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第86回 偵察班

 飛行艇墜落から数日が過ぎた。

 話し合いの結果、徒歩でディバスターを目指す班と、飛行艇に残る班の二手に分かれる事となった。飛行艇に残るのはミーファ・ルナ・ウール・セフィーの女性四人、ブラスト・ワノール・ウィンス・カシオ・フレイストの男性五人、計九人が残った。

 そして、フォン・ティル・カイン・ノーリン・バルドの五人が、徒歩でディバスターを目指す事となった。


「ふぁ〜っ……。なぁ、ディバスターまであとどれ位なんだ?」

「う〜ん。オオヨソ、五、六キロって所かな?」

「そっか……」

「久し振りだな〜。ディバスター」


 のん気なカインに対し、ティルが厳しい視線を向ける。きっとディバスターに着けば、戦いになるだろう。今ここに居るメンバーで大丈夫だろうかと、不安が脳裏を過る。


「バルド、見えるか?」

「何がだ?」

「お前の目なら見えるだろ? ディバスター付近の様子を」

「お前は馬鹿か。あんな遠くまで見えるわけないだろ。俺はあくまで他の奴より少しばかり目が良いと言うだけだ」

「そうか……。悪いな」


 残念そうに呟いたティルは、渋い表情を見せた。このメンバーを選んだのは、他でもないティルだった。フォンの事や先の事を考えた結果が、このメンバーと言うわけだ。ボンヤリと道の先を見据えるティルは、もう一度渋い表情を見せた。

 ノーリンもまた考えていた。この先の事を。死闘は免れないだろう。仲間の誰かが死ぬかも知れない。もしかすると、それは自分かも知れない。何故、こんな危険な事に身を投じているのか不思議だった。


「ふーっ……」

「どうかしたのか?」


 ため息を吐いたノーリンにティルが尋ねた。その声に苦笑するノーリンは、頬の三ツ星の刺青を掻き答える。


「何でもない。ただ、何でここにワシは居るのかと、思ってのぅ」

「ははは……まぁ、そうだな。俺も、何でここに居るのか不思議だよ」


 ワザとらしく笑うティルは、右手に眼を落とす。この手に世界の命運が掛かっている、そう思うと本当に笑えてしまう。ブラストから話を聞かされた時、ティルは信じる事が出来なかった。ここに集まった者が、この世界の命運を握っており、負ける事は世界の終わり。勝つ事が唯一の望みだと話した。全ては予言書に書かれた全て。

 こんな話を信じろ、と言う方がおかしい。それに、自分が何故選ばれたのか、そう考えると全く笑い話だ。ただ、妹を探していただけ、妹と幸せに暮らしたかっただけ。それだけの為に旅をしていたのに……。フォンに出会い、ミーファに導かれ、幾多の魔獣に襲われ、幾多の仲間と出会う。そして今、世界を背負って戦う。


「ハハハ……。全く、ふざけた話だよ」


 もう一度ワザとらしく笑ったティルが、開いた右手を閉じ静かに空を見上げた。


「俺はさ、ただ妹を探してただけの旅人に過ぎないはずなのにな……」

「ワシもじゃよ。しがない何でも屋。金さえ貰えればどんな汚い仕事だってやっとる。そんな人生を過ごしてたはずなんじゃがな」

「お互い、世界を背負ってるって言う感じじゃないな」

「そうじゃな。じゃが、皆そうなんじゃろうな」


 少しだけぎこちなく大らかに笑って見せた。誰もが不安なのだ。突然背負わされた“世界”と言う重圧が。


「しっかし……あの二人は平然としてるけどな」

「まぁ、あやつらが居るから、まだ冷静で居られるんじゃがな」

「そうだな……」

「見えたぞ」


 二人の会話にバルドが突如言葉を挟む。刹那、ティルは腰の天翔姫に手を掛ける。既にディバスターは目視できる距離にあるが、ティルには魔獣が居る様には見えなかった。ノーリンも同じだろう。眉間にシワを寄せ、首を捻っている。

 一方、前を進んでいたフォンとカインは足を止めていた。止めたのはフォンの方だろう。こちらに視線だを向け静かに口を開く。


「血の臭いがする。しかも、強烈な程の……」

「血の臭い……。どこら辺からだ?」

「ディバスターの近くから漂ってる」


 ティルの問いに答えたフォンは、ゆっくりと後退る。それに見て、カインも状況を判断したのか、フォンと同じ様にゆっくりと後退する。二人の様子にティルも状況を把握した。よっぽと危険らしい。


「で、どうなんだバルド」

「俺の目には十体は見える。ただ、木の陰になっている所は知らん」

「そうか……十体以上は居ると見ていいだろうな」


 腕を組むティルに、カインが冷静に口を開く。


「ねぇ、こんな道端で話すより、茂みに隠れて話した方がいいんじゃ?」

「そうだな……。ここじゃ目立つからな」


 五人は茂みに身を隠し、円になり座り込んだ。

 魔獣が居る事は想定していた為、焦りなどはない。ただ、ここからは慎重に行かなければならない。それに、戦力は限られており、魔獣人クラスが出て来れば戦力は大幅に削られる。それに、奴らの力は未だ未知数だ。そんな連中を相手に無事で済むはずがない。一歩間違えれば全滅だ。

 腕組みをして考えるティルを尻目に、フォンが静かに立ち上がり森の方へと足を進める。


「おい。何処に行くつもりだ」


 バルドに呼び止められ、フォンは笑みを見せ答える。


「一応、枯れ枝を拾っておく。寒いのはイヤだし」

「相変わらず、厚着だしね。僕も手伝うよ」

「おう。ありがとうな」


 フォンはそう言ってカインと一緒に森へと入っていった。残された三人は、のん気な二人の様子に暫し呆れていた。

 暫くして、ノーリンが不思議そうに口を開く。


「しかしのぅ、あやつは何故、あんな事を言ったんじゃろうな」


 その言葉に、ティルの表情が曇る。事情は知っていた。ミーファから全て聞かされたからだ。だが、それを今説明するべきか迷い、


「さぁ、ただアイツにも事情があったんだろう」


 と、その場は誤魔化した。何故、誤魔化してしまったのか、本人にも分からない。口が勝手にそう言ってしまったのだ。そんな二人に、渋い表情を見せるバルドは、静かに口を開く。


「知らないのか? 癒天族の力の事」

「なんじゃそれは? 癒天族の力は癒しじゃろうて、それ以外に何かあるのか?」

「お前は、知っていたようだな……」


 ティルの表情にバルドがそう呟く。ノーリンは眉間にシワを寄せ、ティルの方に顔を向ける。


「知らないんじゃなかったのかのぅ?」

「……。今は言うべきじゃない。そう思っただけだ」

「しかしのぅ。知ってたのなら、あの場所で弁解も――」

「俺が知ったのはあの後だ。それに、これはルナの口から聞くべき事なのかも知れん……」

「俺もそう思う。本人が話さない事を、俺達でとやかく言う事じゃない」

「そうかのぅ……。まぁ、そう言う事なら、ワシもそれ以上訊かぬ事にしよう」


 ノーリンが大らかに笑い、ティルも困りながら苦笑した。バルドは相変わらず表情を変えない。そんな中で小さくため息を吐いたティルは、「これからの事、考えよう」と呟いた。

 ようやく、更新した所ですが、暫く休載します。

 本当に申し訳ありません。

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