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第96回 戦争

 現在、早朝のグラスター王国都市レイストビル。

 中央に聳えるグラスター城では、兵士達が戦闘の準備をしていた。戦争にでも行くかの様な武装と兵士の数。それらの兵に指示を飛ばす一人の青年。淡い赤髪を揺らす青年は、ハキハキとした口調で更に言葉を上げる。


「バカヤロー! もっとテキパキ動け! もう敵は目の前まで来てるんだ! 我々は知っているはずだ! 先の大戦で多くの兵が命を落とした事を。我等は魔獣の討伐で城を離れていたが、運が良かったなどと思うな! その代償として多くの兵の命と偉大な国王の命が奪われた! 我々は雪辱を果たさねばならない! 多くの民の為に――。そして、フレイスト様の為にもだ!」


 青年の声に兵士達の声が湧き上がり、周囲の雰囲気が一瞬にして変わる。

 兵士達の顔色を窺う中年の男。無精ひげの顎を左手で摩り、感服するかの様に大きな笑い声を上げた。


「カハハハハッ。いやいや。御見それ行ったぞ。レヴィ」


 レヴィと呼んだ青年の背中を二度叩き、隣りに並んで立つ。彼はこう見えてもレヴィの上官で、グラスター王国が誇る四大守備兵団の第二部隊を率いている。

 そんな彼の顔を横目で睨むレヴィは、小さく息を吐き口を開いた。


「アルドフ様。お言葉ですが、本来兵の士気を高めるのは、隊長である貴方の仕事です。何故、副官である私が――」

「まぁ、いいじゃねぇか。俺よりもお前が言った方が、部下たちも喜ぶ」

「それは、どう言う意味しょうか? 返答次第では許しませんよ」


 鋭い眼差しを向けるが、アルドフは寛大に笑い全くそれに気づいていなかった。諦めた様に目付きを緩めたレヴィは、一瞬気の抜けた表情を見せた。それを、アルドフは見逃さなかった。


「おい。気をつけろ。副官のお前が兵士達の前で、そんな疲れ切った表情を見せるな。それだけで、兵士達が不安になる」

「分かっています。大体、そうさせているのは誰ですか……」

「何か言ったか?」

「いえ。何でもありません」


 膨れっ面でそう返答し、深々とため息を漏らした。

 アルドフはレヴィにとって苦手な人物だ。何故、自分がこの第二部隊の副官なのか疑問を抱いていた。この大戦が終わったら、国王直々に部隊編成を見直して貰う直訴するつもりだ。

 眉間にシワを寄せ、不服そうな表情のレヴィの目の前で、一人の兵士が武器を落とす。その瞬間、不満をぶつけるかの様に、レヴィが声を上げる。


「バカモノ! 武器は己の命を守ってくれる大切なモノなのだぞ! そんな風に扱うな!」

「は、はい。す、すいません!」


 武器を素早く拾った兵士は、慌ててその場を去っていく。その後ろ姿を見据えるレヴィは鼻息を荒げる。


「そんなに兵士を虐めるな。可哀想だろ?」

「先程のは私が昔所属していた第一部隊での教えですが、何か?」


 その言葉に表情をしかめるアルドフは、難しい表情を見せ大きく息を吐く。


「そうか……。お前、元々あいつの部隊だったな。あの野郎、んな事教えているのか?」

「メービル様の教えはとても為になるモノばかりでした」

「お前、それじゃあ、俺が何も教えていないみたいな口振りじゃないか。んん」


 いつに無く引き攣った笑みを向けるアルドフに、目を向ける事無くレヴィが答えた。


「だから、第一部隊だった私がこの部隊の副官に指名されたのだと、私は自負していますが?」

「ほほーっ。それじゃあ、この第二部隊は第一部隊に劣ると、言いたいわけか?」


 平然を装うとするアルドフだが、明らかに表情が引き攣っている。その表情に次々と兵士達の足が止まり、ヒソヒソと話し声が聞こえてきた。兵士達は隊長であるアルドフのあの様な表情をあまり目にした事が無く、不思議そうな表情をしている者が多かった。動揺している者もおり、周囲がザワメク。

 アドルフはその事に気付いていないのか、何も言おうとしない。一方のレヴィも周囲の事を気にせず落ち着いた口調で返答する。


「えぇ。私は第二部隊は確実に第一部隊に劣っていると実感しています」

「そうかそうか。そんなに言うなら、見せてやろうじゃないか。お前達! 聞こえていたな! ウチの副官は、この部隊が第一部隊より劣ると言っている! 俺達の底力をこの小娘に見せ付けてやれ! 行くぞ!」


 アドルフの腹に響く様な勇ましい声が、周囲に集まっていた兵士達のザワメキを払い、息のあった力強い声が大気を振るわせた。

 最大限まで引き上げた士気をそのままに、アドルフ率いる第二部隊はワープ装置にてレイストビル北口へと移動を開始した。



 レイストビルを囲む様に陣を組む魔獣の軍勢。

 それを率いるのは魔獣人リオルド。切れ長の鋭い目が城壁を見据え、刺々しい蒼い髪が風に揺らぐ。

 土煙が舞い、周囲は静寂に包まれていた。これから起きるであろう大きな戦いの前の一時的な静けさなのかも知れない。

 鍔の無い大剣を地面に突き刺し、時を待つリオルドは、不適な笑みを浮かべると舌なめずりをして、静かに柄に手をかけた。その鋭い視線が静かに門の方へと向けられ、全ての魔獣達を鼓舞する様に怒声を轟かす。


「狩りの時間だ! 血を欲せ! 肉を欲せ! 殺戮さつりくこそ飢えを満たす唯一の方法だ! 八つ裂きにして肉を喰らい! 血を啜れ!」


 リオルドの声に魔獣達が次々に咆哮を轟かせ、一斉に城壁に向って駆け出す。大地が揺れ土煙が舞い上がる。重々しい軍勢の足音が周囲を呑み込み、静寂は切って破られた。

 魔獣達が地を駆けた頃、城門が重々しい音を響かせ静かに開く。それが、合図だったのか、突如空を裂く雷鳴が轟き、地を駆ける魔獣達の方角で激しい爆音が轟く。

 突風が土煙を吹き飛ばし、地面が円形に窪んでいた。その場に居た魔獣の姿は消え去り、黒こげた肉片だけが転がっていた。次々と雷鳴は轟き、爆音が魔獣達の咆哮を消し去っていく。

 爆風の中で仁王立ちするリオルドは、不適な笑みを浮かべその状況を見据えていた。そして、地面に刺さった大剣を右手で抜くと、それを空高く翳し大声を上げる。


「臆すな! 逃げた奴は――」


 今まさに逃げ出してきた魔獣に向って、リオルドは大剣を振り抜く。体が二つに裂け、血飛沫が飛ぶ。静かに笑うリオルドは顔を上げると、更に声を張り上げ、


「俺の手によって処刑する! 生き残りたきゃ殺せ! 奴等を切り刻め!」


 声を上げ、リオルドが地を駆ける。向って来るモノを大剣で切り裂き、次々と血飛沫を巻き上げていく。敵味方関係なく切り裂いていくリオルドは、城門へと一直線に突き進む。

 刹那、雷鳴が大気を裂き、雷撃がリオルドへと飛ぶ。僅かな波動を感じ取ったリオルドが顔を上げたその瞬間、爆音が周囲に響き、衝撃が広がった。爆風で巻き上がる土煙がリオルドの姿を隠し、亀裂の入った地面だけが僅かに見え隠れする。

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