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第72回 未来

 飛行艇での戦いは激化していた。

 突如現れたフォンとフレイストの二人の参戦により、魔獣との戦いは有利に進む。傷を負うティルとバルドの二人は、フォンとフレイストに負けじと、数多くの魔獣を倒していた。


「ハァ…ハァ……。ようやく、片付いたな」


 肩で息をするティル。

 そんなティルに、笑顔でフォンが返答する。


「いや〜。案外、苦戦したな〜」


 無邪気なフォンの笑顔に、ティルは無性に腹が立った。だが、フォンに文句を言う程、ティルに余裕は無く、その場で意識を失ってしまった。

 その後、フォンとフレイストの手で、ティルとバルドの二人を、飛行艇内にある医務室へと運び、軽い治療を施した。幸い傷は浅く、治療には時間が掛からなかった。フォンとフレイストはすぐにブラストと話し合いをするために、医務室を後にし、ミーファだけが、医務室に残されている。

 静かに時だけが過ぎる。ウトウトとするミーファは、浅い眠りに就いた。

 暫く闇が続き、ゆっくりとミーファの視界が明るくなる。夢へと落ちた。しかも、時見族の見る未来の世界へと。



 暗い暗い闇。

 そこにミーファは居た。

 これは夢だ。未来を見せる夢見族特有の夢。

 ミーファはそれを知っていた。だから、落ち着いていられた。この暗い闇の中でも。

 次第に闇が薄れていき、何処からか聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「やめて! これ以上――」


 女性の声。涙声で、それ以上聞き取れない。

 風の音。激しい全ての音を掻き消す様な暴風。

 視界が広がり、ようやくミーファの目にもその状況が映し出される。

 荒々しい風が砂埃を舞い上げ、その中心に二人の男が立つ。

 ボロボロの茶色のコートが大きく揺れる。傷だらけの体からは、血が流れ両肩が大きく上下する。

 疲労の窺えるその男と対峙する男。背丈は低く、茶色の髪が逆立つ。右腕には包帯が巻かれ、その腕が激しく波打つ。まるで生きているかの様に。


「ハァ…ハァ……」

「ハァ…ハァ……」


 両者とも肩で息をする。

 風が静まり、砂埃が消えた。そこで、ミーファは初めて気付く。その二人が、フォンとティルである事に。そして、泣き崩れる自分自身の姿にも。

 動揺の隠せないミーファは、何がどうなっているのかを考える。だが、そんなミーファを他所に、対峙する二人が動き出す。

 細身の白の刃に赤の亀裂が入った天翔姫を、下段に構え走り出すティル。一方、フォンは右手を握り締め、ティルへ向って一直線に走り出す。スピードで上回るフォンが、一気にティルの間合いに入る。


「クッ!」

「ウラアアアアッ!」


 叫び声と同時に、右拳が振り抜かれた。うねる様に突き出された右拳に、ティルは瞬間的に体を右にそらし、そのまま天翔姫を振り抜いた。

 金属音が響く。

 ぶつかり合う白い刃と、包帯の下から見えた鋭い爪。緩くなった包帯の合間から、フォンの腕が見えた。おぞましい程ただれた皮膚の下から、フォンじゃない何か別の化物の様な腕が見えている。それが、なんなのか、ミーファに知るよしも無く、二人の戦いが白熱する。

 右腕が天翔姫を弾く。同時にティルの体が後方に弾き飛ぶ。両足を地に確りと踏み留めたティルは、仰け反りながらもフォンから目を放さなかった。


『どうなっているの……』


 未来を見ているミーファの声は、ここに居る誰にも届かない。


『何で、フォンとティルが……。どうして……こんな事に……』


 戸惑い。頭が困惑する。こんな未来になるなんて、思っていなかった。

 いや、実際、こんな未来になるはずじゃなかったハズだ。何処かで未来が変った。しかも、最悪の形に。

 自分じゃ何も考えられなくて、ミーファは蹲る。そして、目の前の未来を拒絶し、それが嘘だと自分自身に言い聞かせた。


『嘘よ……嘘! こんな事……ありえ――』

「全て現実のなる」


 突然の声。それは、明らかにミーファ自身に掛けられた言葉。初めての事に脈が早まる。自分の中で何かが変っている。


『だ…誰……』


 恐る恐る振り返る。そこには、幼い少女が立っていた。栗色の長い髪が、暗い闇を背に輝いて見える。背丈はミーファよりも小さく、明らかに年下に見える少女は、落ち着きのある愛くるしい声で言う。


「私は――。あなたと同じ時見族」


 名前だけが途切れる。


『エッ……。今、何て――』

「私は、あなたと違う。時を破滅させる者」

『それって……』

「時を導くあなたとは、敵同士」


 その言葉で、ミーファは理解した。未来が変ったのは、こいつのせいだと。一体、何者なのか詳しく分からないが、この少女がミーファの大切なモノを奪う、と言う事だけは分かる。フォンやティルの少しずつ繋がった絆すらも、引きちぎろうとしているんだと言う事も。

 それが、許せなかった。一つ一つが結ばれ、ようやく実ろうとした二人の絆を、大切な仲間の絆を簡単に壊してしまう彼女の事が。


『何で……なんで、こんな事を!』

「何で? 分かるでしょ? あなたも、時見族なら」


 その言葉に、ミーファは言葉を呑む。彼女が何を言いたかったのか、分かったからだ。

 何の反論も出来ず、悔しさだけが残る。目頭が自然と熱くなり、視界が涙で霞む。自分の無力さを改めて知った。

 俯くミーファに、少女は静かに口を開く。


「見届けないの? もうすぐ決着」

『うるさい! 私は、こんな未来信じない! 絶対に、変えてみせる!』

「それが無理だと分かっていても?」


 その言葉に下唇を噛み締め、拳を握る。


『無理じゃない……。未来は……変えられる! フォンもティルも私が――』

「無理よ」


 ミーファが言い終える前に、耳元で少女の声が聞こえる。


「あなたは無力。何も出来ない」

『私は――』

「あなたは、見届ける事しか出来ない。彼ら二人の戦いの行方を」


 逆の耳元で少女が囁く。

 その時、悲鳴が聞こえる。


「いやあああああっ!」


 それは、未来のミーファの悲鳴。

 視線をそこへ向ける。

 貫く白い刃。その切っ先からは血が滴れる。


「グフッ……」


 血が大量に口から吐き出された。


「フォン……」

「うっ……ううっ」


 天翔姫の突き刺さったフォンの体が、静かに崩れ落ちる。半分、獣になっていたフォンの体は、元の姿に戻り動かない。だが、僅かに息は残っていた。それも弱々しく、今にも息絶えてしまいそうな程の呼吸。きっとルナの力を持ってしても、治療するのは不可能だろう。

 泣き崩れる自分自身の姿に、ミーファも薄ら涙を流す。フォンが死んでしまうと、思うともう止める事が出来なかった。そんなミーファに後ろから少女が言う。


「近い未来、現実となる。あなたは、この未来を受け止めなければならない」

『うるさい! 私は、こんな未来……』

「信じない……とでも? あなた自身分かっているはず。時見の見た未来は確実に現実になると言う事を」

『そんな事無い! フォンは、確かに生きて帰ってきた!』

「生きて帰ってきた? 何の話かは分かりませんが、あなたの見た未来は確実に現実となる。それだけはかえられません」


 少女の声が聞こえなくなる。それと同時に、ミーファの視界が闇へと包まれた。夢が終わる。現実へと引き戻されていく。そして、闇の置くに眩い光が一筋見え、ミーファを呼ぶ声が聞こえた。

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