハロウィーンは、ケルトの収穫アンド大晦日だそうで、それに、後付けのキリスト教の「諸聖人の日」をくっつけて、「諸聖人の日の前夜」としたそうです。
なので、10月31日を「万魔節」11月1日を「万聖節」とし、31日に暴れまわった魔も、諸聖人の日には、聖人を恐れて魔界へ帰ってしまうのだ、と定義しているそうです。
無理がある・・・うん、知っています。何か作為を感じますが、まあ、いいでしょう!
「日本流のハロウィンでいいのよ。寒くなる前にみんなで普段はしないコスプレして、ちょっとしたお菓子を交換。都会の秋祭りなんだから!」
なるほど、納得です。都会の秋祭りと思えば、違和感ないですもんね!
「そういえば、佐保は、コスプレしなかったの?」
「はあ、まあ、お菓子作っていてそんな暇はなかったので、でも、灰かぶり(シンデレラ)ならぬ、
粉かぶり、ってことで、どうでしょう?」
ちょっと苦しいかなー。まあ、いいっか!
「・・・佐保、そのネタ、来年、好きな誰かさんに使ってご覧」
ニヤニヤしながら、主さまが囁く。
はて、意味が解らない、と見つめると・・・。
「ハロウィンのパーティで、相手の仮装を正しく言えないと、”お菓子”をくれなかったのと、
同じ状態とみなして、”いたずら”しちゃっていいんだよーん」
「なっ・・・」
え、悪戯するって、誰に何を!? 自分が真っ赤になっていくが解る。
「で、佐保は、今誰を思い浮かべたの?」
更に、主さまは追求をしてくる。 困っているの解って言っているでしょうっ!
真っ赤になって、唸っている私をふわりとした笑顔で見下ろして主さまは、言った。
「ふぅん、これは来年が楽しみだわー」
明日の諸聖人の日の感謝には、絶対に主様を「聖人」に含めないっ!と心に決めたのでした。
来年の今頃も、この心地いい場所に居られるように、そんな事を小さく祈った。
相手のコスプレが解らないと、キスされちゃうって言うのは昔のアメリカのハロウィンパーティのお約束だったらしい。
今やったら、確実にセクハラ扱いですねぇ(笑