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第82回 最悪の未来

 綺麗な夜空の見える飛行艇の甲板に一人の少年が立ち尽くす。

 冷たい風は冬の到来を感じさせる。

 小さくため息を吐くと、切れ長の目を閉じた。風が頬に触れ髪を撫でる。黒髪が揺れ、静かに目が開かれた。


「どうかしたのか? ミーファ」


 振り返る事も無く言葉を発する。背後に立つミーファは空色の髪を揺らし、真っ直ぐな瞳を向けた。空色の綺麗な瞳。全てを見透かす様な澄んだ瞳が、僅かに潤んだ。その瞳を見て、ある程度の事を理解した。


「知ってたんだな」

「うん。ある程度は……でもね、ティル――」

「心配するな。フォンは大丈夫だ」

「ううん。違うの。この先の事だけど……」

「この先の事?」


 不思議そうに首を傾げるティルに、ミーファは深刻そうな表情で告げる。


「未来を見たの。とっても悪い未来」

「悪い未来?」

「うん。私達にとっては最悪の未来かも知れない」

「最悪……か。なら、訊かない方がいいだろうな」

「いいの? 訊いていた方が――」


 ミーファの言葉を遮る様にティルが目を閉じ、自分の胸に手を当てる。


「俺は自分を信じる。己の力を、己の道を。だから、何も言わないでくれ。それが、もし絶望だとしても、俺は全てを変えてみせる。ここに集まった仲間とともに……」

「大変だ! か、カインが!」


 突然、甲高い声と共に二人の間にカシオが割って入った。蒼い髪に灰色の瞳、胸の位置でひび割れたゴーグルが揺れ動く。慌てた様子のカシオに、ティルとミーファは目を向ける。そんな二人に慌てていたカシオが、冷静な瞳を向け一度頷き口を開く。


「あっ……ああ……。悪い。二人の邪魔はしないから」

「お、おい! 何が大変何だ?」


 機内に戻ろうとするカシオを呼び止めるが、申し訳無さそうに笑みを見せ、


「いやいや。幾ら俺でも空気は読めるさ。二人の邪魔はしないって。だから、ごゆっくりな」


 それだけ言いティルの肩をポンと叩くと同時に、カシオの視界が一転した。いつの間にか夜空を見上げる形になっていた。組み伏せられたのだ。叩き付けられた為、腰には痛みが残り呼吸が苦しかった。

 潤んだ瞳でティルを見上げるカシオは、弱々しく尋ねる。


「何すんだよ。俺は、空気を読んでだな――」

「だから、それが違うってんだよ!」

「何が違うのさ〜。俺にはいい雰囲気にしか――」

「お前の目は相当悪いらしいな」


 怒りの滲んだ目が真っ直ぐにカシオを見つめ、怒気の篭った声が体を硬直させた。苦笑するカシオは取り敢えず体を起し、ミーファの方に目を向け、頭を掻く。


「いや〜。てっきり、二人が付き合ってるのかと」

「……ば、馬鹿言わないでよ! な、何でわ、わわ、私が――」

「そもそも、今はそんなことをしている状況じゃない」

「ふ〜ん。ならいいけど、それより、カインが目を覚ましたそうだぞ」


 嬉しそうな口振りのカシオに、小さくため息を漏らすティルは、ミーファの方に目を向ける。


「話の続きはまた今度な。いくぞ、カシオ」

「ウオッ、お、おい! 引っ張るな! 首がしま――」


 襟首を引っ張られ、苦しそうなカシオは、ティルと一緒に機内へと消えていった。その姿を笑顔で見送ったミーファは、二人の姿が機内に消えると、大きくため息を吐いた。これから起るであろう戦いの過酷さと、その先に待ち受ける最悪の結果を知っているから。胸が苦しく、自然と涙が零れた。必死で押さえていた涙が、知らぬ知らぬうちにポロポロと零れ落ちた。



 医務室の前に皆が集まっていた。その中心にカインが立っていた。腹部には包帯が巻かれ、松葉杖を両脇に何とか立っているという状態だ。


「ご心配お掛けました」


 カインがニコッと微笑むと、皆も笑顔を零した。安心したのだろう。

 一時はどうなるかと騒ぎになったが、ブラストの開発した治療カプセルが役にたったようだ。開発されたのが最近の事らしく、テストすらしていなかった為、きちんと動くか分からなかったらしいが、カインの姿を見る限り成功した様だ。

 散々ブラストの発明品に酷い目に遭わされているティルにとっては、その成功が不思議でならなかった。だが、それを口にはしない。流石にこの場の空気に水を注すほど、馬鹿ではなかった。


「傷はもう平気なのか?」

「ええ。傷の方は大分……でも、青空天が……」


 申し訳無さそうにワノールの方に目を向ける。元々、青空天はワノールからプレゼントされた物で、特別な硬質物で出来た物だった。その為、カインの扱う高温の炎を受けても原形をとどめる事が出来ていた。

 そんな物を剣へと作り変えた人も凄いが、今となってはその硬質物も手に入らないだろう。


「すいません……」

「気にするな。剣はいつかは折れる」

「それに、剣ならまた創って貰えばいいから」


 長い黒髪を揺らし、ウールがそう言うとカインの頭を撫でた。金髪の綺麗な髪がウールの指を絡まる事なく行き交う。温かく優しく撫でられたカインは、少しだけ恥ずかしそうに頬を赤らめ、皆の顔を見回す。幾つか見覚えのない顔もあるが、安心させようと明るく笑みを浮かべ、軽く頭を下げる。


「色々ご迷惑お掛けしました。僕のせいで――」

「誰も迷惑なんて思っとらんよ」


 ノーリンが大らかに微笑む。


「それにさ、迷惑掛けたのは、カインだけじゃないんだし、気にしない気にしない」

「っつうか、あんたは迷惑掛けすぎ!」


 セフィーの踵落としがウィンスの脳天に落ちた。


「いってぇだろ! いきなり何しやがる!」

「もう一発くらいたい?」

「い、いえ……」

「兄弟仲が良くて羨ましい限りだ。全く微笑ましいねぇ」


 腕を組み頷くカシオを、訝しげに見据えるカインは、ワノールの方へと顔を向け静かに尋ねる。


「あの〜。誰ですか? あの人は?」

「んっ? 誰だ? 俺は知らんが、この飛行艇のクルーじゃないか?」

「ちょ、チョット! 酷くない? 俺って、そんな扱いなの? 俺、みんなの名前覚えたのに――。って、何。その皆の痛い視線。空気読めって言うわけか? 俺にはとっととここから消えて欲しいってか?」


 ペラペラとマシンガンの様に言葉を打ち出すカシオの切ない言い分に、右手で頭を押さえティルはため息を吐いた。そんなティルの気持ちを察してか、ウールが苦笑しながらワノールとカインに説明する。


「彼はカシオさんです。フォースト王国で、ティルさんと出会ったそうです」

「ティルの知り合いか……」

「凄い喋ってますね」


 呆れ顔のカインとワノール。不意にフォンの事を思い出してしまう。そうさせたのは、きっと何処となくカシオがフォンに似ていたからだろう。辺りを見回す。だが、何処にもフォンの姿はない。そして、ルナとミーファの姿も。


「あの、フォンは何処ですか?」


 その言葉にその場が静まり返る。皆、フォンのあの発言を聞いていたからだ。だが、それを知らないカインは不思議そうな表情で、皆の顔を見回す。その沈黙を破ったのは、ブラストだった。


「彼は自室で待機中だ。どうも体の調子が悪いらしい」


 実際とは多少異なるが、体調が悪いと言うのは本当の事の為、ティルは何も言わない。今、ここに居る皆にフォンの事を話す必要などないと判断したからだ。ブラストもきっと同じ事を考えていたのだろう。その後は何も言わずただ皆の会話に頷いていた。

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