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第67回 ブラストの考え

 東の大陸フォースト王国首都ブルドライに、ティル達三人は戻ってきていた。

 カシオもようやく歩ける程度まで回復したが、ブルドライに戻ってくるまで五日も掛かってしまった。そんなボロボロの三人を出迎えたのは、数人の兵士達で、すぐにお城へと案内された。

 疲れの取れぬまま玉座の前へと連れてこられた三人は、不満そうなオーラを漂わせ玉座の前のブラストを睨んでいる。特にバルドは鋭い目付きでブラストを睨み、今にも斬りかかって行きそうだ。

 そんな三人の視線に、穏やかな笑みを見せるブラストは、三人の方へと歩み寄り口を開く。


「まぁ、そう怖い顔をするな。全員無事で何よりだ」


 随分とのん気な態度のブラストに、ティルは額に青筋を立てる。


「何が無事で何よりだ……。そもそも、お前が――」

「そうカリカリするな。老けるぞ」

「老け顔のあんたには言われたく無いよ」


 ブラストの言葉に、随分と大人しめのカシオが皮肉たっぷりにそう言った。だが、ブラストは気にしていない様で、「そりゃそうだ」と言い大笑いする。呆れるカシオは、ブラストに皮肉を言っても無駄だと悟った。

 穏やかに笑ってみせるブラストは、軽くティルの右肩を叩く。唖然とする三人の冷たい視線を浴びるブラストも、流石に空気を読んだ。


「悪い悪い。それより、大切な話がある」


 やけに真剣な顔付きのブラストに、三人は息を呑み真剣な眼差しを向ける。だが、この緊迫のムードをブラストが一瞬にしてぶち壊す。


「腹減ったし、飯にするか」


 真剣だった顔付きはニヤケ顔に戻り、三人は突然の事にその場にずっこけた。


「大切な話があるんじゃないのか!」


 キリッと引き締まった表情でティルがそう怒鳴るが、ブラストは気にせずに部屋を移動する。呆気にとられるティルの左肩に、カシオは右手を乗せて静かに呟く。


「諦めろ。あいつには何を言っても無駄だ。そもそも、あいつは――」


 ようやくカシオらしく、舌が回り始めた。早口で大量の言葉を発する。しかし、ティルもバルドも全く相手にはしなかった。


「どう思う。ブラストの奴」

「さぁな……。得体が知れないのは、いつもの事だ」


 カシオを無視して、ティルとバルドは話を進める。黒髪を掻き揚げるティルは、額を押さえたまま眉間にシワを寄せた。何かトンデモナイ事を、ブラストが考えている様な気がした。もちろん、そう思ったのはティルだけではない様だ。


「何かさ。俺、とてつもなく嫌な予感がするんだけど……。俺だけかな? ティルはどう思うよ」


 先程まで長々と一人で喋っていたカシオが、突如ティルへと話を振る。ボンヤリとしていたティルは、軽く「ああ」と相槌を打つ。その気の無い返事に、カシオはムスッとした表情を見せる。


「なぁ、適当に返事してないか?」

「そうだな」


 腕組みをして考えるティルは、自然とそんな言葉を口走った。不貞腐れるカシオは黙り込み、両頬を膨らしティルを睨む。カシオに背を向けるティルは、そんな事とは知らず、バルドの方に目をやった。


「バルドの言う通り、ブラストは何を考えているか分からんからな……」

「気になるなら、アイツに直接聞け」

「そうだな。直接聞くか……」


 ため息混じりに呟くティルは、静かに部屋を後にした。それに続く様に、バルドとカシオも部屋を後にし、ブラストの後を追った。

 ブラストの後に続き暫く廊下を進む。幾度も部屋の前を通り過ぎた。いつもなら、普通の部屋に通すはずだが、今日はやけに歩かされている。それが、ティルには不自然で、何か裏がある様に思えた。


「ブラスト。何処まで行くんだ? 飯ならいつもの部屋でいいんじゃないか?」

「まぁまぁ、今日は特別な場所で食べようじゃないか」

「何だよ特別な場所って。俺は腹ペコだぞ。飯なんて何処で食っても同じだろ?」


 不満そうなカシオに対し、穏やかに笑うブラストは「もうすぐそこだ」とだけ答えた。不服そうだが、大人しくなるカシオは大きなため息を吐き、目を細める。

 黙って最後尾を歩くバルドは、何やら周囲に目をやり鋭い目付きを変え様としない。それどころか、一層目付きが鋭くなっていた。

 不安が募る三人だが、ようやくブラストは部屋の前に足を止める。ティル達も静かに足を止め、扉の前へと立つ。異様な空気が漂うその扉に、ティルとバルドは眉間にシワを寄せる。これまでの経験からか、ティルとバルドには何と無く危険な匂いを感知していたのだ。


「おい……ブラスト」

「何だ?」

「この部屋の奥には何があるんだ?」


 ティルの言葉に、呆れた様な表情をするブラストは、少しだけティルを馬鹿にした口調で言う。


「当然、部屋の奥には料理があるさ。それが、どうかしたか?」

「どうでもいいんだけど、早く入ろうぜ。俺は――」

「分かった分かった。腹が減ってるんだろ」


 カシオを軽くあしらうブラストは、静かに扉を開いた。扉の向こうには、大きな窓があり、豪勢な料理の並んだテーブルが中央に聳える。恐る恐る部屋へと、三人は足を踏み入れた。部屋に入った瞬間、ティルは妙な違和感を感じる。だが、気にせずに用意された椅子に座った。

 皆が椅子に座ると、突如床が微かに揺れる。それを象徴する様にテーブルの上の食器がカタカタと音をたてていた。


「お、おい! ブラスト」

「落ち着け。少し揺れるだけだ」


 ティルに落ち着いた口調でそう返す。だが、ティルとバルドとカシオの三人は、ブラストの様に落ち着けるはずが無かった。これから、何が起こるか知らされて無いのだから。


「な、ななな、何がおきるんだ! まさか、じ、じじじ、地震か?」


 慌てるカシオは、背を丸め両手で頭を隠す様にしていた。その様子を黙って見据えるバルドだが、その目は少し泳いでいる。やはり、不安なのだろう。奥歯を噛み締めるティルは、ブラストの方に目を向けたまま言い放つ。


「どう言う事だ! 説明しろ!」

「そう怒鳴るなって。物事には手順ってモノがあるだろ?」

「その手順を乱してるのは、お前だろ」


 怒りに顔を引き攣らせるティルは、微かに拳を震わせていた。

 揺れが大分治まり、ようやく室内に落ち着きが戻る。静寂に包まれる室内では、食事の準備が始まっていた。顔色の悪いカシオは、完全に揺れに酔ってしまったのだろう。ティルとバルドの二人は、黙ったまま目の前の料理を睨んでいた。


「んっ? どうした? 食べないのか?」


 のん気なブラストは、サラダを食べながら三人を見据える。微かに右の眉をピクピクと動かすティルは、眉間にシワを寄せブラストの顔を睨む。


「どういう事か説明しろ。何で俺達は――」


 一呼吸置き、テーブルを両手で殴った後に、怒鳴る。


「飛行艇の中に居るんだ!」


 睨み付けるティルを相手にしていないのか、ブラストはサラダにドレッシングをかけていた。そして、ブラストがティルに言った一言は、「んっ? 何か言ったか?」だ。明らかにティルの言葉など聞いていなかった。呆れたティルは、額を押さえ苦しそうに息を吐き、「なんでもない」と、刺々しい口調で言う。

 その後も、ブラストはティル達に何をするつもりなのか、話す事は無かった。

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