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第92回 不穏な気配

 向い合う二人。

 右手の朱色の刃が空気を揺らめかす。高温の熱が更に温度を上げ様と不気味な音を吹かせる。

 周囲に集まった魔獣達は次々と去り行く。自分と相手の力量の差を感じ取ったのだろう。だが、去らぬ者も半数居た。

 自らの力を過信する者。

 力量の差を感じ取れない者。

 そして、強者。

 圧倒的な力の差を見せても尚、顔色一つ変えない魔獣が、カインと対峙する。間違いなく集まった魔獣の中では最も力を秘めた魔獣だろう。

 闇の中でも目立つ程の黄色の瞳。それを見据えるカインに異変が起きる。大地が揺れ、視野が歪む。激しい動悸と吐き気。体内を流れる血がザワメキ、体が熱い。


(クッ……こんな時に……)


 左手で胸を押さえながらも、視線と表情は変えない。これが、代償だった。体の自由が利かず、節々が軋む。血が煮えたぎり今にも噴出しそうだ。紅蓮の髪、朱色の刃、二つが元の色へと戻る。

 体が限界だったのだ。膝から崩れ落ち、力なく地面に横たわる。


(ダメだ……。もう力が……)


 うつ伏せに倒れるカインは、体を起そうとする。だが、指一本動かない。

 倒れて動かなくなったカインに、魔獣達が目の色を変える。


「グヘヘヘヘッ。何だ何だ?」

「急に倒れたな」

「今なら殺せるぜ」

「だな。やれ」


 一体の魔獣の指示で、その場に居た魔獣が一斉にカインに襲い掛かる。肉の裂かれる音が森の中に響き、血飛沫が夜空を鮮やかに舞った。



 時を同じくして――。

 茂みに身を隠すティル達三人。言葉を発する事の無い三人は、各々作業を進める。

 ティルは数分前から天翔姫の手入れをしていた。こうして触ってみると、天翔姫の機能と言うのは便利なものだ。前回のは使えない機能もあったが、今回の改良版は使えない機能が無い。剣も刀身の細いのと太いの二つだけで、銃も一丁。その他にも機能があるが、ティルが使うのは殆どこの三つくらいだ。それでも、いずれ使う事になりそうな機能ばかりだった。

 機能を一つ一つ確かめるティルに対し、のんびりと空を見上げるノーリンは、小さなナイフを使い木彫りの人形を作っていた。巨体の割に器用に木を彫り上げ、ふと指を止め空を見上げる。

 バルドは相変わらず双牙の手入れを続けており、時折不適に笑う。とても不気味だ。

 異様な空気の中、ティルが手を止める。冷たい風が吹き、三人の間を流れた。髪が揺れ、衣服が揺れる。木の葉が舞い上がり、木々がザワメク。


「何か聞こえる」

「確かに、何か聞こえるのぅ」

「雑音か?」


 バルドが尋ねると、ノーリンが渋い表情で答える。


「いや……。僅かだが、悲鳴の様な声が聞こえる」

「悲鳴? そんなの聞こえんが……」

「……」


 不思議そうな表情のティルとバルドに対し、ノーリンが更に耳を澄ます。風の音に混じり、はっきりと声が聞こえる。何かの悲鳴だ。そして、刃がぶつかり合う音も時折聞こえた。誰かが戦っている。


「詳しくは分からんが、誰かが戦っておる」

「フォンとカインか?」

「分からぬ。しかし、何やら不穏な力を感じる」

「不穏な力? どう言う事だ?」

「だから、分からぬと言っておるじゃろ」


 ティルの言葉にノーリンが少々乱暴な口調になる。感じた事の無い恐怖がノーリンの耳に届いていた。

 その時、雑音と言うに等しい叫び声が轟く。


「グゲゲゲゲェェェェッ!」


 背筋が凍り付くほどの不気味な声は、ティルとバルドにも聞こえた。大気が震え、突風が吹きぬける。


「な、何だ……」

「分からぬ。だが、危険な感じがするのぅ」

「行くのか?」

「行くしかないだろ」


 ティルが即答すると、バルドが嫌そうな顔をした。それもそのはずだ。今回は偵察だけで、面倒な事は起こらない。そう聞かされていた。しかし、実際はどうだ。偵察に来たら、見張りが多くて近づけない。挙句、フォンとカインは枯れ枝を取ってくると言って戻ってこない。トドメがこれだ。とことん変な事に巻き込まれて行く。

 深々とため息を漏らしたバルドは、ティルとノーリンの二人を見据えて首を左右に振る。


「ハァ……仕方ない」

「さて、バルドの了承も得たし、行くか」

「そうじゃな。フォンとカインの事も気がかりじゃしのぅ」


 軽く足を屈伸するティルは、天翔姫を刀身の細い剣へと変え、右手に握る。バルドは空穂を背負い、左手に弓を持つ。指の骨を鳴らすノーリン。


「先頭はワシがいいじゃろ」

「いや。バルドに頼む」

「何で俺が?」

「この中で一番視野が広いし、視力がいいからな」

「……それだけで、俺が先頭なのか?」


 不満そうなバルドに対し、ティルが真剣な眼差しを向ける。一方で、ノーリンも暫し不服そうな表情をしていた。二人の眼差しを受け、ティルは眉間にシワを寄せる。


「じゃあ、どうしろって言うんだ?」

「とりあえず、先頭はワシじゃ」

「俺は最後尾を行く」

「じゃあ、俺は?」

「間じゃろ?」

「ハァ……。まぁ、仕方ない。とっとと行くぞ」


 ティルはそう言い、ノーリンを先頭に走り出した。最後尾から周囲を警戒するバルド。先頭ではノーリンが耳を澄まし辺りの情報を得る。そんな二人の間に挟まれ、ティルは小さくため息を零す。


「ティル。静かにしとれ。音が聞こえぬ」

「悪い……」


 小声で謝り、ティルは周囲を見回す。木と闇だけが見える。この光景もバルドの目には違って見えているのだろう。

 闇の中で響く三人の足音。それに混ざり、不気味な声がこだまする。その声に徐々に近付いているのが分かる。吹き抜ける風から伝わる殺気。体に感じる重圧が、三人を押し潰しそうだった。


「そろそろじゃのぅ」

「何か来るぞ!」


 バルドが叫ぶと同時に矢を連射する。ノーリンが足を止め、ティルも足を止める。バルドは更に矢を射ると、足を止めた。鈍い音が聞こえ、闇の中で何かが倒れる音がする。目を凝らすティルとノーリンに対し、バルドが静かに足を進める。

 闇の中に転がる塊。それが何かを考えるより先に、異様な臭いが漂う。恐る恐る歩み寄る三人はその塊を見下ろす。矢の刺さった肉片。血がドロドロと溢れている。目を細めるティルは、静かにその肉片に触れる。まだ暖かい。しかも、骨ごと綺麗に切り裂かれている。一体、どうやったらこんなに綺麗な切り口になるんだ。

 三人の視線が肉片を見つめ、沈黙する。静まり返る三人の間に、風が吹きぬけ、咆哮が轟いた。

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