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第71回 遅れてきた助っ人

 甲板で戦うバルド。

 右手に持った双牙で、何とか致命傷を免れるバルドだが、右脇腹の傷がズキズキと疼き、動きが鈍くなっていた。それでも、魔獣達に悟られぬ様に強気な姿勢を崩さない。


(右!)


 鋭く振り抜かれた双牙の長い刃が、右から襲ってきた魔獣の右腕を肘から切り落とす。吹き出る血に、顔を顰めるバルドは、双牙の短い刃を後ろに突き出す。ドスッと鈍い短音が聞こえ、後ろから襲い掛かろうとしていた魔獣の体が動きを止める。短い刃は的確に魔獣の心臓を捉えていた。


「ハァ…ハァ……」


 呼吸をする度に痛む右脇腹の傷。それに堪えるバルドは、静かに息を吐くと、目を閉じ意識を集中する。風の音に、魔獣の羽の羽ばたき。それが、バルドに魔獣の居場所を教える。右手に持った双牙に、左手を添えた。


(背後から二体。前方から更に二体。右から三。左から二)


 全ての位置を把握したバルドは、目を開くと、力を込めて左手を引く。そして、回転しながら矢を放った。的確に魔獣の胸と頭を射抜く。そして、バルドの確認した魔獣を全て射抜き、動きを止めたと同時に、バルドは左膝を甲板に落とした。


「クッ…ハァ…ハァ……」


 呼吸の荒いバルド。先程の攻撃でもう体も限界だったのだろう。完全に膝が言う事をきかない。そんなバルドのミスが一つだけあった。それは、魔獣が周りだけではなく、頭上にもいたと言う事だ。


「ガウウウッ!」

「なっ! くっ……」


 双牙を振り上げようとしたバルドだが、力が入らなかった。振り上げられた魔獣の右腕が、バルドに向って降りる。だが、魔獣の爪がバルドに届く前に、魔獣の悲鳴の様な声が響いた。


「ギャアアアアッ!」

「な、何だ」


 魔獣の体は、血を吹き風に飛ばされてゆく。そして、バルドの目の前には、一人の青年が立っていた。オレンジブラウンの髪が風に揺れ、綺麗な緑色の瞳がバルドを真っ直ぐに見据える。そして、振り下ろした大きく鱗模様の入った剣を持ち上げ、優しく微笑みかけた。


「大丈夫ですか? 間一髪でしたよ」

「だ、誰だお前!」


 突然の事に驚くバルド。この飛行艇には、ティル、カシオ、バルド、ブラストと飛行艇を操縦する人しか乗っていないはずだった。それじゃあ、この青年は何処から――。バルドがそう思った時、別の子供っぽい声が何処からか聞こえた。


「うおおおっ! すげぇー! 飛んでる――飛んでるぞ!」

「フォン! 何興奮してんのよ! もっと周りを良く見て!」

「う〜っ……。雰囲気ぶち壊しだよ〜。ミーファ」


 茶色の髪を揺らす子供っぽい顔付きのフォンが、頬を膨らし不満そうな顔を見せる。そんなフォンに掴みかかるミーファは、激しくフォンの頭を前後に揺さぶり怒鳴った。


「もーっ! 何のん気な事言ってんのよ!」

「う〜っ……ゆ〜ら〜す〜な〜」

「うるさい! 分かったらさっさと戦え!」


 ミーファは勢い良くフォンの体を後ろへと突き飛ばした。フラフラとした足取りのフォンは、尻餅を着き「あう〜っ」と、妙な声を上げる。そんなフォンに続いて怒鳴り声を響かせたのはティルだった。


「フォン! な、何でお前がここに!」


 グラスター大陸にいるはずのフォンが、ここにいる事に驚く。そんなティルに対し、ニコヤカな笑みを見せるフォンは、包帯が巻かれた右腕を上げる。


「おおっ! 久し振りだな! ティル。こんな所にいたのか」

「ああ。久し振りだな――じゃなくてだな。お前、グラスター大陸にいるはずだろ。どうやってここに!」

「ノリツッコミを覚えたのか。うんうん。嬉しいぞ。オイラとしても」


 腕組みをして軽く頷くフォンは、嬉しそうに微笑む。呆れて目を細めるティルは、銃口をフォンの方に向けた。もちろん、これは冗談なんかではない。ティルの目を見れば、本気だと言う事が一目で分かった。

 そんなティルに、苦笑するフォンは、両手を胸の前で広げ、「まぁまぁ」と小さな声で言う。声が小さすぎて、ティルには聞こえていなかったが、その行動で何と無く言っている事を理解したティルは、引き金に人差し指を掛ける。


「久し振りだからって、調子に乗ってると、ぶち抜くぞ」


 両手を上げるフォンは、小刻みに何度も頷く。が、無情にもティルの人差し指が引き金を引いた。銃声が響き、フォンの頬を何かが掠め、耳元で鋭い風の音が聞こえる。驚きに目を丸くするフォンの背後では、ティルの放った弾丸を胸に受け倒れる魔獣の姿があった。


「おおっ。流石ティル」


 感心するミーファは、二・三度拍手をすると、ティルの方に目をやった。少しだけ冷たい視線を向けるティルは、そのまま体を横に向けると、右腕を伸ばし自分の背後に居た魔獣の頭を打ち抜く。

 頬から薄らと血を流すフォンは、拳を震わせると、大声でティルに怒鳴りかかった。


「くぅおらーっ! お前、オイラを殺す気か!」

「助けてやったんだ。ありがたく思え」


 冷静な口調のティルは、冷やかな視線をフォンに送り、小さく鼻で笑った。「ムキーッ!」と奇声を発するフォンは、目を吊り上げると、拳を振り上げ更に怒鳴る。


「助けてやったとは何だ! 一歩間違えば、オイラの頭が吹っ飛んでたぞ!」

「ほ〜っ。それは実に残念だな。あと一歩間違えばよかったのか」

「何だそりゃ! お前、オイラを殺したいのか!」

「まぁ、あわよくば」


 ボソッと呟いたその言葉が、フォンにも聞こえた。その為、フォンは更に激怒し、叫ぶ。


「あわよくばって、どう言う事だ!」

「うるさい。いい加減口じゃなく手を動かせ」

「何だよ! その言い草は! 折角助けに来たのにさ!」

「誰も、お前に助けを求めた覚えは無い」

「ヌガアアアアアアッ! 何だよ! 何だよ! 久し振りだってのに、冷た過ぎるだろうが!」


 全力で怒鳴るフォンに、ティルは疲れた様な小さなため息を漏らす。そして、もう一度銃口をフォンの方に向け、静かに口を開く。


「良いか。今は、お前との久し振りの再開に浸ってる場合じゃない。もう一度言う。口じゃなく、手を動かせ。仕舞いには本気で撃ち抜くぞ」


 流石のティルも額に青筋を立て、今にも引き金を引いてしまいそうな気迫を見せる。しかし、フォンもそれに退けを取らない程の闘志を滲み出しており、二人の睨み合いが続く。そんな二人のやり取りを見据えるブラストは、初めてティルのあんな一面を見た気がして、少しだけ嬉しかった。

 嬉しそうに微笑むブラストは、剣を振るい次々と魔獣を落としていく。そのブラストに、オレンジブラウンの髪を揺らす青年が声を掛ける。


「ブラスト様。お久し振りです」

「おう。久しいな。しかし、お前が国王になったとはな」

「私としても、なりたくてなったわけじゃないですから」

「まぁ、そう言うな。これからは、お互い苦労すると思うが、頑張ろうじゃないか」

「えぇ。色々と、お世話になると思いますが、よろしくお願いします」


 丁寧な返事をするフレイストに、ブラストは楽しげに笑う。互いの立場を理解しているブラストとフレイストは、それ以上言葉を交わす事は無かった。

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