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第63回 二ヵ月後に…

 その日、ウィンスは里に戻ってこなかった。

 一人、族長の隣りに座るセフィーは、祈る様に手を合わせる。ウィンスの無事を祈っていたのだ。両親が亡くなり、結婚を約束した人が亡くなり、族長である祖父が亡くなった。これで、もしウィンスが死んでしまったら……。そう考えると、涙が溢れた。

 族長の横で声を殺し泣くセフィー。声を出して泣いてしまうと、全てが崩れてしまう様な気がした。ウィンスが無事だと言う希望が、消えてしまいそうな――そんな気がした。だから、必死に声だけは噛み殺し、大粒の涙だけを流した。


 ――翌朝。

 身支度を済ませたセフィーはヒッソリと里を出た。朝まで帰らなかったウィンスが心配だったのだ。その為、ある程度の医療道具と携帯食を持ち、森を走り回っていた。

 朝早いと言う事もあり、森を静寂が支配している。その静寂を破る様に、セフィーの荒々しい足音が響く。不安定ながらも足の裏に風を集め、地を蹴る度に土を舞い上がらせる。長い黒髪が逆風で大きく靡く。額から薄ら汗を滲ませるセフィーは、暫くして走って足を止める。


「――ウィンス!」


 大声を張り上げる。セフィーの目の前には、ボロボロの姿のウィンスが立ち尽くしていた。周囲一帯の木と言う木が無残に切り刻まれ、切り株と丸太、それと木の屑が散乱している。ウィンスの足元からは、荒々しい風が吹き上がり、切り刻まれた木の葉が激しくウィンスの周りを渦巻く。


「ハァ…ハァ……」

「――ウィンス?」


 息を荒げるウィンスに、歩み寄ろうと右足を一歩踏み出したセフィーだが、すぐに足を止め不思議そうな表情をする。そんなセフィーの方に、ゆっくりとウィンスが体を向けた。その刹那、セフィーの脈は早まり、呼吸が苦しくなる。辺りを飲み込んでしまう様な殺気が、セフィーの全身に圧し掛かったのだ。


「う……ウィン…ス……」

「……俺は……」


 ウィンスが静かに口を開いた。だが、セフィーにその言葉を聞き取る程の時間は無く、意識は薄れ地に崩れ落ちた。

 そして、セフィーが目を覚ました時には、ウィンスの姿はそこには無く、無残な木々の残骸だけが残されていた。涙を浮かべるセフィーだが、すぐに涙を拭き立ち上がる。こうなる事は予測していたのだ。それに、ここで泣いている暇は無い。何としてもウィンスを止めなくてはいけないのだから。

 静かに心を沈めるセフィーは、目を閉じ右手を胸に当てる。ゆっくり息を吸い、静かに吐き出す。そして、悲しみを押し殺し、セフィーは走り出した。



 闇夜の中、アルバー大陸の旧都市ディバスター。既に廃墟と化し、人の気配が無い。そんなディバスターの中央に聳えるアルバー城。その屋上にゼロの姿があった。廃墟と化した町を見回し、静かに微笑む。月光も無い暗がりの廃墟の中に人影を見たのだ。それが誰かはハッキリと見えなかったが、ゼロには大抵の予想はついていた。


「さて……彼は果たしてどちらに着くのかな?」

「何の話だ?」


 丁度屋上に上がってきたヴォルガが不思議そうな顔をして問う。笑みを浮かべるゼロは、黒髪を夜風に靡かせ、ゆっくりとヴォルガの方へと顔を向ける。目を細めるヴォルガは、静かにゼロの方へと足を進め、もう一度問う。


「それで、何の話をしているんだ?」

「フフフフッ……。今後の事についてだよ」

「今後の事?」

「まぁ、時期に解るさ」


 そう一言延べゼロがもう一度不適に笑う。ヴォルガは眉間にシワを寄せたまま首を傾げていた。

 その頃、アルバー城の一室にリオルドとエリオースとガゼルの三人が集まっていた。リオルドは自分の剣を壁に立てかけ、腕を組んだまま椅子に座っている。エリオースはつまらなそうに、天井にぶら下がり、ガゼルはリオルドの向かいに座っていた。沈黙漂うその中で、初めに口を開いたのはエリオースだった。


「リオルド。私達を呼んどいて話はしないの?」

「……」

「リオルド?」


 怪訝そうな目付きをリオルドの方に向ける。腕を組んだまま一言も喋ろうとしないリオルドは、鋭い目付きでエリオースを睨むと、「黙ってろ」と一言。その言葉に押し黙るエリオースは、チラリとガゼルの方に目を向ける。イライラとするガゼルは、右足を揺すりジッと怒りを堪えている様だった。

 その時、部屋の扉が開かれゼロとヴォルガ以外の十二魔獣が勢ぞろいした。ジャガラ、ディクシー、レイバースト、ロイバーン、クローゼルの五人。合計八人が部屋の中に集められた。そして、ようやくリオルドが重い腰を上げ、静かに口を開く。


「ようやく、集まったな」

「どう言う事? リオルド」


 不思議そうに問うエリオースの言葉を無視し、リオルドは更に言葉を続ける。


「これから話す事は、全て俺の考えた事だ。俺の考えに乗る気の無い奴は聞かなくてもいい」

「……お前の事だ。ゼロに内緒で何処かを攻め落とすつもりだろう?」


 ジャガラが黒マントを揺らしそう呟く。その言葉に、リオルドは不満そうな顔をする。


「それで、何処を攻め落とすんだ? 事と次第によっちゃ抜けさせてもらうが」


 ガゼルがそう言う。レイバーストとディクシーはリオルドが何を考えているのか分からず、怪訝そうな目を向けていた。その視線に気付いていたリオルドは、不適に笑みを浮かべ口を開く。


「攻め落とすのは、残り三大陸の城だ」

「フッ……。何をバカな話を。俺達はレイストビルすら攻め落とす事が出来なかったんだぞ?」

「あの時は、邪魔が入った。だが、今回は違う」


 ジャガラの言葉にそう答える。不思議そうな表情を見せるジャガラに、ロイバーンは不適に笑いながら口を開く。


「そうですね。前回は邪魔が入りましたからね。しかし、今回は邪魔が入らないとは限りませんよ?」

「その心配は無い。今回、ゼロとヴォルガの二人にはこの作戦は伝えていない。あの二人が居なければ邪魔される心配も無い」

「確かにそうだな。だが、前回の様に奴らが邪魔に入ったらどうなる?」


 ディクシーが口を挟んだ。一瞬、奴らとは誰だと言う空気になるが、ジャガラがすぐに口を開く。


「奴らとは、俺等が戦った連中の事か?」

「そうだ。連中が、また邪魔に入ったらどうするつもりだ?」

「フッ……。あんな連中は計画の支障にはならん」


 リオルドがディクシーに対しそういい退けると、クローゼルが不思議そうに口を開く。


「それで〜、それは、いつ実行するんだ〜?」

「実行日は、二ヵ月後だ」

「二ヵ月後? どうして一ヶ月も時間を置くんだ?」


 レイバーストが口を開く。そんなレイバーストに、ジャガラが答える。


「準備期間だろ? それぞれ、移動しなきゃならんし、下準備も色々あるからな」

「ジャガラが言った通り、二ヶ月は準備期間だ。俺の作戦に乗るものは準備を開始しろ」


 リオルドの作戦に反対するものは居なかった。皆、ゼロのやり方には少なからず不満があったのだろう。それぞれが、二ヵ月後に向け準備を開始し始めた。

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