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第60回 村 崩壊

 地面に埋まっていた背鰭のある魔獣が、体を起す。背を向けるノーリン。烏に見入るワノール。そんな二人の様子を伺い、不適に笑みを浮かべる。

 そして、ウールが気付く。背鰭のある魔獣がノーリンに向かって駆けて行くのが――。


「危ない!」


 ウールの声にノーリンとワノールが、視線を向ける。そして、背鰭のある魔獣が向って来るのに気付く。ノーリンの細い糸目が静かに開かれ、大きな手をスッと伸ばす。その大きな手は威圧感があり、一瞬だが背鰭のある魔獣の動きが止まった。その瞬間、ノーリンの後ろからワノールが飛び出す。


「残念だったな。俺を殺すチャンスを失って」

「なっ!」


 腰の位置で抜かれた黒刀・烏。黒く不気味に輝く刃は、静かな刃音を響かせ横一線に閃光が走る。


「黒鷲」


 振り抜かれた烏。そして、腰を落としたままのワノール。目の前に迫る背鰭のある魔獣の体は、それから暫くして弾き飛んだ。上半身と下半身が二つに分かれて。血が宙に舞い、大地に降り注ぐ。眼を細めるノーリンは、聊か不満そうな表情を浮かべる。


「お前、もう少し周りの事を考えたらどうだ?」

「ふん……。これでも、最善を尽くしたんだが」

「そうは見えんがな……」


 ノーリンはそう呟き、上半身と下半身の離れた背鰭のある魔獣へと眼をやった。もう動く事もなく、血だけが溢れている。これで、最善なのかと、呆れた様にため息を吐くノーリンは、首を左右に振りワノールの方へと眼をやった。

 落ち着いた様子のワノールは、烏を鞘へと収め静かに息を吐く。鞘に収めた烏を腰へと掛けるワノールは、ノーリンの方に体を向ける。そして、その後ろにいる魔獣達を左目で睨む。


「これ以上、この村で無駄に血は流させたくない。今すぐ立ち去れば、命だけは助けてやる」


 ワノールがそう言ったが、魔獣達にはその言葉は通じていなかった。魔獣達は一斉に地を蹴り、ワノールとノーリンに向って来る。呆れた表情のノーリンは、目を見開く。そして、地を蹴ると空に舞う。だが、そんな事気にせず魔獣達は二人へと迫る。腰の烏に手を掛けるワノールは、左目で鋭く向い来る魔獣を睨む。


「お主! ここワシが一撃で済ませる!」

「フッ……、本当に一撃で済むか、分からんのでな」

「ならば、巻き込まれても文句は言うな」

「文句は言わん。お前も、俺に斬られて文句は言うな」

「……いいだろう。ワシは加減を知らぬ。上手くかわせ」


 そう言うと、ノーリンは地上に向って急速に降下して行く。余裕の表情を見せていたワノールも、その瞬間表情を引き攣らせ背を向け走る。身の危険を感じたのだ。途中、ウールを抱え込み、ひたすら走った。不思議そうな表情をするウールは、ワノールに問いかける。


「どうしたんですか?」


 その言葉にワノールもすぐに答えた。


「ここにいると、俺達まで巻き込まれる。今すぐ立ち去る!」


 ワノールは全力で地を駆けた。ノーリンが降下してくるのが、音で分かった。魔獣達もその事に気付き足を止める。その時、既に魔獣達はノーリンの真下に来ていた。ノーリンもそれを目で確認し、両拳を前に突き出す。


「地の波紋を受けてみるがいい!」


 その叫び声とほぼ同時にノーリンが地上へと突っ込んだ。爆音に違い轟音が大地を揺るがし、水に広がる波紋の様に、地面が鋭く突起していく。地面が乾いた音を奏でながら、中心から外へと徐々に波紋を広げる。近くにあった建物は全てその衝撃と、広がる地の波紋により倒壊し、その中心付近に居た魔獣達は、鋭い突起により体を突き抜かれていた。


「ハァ…ハァ……」

「大丈夫? あなた」

「あぁ……何とか……」


 何とかあの波紋から逃げ切ったワノールは、村の外に居た。あの波紋は小さな村を一瞬にして崩壊させてしまったのだ。ワノールもあと少し遅ければ、あの波紋の餌食となっていただろう。

 苦しそうに呼吸をするワノールは、右手で汗を拭い、左目で村の方を見据える。広がる土煙と倒壊した家々の跡が無残に残っていた。唖然とするワノールは、深々とため息を吐き、額を押さえながら嘆く。


「奴は……何を考えているんだ……」


 眉間にシワを寄せ、眉をピクピクとさせるワノールからは、僅かに怒りが滲み出ていた。ウールはそんなワノールに笑みを見せながら、「まぁ、いいじゃないですか」と言った。半笑いを浮かべるワノールは、「また、家を買わなきゃいけないな……」と、小さなため息を漏らした。

 村の中央には、ノーリンの姿があった。僅かに地上から体を浮かし、酷い有様の村を見て、「うむ……これは酷い……」と、一言。ここまで酷いとは、ノーリンも思っていなかった。

 村の外のワノールは、地面から突き出た突起を蹴りで崩して、ノーリンの方を目指していた。一言文句を言ってやろうと、思ったのだ。しかし、幾度破壊しても、前に進めずイライラとする。


「くっそ! あのやろう! どう言うつもりだ……」

「まぁまぁ、そう怒らなくても」


 のん気に微笑むウールに、含み笑いを浮かべ頭を抱える。そこに、ノーリンがゆっくりと降り立った。


「おう。どうだ? ワシの技の威力は」


 その言葉を聞くなり、ワノールは額に青筋を立て、引き攣った笑みを浮かべる。拳が僅かに震え、今すぐにキレても可笑しくない。だが、そこは怒りをかみ殺す。後ろにウールがいたからだ。


「てめぇ……。ふざけんなよ……」

「ンッ? 何がだ?」

「何、村を崩壊させてんだ」

「おおっ、その事か。それは、本当にすまんかった。何せ、力加減が――」

「加減の問題か!」


 怒声を響かせるワノールは、腰の烏の柄を握る。その行動に、苦笑するノーリンは、両手を胸の前に広げていた。


「落ち着かんかい。また、新しく村を興せばいいだろうが」

「簡単に言うな。そもそも、村を破壊する意味は無いだろう」

「仕方ないだろうが! それに、先に加減が出来んと言うた」

「まぁまぁ、争っていても仕方ありませんよ。それに、命が助かったならいいじゃないですか。村はまた建て直せばいいんですから」


 ニコニコと笑みを浮かべるウールが二人の間に割ってはいる。流石のワノールもウールが間に入ってしまった為、怒りを静めるしかなかった。ホッと胸を撫で下ろすノーリンは、静かに地に足を下ろす。改めて辺りを見回す。本当に酷い有様だ。我ながら加減の知らなさにあきれ返ってしまう程だった。

 呆れ返るノーリンをしかめっ面でワノールは睨んでいた。そんなワノールに苦笑いを見せるノーリンは、右手で頭を掻き、


「さて……どうしたものか……」


と、ぼやいた。

 冷やかな視線を送るワノールは、「知らん」と冷たく言い放ち、腕を組んだままソッポを向いた。そんな二人の様子を見て、ウールだけがクスクスと笑っていたのだった。

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