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第85回 墜落

 時は朝方、事件は起きた。


「ヌッ……なんじゃ?」


 突然の爆発音に、ノーリンが部屋から顔を出す。まだ眠いのか、細い目を更に細めて、大きな欠伸を一つ。

 そんなノーリンの所に眠そうに目を擦るカインがやって来た。


「ぬあにくわあったんれすか?」


 明らかに呂律の回っていないカインに、ノーリンは首を傾げた。

 爆発音が聞こえたのがノーリンの部屋の近くだった為、カインはコッチに来たのだろう。

 ボンヤリするカインは、あっちにフラフラ、コッチにフラフラと、危なっかしく立ち尽くしており、ノーリンも心配そうにそれを眺めていた。


「大丈夫かのぅ? そんな状態で」

「ぬぁにがですか?」

「いや……何でも無い……」


 ノーリンがそう言うと、更に奥からワノールとティルの二人が歩いてきた。二人は特に眠いと言った様子も見せず、平然とした態度でノーリンに問う。


「何かあったのか?」

「ふわっ、ワノールさん……おはおうございばす……」


 ワノールの声に深々とお辞儀をするカイン。だが、カインのお辞儀する先はただの壁だった。


「カインの奴、寝惚けてるのか?」

「らしいな。まぁ、心配ない。時々ああなるだけだ。話を進めよう」

「心配ないって、大丈夫か? 何かふら付いてるけど……」


 右目を眼帯の上から掻くワノールは、呆れた様な目でフラフラと徘徊するカインを見据え、小さくため息を吐いた。


「大丈夫だ。心配するだけ無駄だ。とっとと話を進めよう」

「まぁ、長い付き合いのお前がそう言うなら、話を進め――!」


 突然、大きな爆発音が響き、廊下を突風が吹き抜ける。船体が大きく傾き、三人はバランスを崩し、その場に倒れる。一方、フラフラだったはずのカインが、何故かこの状況でもその場に立ち尽くしていた。


「オイオイ……。アイツ、本当に寝てるのか?」

「時々あるんだ。アイツの場合、寝ている時に感覚が研ぎ澄まされる時が」

「それが、寝惚けてる時と、言うわけかのぅ」

「まぁ、そう言う事になるだろうな」


 納得いかないと言わんばかりの目でカインを見据えるワノールは、もう一度小さくため息を漏らした。



 機内に警報が鳴り響いていた。

 トレーニングルームに居たフォンは、警報の音でようやく事態を把握し、廊下へと足を進めた。船体が傾いている為、壁に背中を預けゆっくりと足を進める。


「何があったんだ? 敵かな……」


 ボソボソと一人呟くフォンは、風の一層強く吹き抜ける場所に出た。壁に穴が開き、そこから突風が吹き荒れていた。呆然と立ち尽くすフォンはその先に何かが居るのを確認し、大声で叫ぶ。


「誰だ! お前は」


 風の音で声が掻き消される。だが、ソイツには言葉が届いたのか、静かにフォンの方を振り返った。暗くて良く見えないが、口元がありえない位裂け、不気味にケタケタ笑いフォンを指差す。


「…………」


 ソイツが何かを言ったが、風の音に混じり声は聞こえない。しかし、その尋常じゃない殺気は物語っていた。貴様を殺すと。

 背中に寒気が漂い、全身の毛が逆立ち冷や汗が額から溢れる。コイツに関わってはいけない。そんな気がした。

 フォンを見据える影は、もう一度ケタケタ笑うと、そのまま壁に開いた穴から外へと飛び出し、姿を消した。恐怖と静寂だけを残し。

 その場に座り込むフォンは、呼吸を荒げ身を震わせた。瞳孔は開いたままで、鼓動が早まっていた。気持ちを落ち着かせる為、瞼を閉じたその時だ。

 船体を揺るがす大きな爆発が起き、機体が急降下する。船体に圧力が掛かり節々が軋む。何が起ったのか分からないが、奴が何かした事は明らかだ。

 右翼から黒煙を上げる赤い飛行艇は森の中へと墜落した。旧都市ディバスターまで、あと十数キロ。廃墟とかしたその町は既に目視できる距離だが、寛大な城がとても小さく見える程だった。



 凄まじい衝撃が船体を襲い、機体に複数の亀裂が走っていた。

 操縦室に居たブラストは、額から血を流しながら現状を調べていた。操縦桿で額を切ったのだろう。血を拭わずひたすらモニターに何かを打ち込むブラストは、今までに無い程強張った表情を見せていた。何が起ったのかブラストも分からなかったのだ。


「くっ……。一体、何があったんだ……」


 次々と移り変わるモニターを見据え、遂にブラストは一つの影を見つける。それは、フォンの出会ったあの不気味な生物の姿だった。船内に備え付けていた防犯用のカメラに映るその姿は、一層不気味に見える。


「コイツが……。でも、一体何処から?」


 不思議そうに呟くブラストは、モニターの時間を進める。刹那、モニターに映っていた生物が一瞬にして消え去り、モニターがプツンと消えた。


「破壊されたのか……」


 ボソッと呟くと同時に、扉が開かれティル達が雪崩れ込んできた。


「おい! 何があった」

「やられたよ……」

「やられたって……」

「コイツだ」


 モニターの映像を巻き戻し、先ほどの生物の姿を皆に見せつけた。その不気味な風格に皆の表情が強張る。


「何だ、コイツは……」

「本当に生物なのか?」

「どうだろうな。俺には分からん」


 ブラストがしかめっ面でそう述べると、皆が黙り込んでしまった。


「何でしょうね。この背筋をゾッとさせる様な存在感は……」


 寝惚けていたカインが突如そんな事を言った為か、ブラスト以外の皆が驚いた目をカインの方へ向ける。まるで今まで存在しなかったモノを見る様な視線に、カインが不貞腐れた様に頬を膨らせる。


「なんですか! 人をそんな目で見て、何か不服なんですか?」

「いや、起きてたのか、と思ってな」

「ワノールさん。僕はさっきから起きてますよ。何言ってるんですか全く」

「…………。あれは、起きていたに入るのか?」

「さぁのぅ。ワシには寝ていたとしか思えんが……」


 不思議そうな表情のティルとノーリンに対し、ワノールが小さくため息を吐き、二人の方に視線を向けた。


「だから、言ったろ。心配するだけ無駄だって」

「ああ……」

「らしいのぅ」


 呆れた様な笑みを浮かべる三人に対し、ムスーッとした表情を向けるカイン。不思議そうに首を傾げるブラストは、カインと他の三人の顔を見比べ、もう一度首を傾げた。

 そんな妙な空気を変えたのは、突如開かれた扉から入ってきたウィンスとカシオの二人だった。


「どう言う事だコラー!」

「ってか、俺を殺す気か! あと数センチずれてたら、お陀仏。完全に俺はエンマ様の前でざんげしてる所だぞ!」


 水浸しのウィンスと、額から血を流し血の付着した装飾用の剣を手に持ったカシオが乱入するが、その場にいた誰もが唖然としていた。水浸しと血塗れ、この二人に一体何があったと言うのだろうか。

 楽しそうに笑みを浮かべるカインは、そんな二人に明るく声を掛ける。


「何の冗談ですか? 面白すぎますよ……あれ?」


 カインも異変に気付く。血走った二人の目が、殺気だった視線が、カインに重い重圧を掛ける。笑みが見る見る引き攣るカインは、更に言葉を続けた。


「どうしたんですか? そんなに殺気だって……」

「どうしたもこうしたもあるか!」

「寝てたら突然船体が大きく揺れて、起き上がったと同時に、これだよこれ! これが、俺の顔に向って一直線さ。一歩間違えば脳天串刺しだよ! どう言う事さ、これは!」

「……。まぁ、カシオの言い分は分かった。それで、ウィンスはどうしたんだ」


 ティルが半ば呆れながら聞くと、ウィンスは拳を握り力強く答えた。


「寝てたら、大きな揺れが起きて、花瓶が直撃したんだよ! 怪我はしなかったからいいものの……」

「いいなら、何で怒ってるんだ?」

「いや……。何と無く」


 呆れるティルは小さくため息を吐いた。それに釣られる様にワノール、ノーリン、カインの三人も静かにため息を吐いた。

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