1.エピローグというには余りにも・・・
毎回のように、見切り発車ですー。
できれば、今日中に第二話が出せればいいなぁ、と思っています。
このポンコツな学院生活に、お付き合いいただけると嬉しいです!
暗くて、何も見えない・・・
遠くで、声が聞こえる、私の手を握って、一生懸命に声をかけてくれているんだ。
うん、聞こえているよって、答えたいけど、・・・声が出ないのよ。
喉のあたりが、焼けるように熱くって・・・ああ、多分ここを切られたんだ。
血がどんどん流れ出しているのが解る。それに比例して、目の前の闇が濃くなり、体温は奪われ体が冷えていく感じがする。
パタパタと頬に、手に、暖かいものが降ってくる。これは、涙?
ああ、私は、あの方をこんなにも泣かせている。
最後になるかも知れないから、これだけは伝えたいの・・・
”何があっても、・・・必ず、またお側に参ります、きっと・・・”
だから、泣かないで、大切な、大好きな私の主様。
紅葉の中庭を額縁のように切り取る大きな窓。その窓から差し込む柔らかな日差し。
おそらく英国風に整えられた重厚感あふれる応接室は、外の寒さが嘘のように暖い。
座り心地のいいふかふかのソファは、何の罠だろう。
(動きたくない、このまま寝てしまいたい誘惑がすごいよ、このソファ)
推薦入学が決まった学校から事前面談と呼び出されて通されたのがこの応接室。
こんな豪華な応接室に入るには、場違いな私。
中学の制服が、頼りなく感じるわー。
目の前の飴色に艶めくテーブルには、三段重ねのアフタヌーン・ティー スタンドが置かれ、見るからに高そうな茶器と共に美しく供されている。
そして、目の前には、美少女が二人。目の潰れそうな麗しい笑顔で、座っている。
なぜだ・・・私、大貫 佐保は、絶賛混乱中ですっ!
「遠慮なさらないで、スコーンは如何かしら?」
この場で固まっている私に、ストレートの黒髪美少女が微笑む。
前髪を軽く横に流して飾りピンで留めているから、きれいな額が見える。
そうなのよねー、前髪厚くすると、子供っぽく見えちゃうのよ。
ああ、本当に「綺麗なお姉さん」って感じがする。素敵だなぁ。
・・・じゃなくてっ!
「お茶は、勝手に選ばせていただいたわ。セイロン・ウバなの。ミルクはお好みでね」
穏やかな笑顔で、ポットを手に流れるような所作でお茶を淹れてくれているは、栗色の髪を背中へ緩やかに波うたせている、眼鏡の美少女。
細い眼鏡フレームと長いまつ毛が、ミルク色の肌に薄く影をつける。
・・・夢のような空間です!
お二人とも優しくて、とても気をつかってくれているのに、私はもうガチガチで声を発することもできません。
せっかく淹れてもらったお茶を飲まないのも失礼かも と、手を伸ばしても茶器に触れる手が震えて、もう紅茶が波打っています。
だ、ダメだわ、このままじゃ高級茶器を破損してしまうっ!!
怖さのあまり、思わず手を引っ込め、俯いてしまった。
こうなると、もう身動きがとれません。何をしても失敗しそうで、たぶん今の私は顔面蒼白…。
膝の上で固く握りしめた手を、白い柔らかな手がそっと包んでくれた。
「どうぞ、そんなに緊張しないで。 私たちとお茶を楽しんでくださればいいのよ?」
黒髪の美少女が、泣きそうな私を覗き込んでにっこりと微笑む。
「あ、ありがとうございますっ!」
慌ててティーカップ持ち上げようとしたら、華奢な持ち手に、指がすべる。
見事にカップは傾いて、せっかくの紅茶をぶちまけてしまった。
「ああっ!?」
や、やっちゃった!高そうなソファに紅茶がかかったかもっ!?と焦る私をよそに
「まあっ、貴方にお茶がかからなかった? 熱くない?」
と、黒髪の美少女が私のスカートを綺麗は白いハンカチで拭いてくれようとする。
い、いや、そんな、綺麗なハンカチを使っていただくなんてっ!
とパニックを起こす私は思わず
「し、白河のお姉さまっ! かえってお姉さまのハンカチが汚れてしまいますっ!!」
と叫んでいた。
その言葉を聴いて、黒髪美少女が、真顔になって私を見つめていた。
私も自分の言った言葉が、わからない。
白河のお姉さまって、誰?
「ああ、そのままでいるわけにいかないだろう、まずは拭きなさい。」
面白いものを見つけたように笑顔で、タオルを渡してくる茶髪の美少女。
「あ、はい、緑子お姉さま・・・」
・・・って、誰?
私は、いったい何を言った??
「「あたり、だわね!」」
二人の美少女が口の端を上げてニヤリを笑う。
その笑顔には、どこかで見覚えがあります。いつだか思い出せないけれど。
でも、これだけは解ります。
お姉さま方、それは悪役の笑い方です~
前世をほとんど覚えていなかった迷子の私をお姉さま方が見つけ出したのは、随分前なのだと後から知らされました。
「いつ自分で思い出すか、皆で賭けていたのだが、さすがは佐保だ。全員の予想を裏切ったよ」
賭けの有無については、今更なので、何も申しませんが。
それって全然、褒めていませんねっ!
☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…
白銀学院 女子寮の椿館。
元は華族の邸宅だったという洋館を学院内に移築し、改装して女子寮としたのだそうです。
真っ白なデコレーションケーキのような洋館。それが、外から見た時の第一印象でした。
こんなステキな洋館にお部屋をいただいて、親戚の家で肩身が狭い思いをしていた時からは雲泥の差。
なのですが…
いろいろと発覚したこともありまして…
私は、怒っているんでございますよっ!
「さほ」
「さーほちゃん」
「さぁーちゃーん♪」
知りませんっ! もお、皆様、ひどいですわっ!!
本当に、ほんとーに、怒っているんですからねっ!!
前世の私は、姫様にお仕えする侍女でした。
それは、とても幸せな記憶です。
大好きな主さまにお仕えし、仲のいい侍女仲間に囲まれる日々。
みんな、大好きでとっても大切だったものです。
でも、これは私の願望が作り出した夢のようなものだと思っていました。
「こんな風になったら、どんなに幸せだろう」
時折思い出す、前世の記憶が夢だと思うと、涙が止まりませんでした。
なのにっ! 皆様、私のことを知っていながら、声も掛けてくださらなかったなんて!
本当に酷すぎますっ!!!
「ですからっ、私は怒っているんですからねっ!もう、みなさま…ふぇっく…」
「さほ…」
泣くつもりは無かったのですが、一度溢れ出した涙は後から後から止まる気配がありません。
これは、嬉し涙なのかも、です。
皆様には、言いませんがっ! ええ、この辺は意地というものですっ!!
白河のお姉さまと、緑子姉さまが優しく背中を撫でてくれました。
「大丈夫、大丈夫よ、佐保。 私たちは夢なんかじゃないわ。ちゃんとここに居るでしょう?」
「・・・っ、はい」
「前世に引きずられるばかりが、いいことじゃないからね。私たちも、言うべきか、どうかを、それなりに悩んだのよ」
緑子姉さま、「それなり」が余計な気がいたしますわ。
面談の日は釈然としないまま、お茶菓子を持たされ、そのまま帰宅。
その後、恐るべきスピードで、「転校」、「引っ越し」、「入寮」の手続きが取られていました。
中学三年のこの時期に、転校って。ありなのかしら…。
茫然としている間に、すべてが片付いていました。ええ、私は何もしておりません。
わずか、1週間後に、私は学院の椿寮で、皆様に泣きながら文句を言っている次第でございます。仕事が早いというべきか、いつから画策していたのか問い詰めるべきか、悩むところですが。
前世で侍女をしていた時の記憶が戻ってきたせいか、口調も少し変わってしまいました。
なんとなくですが、女子中学生にあるまじき、侍女口調。…学校では気をつけなくては!…じゃなくて、気をつけなくっちゃ!
「佐保、佐保を一番お待ちかねだった方だよ」
緑子姉さまが、笑顔で応接間の入り口を指している。
そう、そこには、私の前世の主さまがいたのだった。
次回、主さま、登場。
だから、どうして、そうなったのよ、主さま・・・。え、趣味?
それじゃ、しょうがないよねー。(おい